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170  命と向き合って / リドル

 

ユフィリア:

「もう、ケンカしちゃダメ! 怒るからねっ!」


 怒れるお子さまモルヅァートと、それに反応して『何、ガンたれてんだコラ?』とにらみ返すジン。そこにプリプリ怒っているユフィリアが参戦したことで温度的にぬるい状況に。


 即席で必要な魔法を創り出したり、必殺技に匹敵する威力の呪文をいくつも創り出しているモルヅァートだから、魔法のアイテムもそれなり以上のモノが作れそうなものだ。どうしてジンは突っかかるのか。いや、どうせならここで突っかかってくれた方が、お得な展開になりそうでラッキーだとは思う。ここまで強いドラゴンとは、普通ケンカできるものではない。


ジン:

「武器や防具ってのは、知識の結晶なんだよ。その時代に扱うことのできる素材と、職人の工夫とが、偶然を介して幾重にもに折り重なって生まれてくるものなんだ。んな簡単になんでも作れますみたいに言ってんじゃねぇぞ!」


 逆に知ってるから言ってしまう部分があるらしかった。僕はそっちまでは考えていなかった。知識がないから『そういうもの』として使わせていただくだけになってしまっている。


モルヅァート:

「そういうことか。人とは美醜の感覚も違う。細工の技や、手にした時の扱いなどでは及ぶまい。だが、魔法の扱いに関してはちょっとしたものだぞ?」


 モルヅァートが瞬間的にジンの怒りの原因を汲み取っていた。いくらチョロくても、元の知性レベルが違う。こういうところはお子様的な意味で外見不釣り合いだが、中身的に年齢相応のようだ。


モルヅァート:

「ドワーフの〈妖術師〉よ、名は?」

石丸:

「石丸っス」

モルヅァート:

「では石丸、その杖を見せるのだ。……〈万奏(ばんそう)の魔杖〉ではないな? 何故、〈レガート〉が掛かっている? どうしてこうなったのだ?」


 あっさりと見抜いていく。何が見えているのか分からない。そして関係ないところでジンの形成が不利になっていた。


ジン:

「いや、俺が角を折っちまって……」(汗)

葵:

『角を素材にして、杖として作り直してもらったんだよ』

モルヅァート:

「作りは悪くない。工夫も良い。しかし、よりにもよって火か……」


 杖を空中に浮かせると、少し離れる方向に歩いていく。魔法陣を展開させてドラゴン状態に戻るモルヅァート。


モルヅァート:

「「見ているがいい! 祭器に匹敵するその杖に『更なる力』を与え、このモルヅァートの力を(あか)してみせよう!」」


 魔法陣が皿を重ねるように天高く積み重ねるように展開されていく。100段どころではなかった。杖の上下に数百の光る魔法陣が一瞬で生み出され、降下、圧縮。杖が輝く力場に封じられてしまった。


Zenon:

「マジかよ……」

スターク:

「うらやましいんですけど……!」

ユフィリア:

「スゴーイ!!」


 やがて輝きが収まり、杖が出てきた。変わらない姿、で――?


ジン:

「……ん? おい、何か変わったか?」

アクア:

「形はそのままね」

石丸:

「失礼するっス。……これは?」

モルヅァート:

「「眠っていた〈万奏の魔杖〉の力を取り戻しておいた。威力に特化し、〈レガート〉といった性質に加え、我らが生み出した魔法も加えておいた」」

リディア:

「オリジナルの魔法ってこと?」

シュウト:

「それって、前に言っていた竜属性の?」

モルヅァート:

「「違う。アレだと杖が崩壊するのでな……」」


 竜属性とやらに不信感しか感じなくなりつつある。実在するのかどうかもだが、使った時に一体なにが起こるのやら? もう嫌な予感しかしなかった。


葵:

『じゃあ、何を追加したん?』

石丸:

「〈フレアテンペスト〉っスね……」


 それは1度くらったことがあった。レイドボスの必殺魔法をゲットしたことになるらしい。凄いなんて話じゃないと思うのだが……?


石丸:

「杖の基本性能も少し高まっているっス。〈万奏の魔杖〉の能力とはなんだったんスか?」

モルヅァート:

「「うむ、あらゆる属性の力を高めるものだ」」

葵:

『よく分からないけど、威力が増えるってことかな?』


 ――結論から言えば、基本性能の上昇分しか威力自体は増加していない。既に極限的な威力特化であったため、これ以上は増やしようがなかったとも言える。

 ただし、属性の強化により結果的な威力は高められている。

 敵が属性に耐性を持っていても、属性強化によってダメージを通し易くなっている。当然、弱点属性に対する威力増はとても大きく、結果的な意味で威力上昇という形に収まっている。


石丸:

「もうひとつだけ。〈フレアテンペスト〉はなぜ使用不能っスか?」

モルヅァート:

「「その魔法は、私に勝てたら使えるようになる」」

ジン:

「は? なんだそりゃ? んなケチ臭いこと言ってんのか」

モルヅァート:

「「〈万奏の魔杖〉の能力が失われているのは不当に不利な条件である。しかし〈フレアテンペスト〉は本来ならばあり得ない力だ」」

英命:

「察するに、火克金という弱点属性が関係していそうですが?」

モルヅァート:

「「……言っておくが、このモルヅァートは火炎にも高い耐性を誇る」」


 一瞬だけモルヅァートの目が泳いだ気がしたが、言ってることはたぶん本当だろう。防御も魔法防御も高くダメージが通りにくい。

 ジンのアーマーブレイクを一度見てからというもの、警戒されてなかなか当たらなくなっている。技が当たらないなどとジンでは考えられない珍事なのだが、どうも元の特技〈アーマークラッシュ〉の速度を真似る必要があるらしい。通常の特技なんてゆっくり振ってるようにしか見えなくなっている。


ケイトリン:

「そういえば、〈黒炎剣〉(コイツ)の追化爆発がこれまで3回発動したが、その全部が大きな爆発だった」

葵:

『ほうほう。てことはフレアテンペストのフレア(、、、)にも耐性がなさそうだよねぇ』によによ

モルヅァート:

「「……自由に考えればよい」」フイッ

ジン:

「ビビって使わせないって、んな威力、無えだろ?」

モルヅァート:

「「恐れてなどいない! ただそうみくびったものではないぞ?」」

英命:

「高いと言っても、1万点を多少超える程度なのでは?」

モルヅァート:

「「相手のサイズによって変動するようになっている。私に向けて使えば、もろもろ合わせて20万点を超えるだろう」」

リコ:

「すごっ!?」

バーミリヲン:

「逆にいえば、小さいモンスターへのダメージは減るということか?」

モルヅァート:

「「うむ。ゴブリンなどの小さなモンスターだと7000点ほどが上限となろう」」

レイシン:

「人間サイズだと1万点ってことだね」はっはっは

ジン:

「20万点もダメージありゃ、再使用規制時間も結構なもんだろ? いいじゃねーか石丸に使わせたって」

モルヅァート:

「「しかしそれでは死にたがっているようではないか」」

ユフィリア:

「そうだよね! 死にたくないよね!!」


 ここぞとばかりに喜色満面でユフィリアが割り込んで来た。慌てたのか、モルヅァートが言葉を切る。


モルヅァート:

「「ともかく! ……これでこのモルヅァートの力は証せた。あとの宝は、私を倒して得ればよい」」

ジン:

「……なぁ、いいのか? あんなこと言ってるぞ? 黙ってお宝を寄越すなら、戦って倒す必要なんてなくなると思わないか?」

ユフィリア:

「そうだよね。……ねぇ、モルヅァート?」

モルヅァート:

「「ダメだ!ダメだ! 何を言うか、ジン!!」」

葵:

『じゃあ、こうしよう! あたしらがモルヅァートをもっと倒したくなるように、欲しいアイテムをたくさん要求しておくの!』

モルヅァート:

「「なん!? だと!!???」」

スターク:

「それ、いい! 最高だよ!」

アクア:

「1人1点までにしましょうか」サラリ

モルヅァート:

「「待つのだ! お前たちは何を言っている!?」」


 もう、あらゆる手を尽くしてモルヅァートをイジメ倒す気ではなかろうか(苦笑) きっと戦って倒すより、心労で倒れる方が早いに違いない。

 えっと、どんなアイテムがいいだろう。いきなり言われても困ってしまう。無理は言わず、リアルにもらえそうな辺りを狙う作戦でいこう。


ジン:

「じゃあ俺、口伝の巻物な?」

モルヅァート:

「「なんの事だ? そんなもの聞いたことがないぞ!?」」

ジン:

「またまた~、トボケちゃって~」

アクア:

「寒くなってきたから、上から羽織れるコートをお願い。防御力高めで」

葵:

『あたしどうしようかなぁ?』

モルヅァート:

「「な、何を言っている? 本気なのか、お前たちっ!」」

スターク:

「杖っ! ボク杖だからねっ!」

ニキータ:

「どこでもお風呂に入れるアイテム、かしら?」

モルヅァート:

「「意味が、意味が分からない!」」

Zenon:

「姿とか気配が消せるマントとか欲しいぜ」

ジン&スターク:

「はいはいはいはい」ニマァ

Zenon:

「ち、ちげーぞ? そういう目的じゃないからな? 偵察とか行くだろ!」

ウヅキ:

「アタシは、触り心地最高の毛布でいい」

葵:

『安心毛布、乙!』

シュウト:

「ま、まだ引きこもるんですか?」

ウヅキ:

「んぁ? ちょっとツラぁ貸せコラァ?」

バーミリヲン:

「たくさん入るマジックバッグを」

Zenon:

「え? お前、そんなのでいいのかよ?」

バーミリヲン:

「地味だが便利だろう。生産ギルドだしな」

レイシン:

「ちょうど無水鍋が欲しかったんだけど、『無くならない燃料』の方が欲しいかもしれないなぁ」

リディア:

「やっぱりここはコンパクトな魔法の炉とかかなぁ? 魔法の砥石も捨てがたいんだけど。んー、炉で!」

シュウト:

「すっごく堅実だね」

クリスティーヌ:

「私は特には……」

ジン:

「そこは可愛いブラとか言うべきとこじゃね?」

クリスティーヌ:

「……自動サイズ補正があるから、この世界では困らない」

ニキータ:

(コクコクコクコク)

ジン:

「じゃあ、メイド服にしとけって。それでスタークを悩殺しよう」

クリスティーヌ:

「うむ。それは良いアイデアかもしれない」

スターク:

「ちょっ!? 変なこと吹き込まないでよ!」

英命:

「仕立てはこちらでしますので、魔法の生地をお願いします。反物で結構ですよ? 柄はお任せいたします」

モルヅァート:

「「む、むむむむむ……」」

リコ:

「あ、可愛いローブとかで大丈夫です……タクトは?」

タクト:

「魔法のツルハシが欲しい。良い鉱物と巡り会いたい」←サブ採掘師

ジン:

「石丸はどうするんだ?」

石丸:

「今、杖をバージョンアップしてもらったばかりっスが、弱点属性が分かる眼鏡などがあると組み合わせで便利っスね」

エリオ:

「高速の移動手段が欲しいでござる」

シュウト:

「魔法の矢が無限に使える矢筒とかでどうでしょう?」

ケイトリン:

「調教用の魔法の首輪、もしくは鞭がいいな。所有者の言うこと無条件に受け入れてしまうタイプの」ククク

葵:

『よし、決めた! 外観を自由に変更できるアイテム!使用回数無限!』

シュウト:

「あれ、でもそれって……」

モルヅァート:

「「お、お前たちはこのモルヅァートに何を期待しているのだ?!」」


みんな:

「「「お宝?」」」


 ハモった。そして絶句するモルヅァート。まぁ、ノリの良いことで。しかし大丈夫だ、みんな冗談だとわかってやっている(ハズ)。


ユフィリア:

「あのねっ、あのねっ! 私も欲しいものがあるの!」

モルヅァート:

「「ね、念のため、聞いておこう……」」

ユフィリア:

「うんとね。次のモルヅァートとも仲良くできないかな? そうなるようなアイテムを作って欲しいのっ!」


 根本的なとこすで問題を解決するために、モルヅァート自身の力を使おうとしている(笑) それはいくらなんでも反則だろう。


モルヅァート:

「「ぬぅ。……それは、次の私の自由意思を阻害しろということだ。つまり、私自身を呪えと言ってるのと変わりないのだぞ?」」

ユフィリア:

「ダメ? それって、いけないことなのかな?」

モルヅァート:

「「今のこの私があるのは、自由意思によるものだ。私は次の私の意思もまた尊重するべきだと弁えている」」

ユフィリア:

「そっかぁ。でも、きっと楽しいと思うの! それだったら、もしも私たちが勝てたら、どう? それなら私もがんばれるって思うの……!」


 ユフィリアの悲しい微笑みに、モルヅァートの心が揺れ動いてみえる。

 そうしてモルヅァートは低く慟哭かのように叫んだ。


モルヅァート:

「「……なぜなのだ! どうしてこの私を倒すのを躊躇う! 殺した後で、悲しむなどと、どうして想像する!?」」

Zenon:

「そりゃあ、だって、なぁ?」

バーミリヲン:

「うむ……」

モルヅァート:

「「私は弱いか? 取るに足りないものなのか?」」

ウヅキ:

「それはねぇけど」

エリオ:

「勝てるなどと安易に断言はできないでござる」


 身を起こし、僕らと対峙する金牙竜。真面目な話題にすこしばかり場が緊張する。


モルヅァート:

「「もし、本当にこのモルヅァートを打ち倒すことができたのなら、喜ぶべきであろう?!不可能を成し遂げたことになるのだぞ? 最高の栄誉となるべきなのだ!……屈辱だぞ! お前たちの態度は、私にとって大きな屈辱だ!」」

ユフィリア:

「ごめんね、ごめんなさい!」

葵:

『そりゃそーだわ。なるほど!』

ジン:

「あれ? 不可能がどうのって所でイラっとしたの俺だけ?」


 強いからだ。自分の強さに自信があるから、倒せたときの達成感が大きくなるものだと信じて疑わないのだ。僕らが倒せたとしたら、だから喜んで欲しかったらしい。

 モルヅァートとジンとが重なった。ジンとモルヅァート、どちらもそう変わらない。圧倒的に強すぎる存在だ。

 もしも、二度と復活できないなどの条件がなかったとしたら、僕だってシンプルに倒したいし、倒せたのなら、心の底から喜んだに違いない。



シュウト:

「……そうですね。もし、貴方を倒すことができたのなら、僕はずっと忘れません。忘れられないですよ。生涯、誇りに思い続けるでしょう」


 真っ直ぐ、改めて正面からモルヅァートの命と向き合う。それで今まではどこか避けていたことも分かった。ちゃんと考えたくなかったのだろう。自分が『命を奪う』という責任から逃れようとしていたこととぶつかってしまうからだ。それが、モルヅァートをイライラさせていたことも想像できた。


モルヅァート:

「「その言葉を待っていた。それこそ望んでいた言葉だ」」


 倒せる自信なんて欠片もないのだが、そうした弱気な言葉で空気をブチ壊す勇気も無かった。モルヅァートと分かり合えたような、心のつながりを感じる。『輝き』というのはこういうものも含まれるのかもしれない。


 今のこの時間が楽しいから、それが失われたなら寂しさや、悲しさが残ってしまうことを、モルヅァートは理解していない。不死の存在ゆえの、どうしようもない感覚の違い。なんらかの認識の盲点のようなものが、相互理解を阻んでいる。


シュウト:

(どうやったら、気が付いてくれるんだろう……?)


モルヅァート:

「「それとジン」」

ジン:

「あんだよ?」

モルヅァート:

「「手を抜くな。独りの方が遙かに強いではないか!」」

ジン:

「お前だって必殺技とかまだまだ隠してんじゃねーか!」

モルヅァート:

「「それは作戦の都合である」」

ジン:

「こっちだってそうだっつー。連携の都合だろ。独りで戦ってる訳じゃねぇんだ。同じ戦い方になるわきゃねーだろ」

モルヅァート:

「「違う戦い方になるのは理解できる。だが手を抜くなと言っている」」

ジン:

「ハァ? 1度でも殺してから言え。MPがあるウチは負けねぇぞコンチクショウ!」

モルヅァート:

「「なんと口の減らない!」」

ジン:

「反論に失敗したら今度は性格攻撃だぁ? 上等だバカヤロウ。……テメェら殺るぞ、準備しろ!!」

シュウト:

「ちょっ、さっき負けたばかりですってば! まだ再使用規制とかが」

葵:

『関係ねぇ。やるぞヤロウドモ!』


 結局、連戦して連敗記録を延ばしただけだった。

 戦闘終了後にジンだけ残って、MPが切れるまでモルヅァートとしばらく戦っていた。口では文句を言いつつも、2人(?)とも楽しそうだったので止めないでおいた。







 ――数日後。


ウヅキ:

「ふざけんな! テメェは何やってんだよ!?」

アクア:

「貴方にどうして、そんなことを言われているのかしら?」

シュウト:

「ちょっと、落ち着いてください!」


 喧嘩というよりも一方的に突っかかるウヅキを止めようと、シュウトが慌てていた。

 モルヅァートの指定した期限まで残り5日。それが、たった今、敗北して残り4日になった。


 何も無かったわけではない。むしろいろいろあった。ありすぎたぐらいに。ジンの訓練を受けて、葵の指揮が変わった。水に近づく感覚を幾度も経験した。段々と戦闘時間も伸びて、今では30分を超えて戦っている。それでも、モルヅァートには届かなかった。ようやくHPの5%を削った程度。それならジンが独りで戦った方がマシだったことになる。

 そうしていく内に、だんだんとウヅキとアクアの関係が険悪になっていった。


リコ:

「もう残り4日しかない。どうしよう?どうしたらいいんだろう……」

タクト:

「それもあるけど、ウヅキさんは、なんでアクアさんに突っかかっていくんだ?」


 誰にともなく呟くタクトに返答を返したのは英命だった。


英命:

「彼女がこの戦いの鍵を握っているからでしょう」

ジン:

「…………」

葵:

『…………』


 沈黙で肯定するジンと葵。英命の指摘は正しいと認めたようなものだった。


リコ:

「どういうことですか?」

英命:

「このチームは実力・才能ともに申し分ありません。どこの戦闘ギルドと比べても、見劣りすることはないと断言できます。しかし、ジン・葵の両名はその中でも『飛び抜けた存在』と言えるでしょう」

スターク:

「ジンがメインタンクで、葵が指揮でしょ?」

英命:

「そうですね」

Zenon:

「まぁ、異論は無ぇけどよ」

英命:

「そして、もう1人。アクアさんはこの2人に匹敵する巨大な実力・才能を秘めています」

タクト:

「だから、ウヅキさんは突っかかっている?」

英命:

「本人もうまく説明できないのでしょう。かなり早い段階から気が付いていたようですが……」


 視線だけで先を促す英命だった。


葵:

『まー、ここからもう1段ブーストかけるとしたら、どうしたってアクアちゃんしかいないんだよ。それは分かってるんだけどさー』

ジン:

「つまり、アクアのヤツが俺たちに遠慮してるって見抜いたんだろ?」

葵:

『どうするジンぷー?』

ジン:

「どうするったって、アイツにここから何ができるかだ。いま以上の援護歌ってどんなレベルだよ。むしろレベルブーストでも可能になるってのか?」


 結局、助けてあげることはできないようなのだ。アクア本人が自分で乗り越えないといけない問題、ということらしい。


モルヅァート:

「「話は聞かせて貰った」」

ジン:

「またか。お前を倒す相談してんだから、しゃしゃりでてくんなよ!」

モルヅァート:

「「フッ。このモルヅァートの叡智を借りたくて、この場で話し合いをしていたのだろう? ツンデレ、乙である!」」

ジン:

「いらん言葉なんぞ覚えやがって(ぐぬぬ)……誰だ、こいつにツンデレとか教えたの!」

葵:

『ゴメン、たぶんあたし~』

ジン:

「自分で叡智とか言ってんじゃねーぞ、この脱力トカゲ!」

ユフィリア:

「ジンさん、イジワルいっちゃダメ! モルヅァートだって仲間になりたかったんだよ?」

モルヅァート:

「「そ、その言い方は少し恥ずかしく感じるぞ」」


 脱力系のノリはどんどん加速していく。モルヅァートの未来がだんだんと心配になってくるほどだ。

 喧嘩しているウツギとアクアのところに『ぬっ』と首を伸ばすと、モルヅァートは短く問いかけた。


モルヅァート:

「「アクアに問う。……指揮とはなにか?」」

アクア:

「指揮……?」

モルヅァート:

「「そこに答えがあろう。その手に委ねられたものの価値を知るのだ」」

アクア:

「委ねられた、価値……?」

ユフィリア:

「難しいよー、もうちょっと簡単にー!」

葵:

『……いいの? そんなヒント出しちゃって』

モルヅァート:

「「無論だ。それで負けるモルヅァートではない」」ふんもっふ


 モルヅァートの謎かけ(リドル)を宿題に、アキバに戻るべく帰還呪文を唱える。


シュウト:

「どういう意味だと思う?」


 ギルドホームまでの道でシュウトが話しかけてきた。主語はなかったが、謎かけのことなのは分かる。ただ、ここで話すとすべてアクアに筒抜けになってしまう。彼女の問題を横から解決しようとしていいのかどうか、良くわからない。


ニキータ:

「そうね。委ねられたのは、〈炎爪の指揮棒〉のことだと思う。それをどう使うか?じゃないかしら」

シュウト:

「火克金だっけ……。でも、指揮は葵さんだから、どうしたら?」

ニキータ:

「それは……」

アクア:

「考えられるのは、コンサートマスターでしょうね。部隊の中から、指揮者をサポートする役割をしろ、という意味にも取れる。……でも、モルヅァートは『指揮とは何か?』と言った。だから違う気がするのよ。もっと根本的な、本質的な……」


 コンサートマスター(略してコンマス)は男性を表すので、アクアの場合はコンサートミストレス(略してコンミス)と言うべきだろう。


ジン:

「おいおい。アイツが小難しいことを知ってるハズねぇだろ。もっと簡単なことに決まってるって」

英命:

「ですが上位の奏竜です。音楽的なことは良く理解しているかもしれませんよ」にこり


 どちらの意見も、もっともなように聞こえる。意見を打ち消された形のジンはぐぎぎぎとなっているけれども。

 思考に沈むアクアに、エリオが話しかける。


エリオ:

「……指揮は2種類あるでござるね」

アクア:

「2種類?」

エリオ:

「軍隊の指揮と、音楽の指揮でござるよ」にこり


 日本かぶれでウハウハ言ってない時のエリオは、誠実な好青年タイプである。優しげな笑顔はアクアに対する思いやりに溢れていた。もし葵がここにいたら、ラブ臭を嗅ぎ付けたと冷やかしたかもしれない。


シュウト:

「軍隊の指揮ってどんなことをやるんですか?」

ジン:

「指揮統制とかっていうよな~」

石丸:

「コマンド&コントロールっスね」

ジン:

「本質はメタ認識による集団制御だな。一段高い視点から組織全体を管理・統制するっていう。指示だしの意味が強いんだろうけど」

シュウト:

「じゃあ、音楽の指揮って何をやるんですか?」

アクア:

「仕事としては本当にあらゆることをやるわ。演奏時に限っていえば、そうね。多人数の演奏の取りまとめ、になるかしら」

石丸:

「そちらは統率の語を当てている様っスね」

シュウト:

「統制と統率……?」


 よく似ている様でいて、色合いが微妙に異なっているようにも思える。集団や組織の目的であるとか性質の違いからくるものだろうか……?


ユフィリア:

「じゃあ、軍隊の指揮は葵さんがやって、音楽の指揮をアクアさんがやればいいんでしょ?」


 答えめいたものをあっさりと口に出してしまう。それがユフィリアでもあった。


シュウト:

「いや、だとしても、『どうやるか』が問題なんじゃ……?」

ジン:

「そういうことか。なるほどなー」

ニキータ:

「わかったんですか?」

ジン:

「たぶんな」

アクア:

「…………」

ジン:

「そうコエー顔すんなよ、メシの支度が整うまでまだ時間があるだろ」


 ギルドホームに到着。回収したドロップアイテムの後片づけを手早く済ませてしまう。

 2階ではイッチー主導で夕飯の準備が既に進んでいた。ここにレイシンとユフィリアも合流するのだが、やはり人数もそれなりに多いので、まだまだ時間が掛かる。その間に、葵を加えて半地下で打ち合わせをすることになる。


葵:

「んで? ジンぷーの答えは?」

ジン:

「アレだろ。定番の『指揮者の必要性問題』ってヤツ」

アクア:

「愚問ね。必要に決まってるじゃないの」

ジン:

「だろうな」

葵:

「だぁね。要するに指示出しはあたしがやって、引っ張り上げるのはアクアちゃんがやればいいってこった?」

アクア:

「ひっぱり上げる?」

ジン:

「永続式援護歌で引き上げてるのはキャラクターとしてのステータスだけだろ。そっちじゃなくて、プレイヤーのポテンシャルを引き上げるんだ。それがお前に求められている役割ってこと」

アクア:

「……簡単に言ってくれるわね?」

ジン:

「おう、当然だな。それって、たぶんお前にしかできないことだし」


 できるという前提で考えていた。アクアにならできるという確信。

 思わず言葉が口を衝いて出た。


ニキータ:

「えっ、と。具体的には、どうやって?」

ジン:

「そうだなぁ。……モーツァルトの指揮で評価が高いのって、誰だったっけ? カラヤン?」←カラヤンぐらいしか名前を知らない人

アクア:

「ブルーノ・ワルターやカール・ベームじゃなくて? 近年ならアーノンクールの名前があがるわね。カラヤンやフルトヴェングラーも当然演奏しているし、それから……」

ジン:

「す、すいませんでした。ワルターだったかも? ……そもそもの話として、モーツァルトは天才中の天才だ。その中心軸は宇宙の外、宇天外(うてんがい)まで貫いていると言われている」

ニキータ:

「150億とか160億光年とか言われている距離を、貫いているんですか?」


 考えられないほど、途方もない距離・長さということになる。今でも光速で毎秒宇宙は広がり続けているというが……?


シュウト:

「あの、驚かないんですか?」

アクア:

「何かと比較対照できないから、実感がわかないというのが正直なところね」

葵:

「ふむ。モーツァルトって天上の調べとか言われるけど、今の話が事実だとしたら、ちょっと面白いね」

ジン:

「事実かどうか俺には判断が付かないけどな。ともかくモーツァルトを表現しようとした時、ワルターでは『軸の高さが足りない』らしいぜ? たぶん誰がやっても同じだろう」

アクア:

「モーツァルトの本質的な能力は、中心軸の高さなのね?」

ジン:

「他にもあるけど、取り敢えずは」

ニキータ:

「軸の高さって、音楽的には何を表現しているんでしょう?」

ジン:

「あー、ピアノ曲なら聞き比べたことがある。縦に弾いてるのと横に弾いてるのぐらいは分かったけどな」

アクア:

「音の弾み方や、そこから生まれる全体の印象のことみたいね。……だけど知っていたかしら? 当時のピアノは、現代のピアノの半分しか鍵盤が沈まなかったのよ」クスクス


 楽しそうに笑うアクアだった。何が楽しいのか私にもさっぱり分からない。


スターク:

「それって、どう違ってくるの?」

アクア:

「さぁ、どうかしら? フェザータッチなのに大音量で弾いていた可能性もあるわね! ああ! 今すぐピアノを弾きたくて堪らない!」

ジン:

「……まだ音楽に餓えるか。お若いこって」

アクア:

「当然でしょう。貴方はモルヅァートと遊んで、もう満足してしまったの?」

ジン:

「莫迦を言うな。……けど、無限と付き合うのはそれなりにしんどいもんだろ」

アクア:

「楽しさの代償なんてそんなものでしょう? 貴方だって同じよ」

ジン:

「お前と一緒にすんなよ。これだから天才様は。あー、ヤダヤダ」


アクア:

「それよりさっきの話だけど。楽団員の1人1人にそんな中心軸の能力が必要だとしたら、とんでもない話になるわよ?」

ジン:

「そうだな。そんなのは無理、不可能だ。だから、指揮者が引っ張り上げるしかないんだろ?」

アクア:

「そこが問題でしょう。 ……一体、どうやってそこまで導けばいいのかしら?」

ジン:

「決まってる。全身の全部で。指揮もまた運動だろ? 立ち姿で、視線で、腕で、指揮棒を動かすそのちょっとした動作で。全身の全部で、宇宙の端まで届くような極大の意識を感じさせればいい。少なくとも、ワルターは超えて欲しいところだね」


アクア:

「〈炎爪の指揮棒〉で作る光の波紋で、レイドメンバーに影響を与えろってことね」

ジン:

「たぶん、それがヤツの言おうとした答えだ」

アクア:

「でも、……葵の指揮は芸術よ?」

葵:

「かめへんかめへん。芸術で勝てりゃ世話ないって(苦笑)」

ジン:

「究極的な話、葵は現場にいない。その場に居ないから客観性を保てるし、指示するのには向いている。でも、逆に仲間を盛り立てるのには向いてない。味方と同じに、体を張ってなきゃダメだ。それはお前の仕事ってことだろう」

葵:

「勝負しようぜ、アクアちゃん。胸を貸してやんよ。あたしは負けないからマジでやってごらん?」

アクア:

「あら、後悔してから泣いて謝っても遅いわよ?」


 指揮の運動自体の訓練が始まっていた。通常、指揮者は右手でテンポやアクセントを、左手で細かい曲想や強弱などを指示する。

 アクアは軸の高さから現れる縦の運動を極限まで磨き上げる気でいるらしい。腕の動かし方を研究し、没頭していた。


 アクアの模索が始まった。これが形になるまで、そう時間は掛からないに違いない。

 


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