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167  テンペストロード


バーミリヲン: 

「この“ストレット”というのはどういうものだろうか?」


 新しい武器が欲しいと騒いでいた僕たちの傍らで、バーミリヲンは〈竜翼人〉の使う武器について質問していた。

 身長その他がまるで違うため扱えず、あまり注目していなかった辺りだ。手のひらのサイズが違うので握りにくいところから始まり、長さも重さも許容範囲外とくれば、自然と目に入らず、記憶にも残らない。


赤い竜翼人:

『ストレットの魔法具は、力を他者と共有することができる』


 里のリーダー格らしき、赤い竜翼人がちょうど現れた。


シュウト:

「共有って、どういう感じなんでしょう?」

茶色の竜翼人:

『少し特殊でな。使用者自身に利益はない』

スターク:

「何それ? 使う意味あるの?」

赤いの竜翼人:

『そのためか、最近は里の者も使いたがらない』

葵:

『むぅ。竜翼人の里ですら、最近の若者はダメダメ展開か』

ジン:

「世も末じゃて……」ヨボヨボ


 ありもしないアゴヒゲをしごいているジンのヨボヨボごっこはスルーするとしても、なんだろう。何か言うべきような気もするけれど、じゃあ何か言える言葉があるのか?というと、特になかった。複雑な心境のまま、外を眺めようと、窓を探す。角度が悪かった。


バーミリヲン:

「どういう使い方をする?」

茶色の竜翼人:

『複数人で、利益を受け渡すものだ』

赤い竜翼人:

『使ってみれば直ぐに理解できる。……まず起点となるものが、ストレットの武器を持ち、魔法を行使したとする。その際、相手に傷を負わせつつ、自らの守りを高める効果があったとしよう』

バーミリヲン:

「フム」

赤い竜翼人:

『次にまたストレットを持つものが近くで同じ行動を繰り返すと、先の守りの効果を受け継ぎつつ、自らも同じく守りの力を生み出す事ができる。3人目になれば3人分の効果が生まれる』

英命:

「なるほど。4人目なら4人分、5人目なら5人分の効果を上乗せし続けることが出来るのですね?」

茶色の竜翼人:

『そうなる』

ケイトリン:

「2人で交互に使った場合は?」

茶色の竜翼人:

『2人目までで終わりだ。3人以上でもこれは変わらない』

アクア:

「『行為の模倣』が鍵になっているのね。やはり音楽用語のストレッタのことでいいみたいね」

シュウト:

「ストレッタ、って何ですか?」

Zenon:

「なんかで聞いたことあるような気がするんだがなぁ」

ジン:

「アッチェレランドにストレッタ、とか?」

スターク:

「ストリンジェンド、アラルガンド!」

Zenon:

「お!そんな感じのヤツだ。なんだか分かるか?」

ジン:

「俺が知ってるのだと、有名なエロマンガのタイトルだな」ニヤ

スターク:

「セト ユウキだよね」

Zenon:

「うぎゃあ! なんの罠だコノヤロウ!?」

ジン:

「わっはっは。ウカツなやつめ(笑)」


 ジン本人も一緒に罠にハマっている気がしないでもない。3人でちょっとゲスい3人衆を結成しそうな勢いである。


シュウト:

「結局、どういうものなんですか?」

石丸:

「緊迫する、と訳されるものっス」

シュウト:

「あの、……それはどういう状態なのでしょう?」

石丸:

「不明っス」←丸暗記しているだけの人

アクア:

「ストレッタなら平均律クラヴィーアの1番に出てくるじゃないの」

ジン:

「わかんねーよ、そんなもん」

アクア:

「……無教養ね」←ゴミを見るような目つき

スターク:

「そ、それはさすがに厳しくない?」


 クラヴィーアと言われたら、ゴーシャバッハの水の爆発攻撃『大海のクラヴィーア』しか思い付かない。


アクア:

「説明できるかしら?」

ニキータ:

「えと、カノンに似ているんですが、カノンというのは『かえるの歌』みたいな感じで次々と歌っていくものです。ストレッタは、次々と畳みかけるように重ねていくのは同じなんですが、音程を上げたり下げたりりします。日本だと、強迫や追迫といった言葉を当てる場合もあるようです」


 わかったような、分からないような。かえるの歌をみんなで歌い始めなかっただけでも、ここは良しとすべきかもしれない。


ウヅキ:

「とりあえず、〈アクセルファング〉を3人で使えば、3人目の速度バフが3倍ってことでいいんだろ?」

シュウト:

「それなら分かり易いですね」

バーミリヲン:

「確認したい。3人なら3番手の使い手は、ストレットの武器を持っていなくていいんだな?」

茶色の竜翼人:

『そうだ』

ジン:

「発信器と受信機で言えば、発信器だけでいいって代物か」

アクア:

「その意味では面白いわね。だから行為の模倣が強く求められる、とも言えそうだけれど」

バーミリヲン:

「譲って欲しい。出来れば2本」


 赤い竜翼人の顔色のようなものを伺っている。


赤い竜翼人:

『あのモルヅァートと戦うのだ。我々からも何か支援すべきだろう。……どうだ?』

茶色の竜翼人:

『使い手もいないし、よかろう。手直しが必要だな。長さはどうする?』

バーミリヲン:

「このぐらいの長さで頼む」


 バーミリヲンは自分の得物の両手持ちの剣を見せてそういうと、こちらに振り向いた。


バーミリヲン:

「で、どうする?」

シュウト:

「……僕ですか?」

葵:

『そっかそっか。3人いるのは〈暗殺者〉だけだもんね。で、何の技で使うつもり?』

バーミリヲン:

「〈デッドリーダンス〉だ」


 ここまで言われれば鈍い僕にも言いたいことが分かる。〈竜翼人〉ならば、種族が同じなので技だけ合わせれば、そのままストレッタされるのだろう。しかし〈冒険者〉の場合、特技を使う関係上、クラスまで同じでなければ模倣が出来ない。今のレイドメンバーで一番多いのが、僕たち〈暗殺者〉だった。3人目をウヅキにするなら、バーミリヲンともう1人、つまり僕がストレッタの武器を持てばいいことになる。


 ダガーにするか、ショートソードにするかで迷ったが、汎用性で長めのダガーにしておいた。〈ダガー・オブ・ストレット〉を入手。


ジン:

「結局、新しい武器まで手にいれやがって」

シュウト:

「僕のせいじゃないですからね」


 頭を小突かれそうになるのを笑顔で回避しておいた。







ウヅキ:

「なんだぁ? 意外とムズいんだな」

シュウト:

「ですね……」


 新たな力を得た僕たちは、モルヅァートに挑むべく意気揚々と竜翼人の里を後にした。道中で出会ったドラゴン相手に、3人で〈デッドリーダンス〉をさっそく試してみたのだが、さっそくつまずいていた。


 〈デッドリーダンス〉の技後硬直が1秒、追加の入力受付が2秒なので、計3秒の間に残り2人が入力すればいいことになる。当初は楽勝ムードだったが、やってみると意外と高めの練度を要求されることが分かった。

 素直に、バーミリヲン→シュウト→ウヅキと繋がれば問題ないのだが、ウヅキが僕を追い抜くとストレッタを使っていないため失敗になる。また別のパターンではバーミリヲンがウヅキ入力前に次の〈デッドリーダンス〉を出してしまったりする。3秒あると思ったけれど、実質的には2秒も無かった。

 さらに敵ドラゴンの攻撃を受けると吹っ飛んだりして時間をロスするため、なかなか思うように繋げられない。その辺りの避けたりの時間を工夫している余裕がないので、仲間達にフォローしてもらうことになる。

 〈デッドリーダンス〉を入力すると、バーミリヲンから光のエフェクトが僕のところに繋がり、続けてウヅキの所へと伸びていった。そうしてようやく4~5巡させられるようになってきた。


シュウト:

「リズムとかが重要っぽいですね……」

バーミリヲン:

「そのようだ」

ウヅキ:

「面倒だが、妙に手応えもあった。最後まで決まれば、そこそこダメージは出るかもなァ」

ジン:

「真ん中のシュウトが巧くやれば、巧く行くだろ」

シュウト:

「僕ですか?」


 助けて欲しいなー、ヒント欲しいなーの視線をジンに送ってみたけれど、笑顔でガン無視された。僕だけ武器を新調したのが気にくわないのかもしれない。僕のせいじゃないと思うのだけど。


 ドラゴンのはぎ取り終了で再出発の段になって、リコが発言した。


リコ:

「あの、私も試したい技があるんです。でも、まだモルヅァートには知られたくないので……」

ジン:

「ああ、じゃあ、ドラゴン探すか?」

リコ:

「お願いします」ぺこっ


 ちょっとだけ寄り道することになった。ミニマップでジンにドラゴンを探してもらうことになる。


タクト:

「どんな技なんだ?」

リコ:

「まだ使ったことがなくてアレなんだけど、……見てのお楽しみ?」

タクト:

「ふぅ~ん」


ジン:

「よし、見つけた」


 逃げられてしまわないように、でも竜牙戦士を避けて回り道する。

 戦闘準備しつつ、見つからない範囲で接近をかける。


リコ:

「直ぐに使いますので、なるべく敵を動かさないようにお願いします」

ジン:

「わーった。始めるぞ」

シュウト:

「はい」


 接近からヘイト獲得して、足止めまでをスムーズに行う。流れは何十度と繰り返しているので難しくはない。


リコ:

「いきます!」


 リコが詠唱を開始。たぶん、新しく手に入れた杖の能力なのだろう。そうなるとメテオ関連のはずだ。


リコ:

「〈シューティング・スター〉!」


 杖から力が放たれたような感じがしたのだが……?


ジン:

「うげっ!? 下がれ、急いで離れろ!!」

シュウト:

「えっ?」

ニキータ:

「ユフィ、こっちへ!」

ユフィリア:

「うんっ!」


 ギリギリまでドラゴンの足止めにジンが踏みとどまる。ドラゴンを無視してジンが見ている方向を確認すると、光る何かが飛んでくるところだった。サイズが分かりにくく、速度や距離がはっきりしないのだが、かなりのスピードに感じた。


ジン:

「ンナロッ!!」


 ジンが横っ飛びするのと同時に、ドラゴンの横っ腹に輝く隕石らしき物体がめり込んでいた。内蔵やら骨やらが潰れて、くぼんだ。もんどり打って数メートル吹き飛ばされるドラゴン。



 …………



アクア:

「なかなかエグい攻撃ね」


 平然と呟くアクアの声。誰もが何も言えないでいた。


葵:

『まだ生きてっぞ。トドメさせ、ジンぷー!』

ジン:

「仕留めにかかるぞ!」


 話したいこともいろいろあったが後回しだ。隕石攻撃で傷ついたドラゴンを倒しに向かう。かなりダメージを負っていたため、時間は掛からない。ちょっぴり可哀想な気もしていたのだが、その意味だと素早く倒すのは優しさかもしれない。


葵:

『……んで? 結局はメテオってこと?』

リコ:

「〈黄昏迫る明星の杖〉の能力で、〈シューティング・スター〉という特技です。ショートカットにメテオを登録すると使えるようになるみたいです」

ジン:

「だけどメテオの威力じゃねぇよなぁ。俺が相殺しても即死コースだったぞ?」

シュウト:

「そ、そんなにですか?」


 ジンにはブーストした〈竜破斬〉があるため、2万5千点ぐらいの攻撃は軽く相殺してのける。確実に即死させようと思ったら、諸々含めて、10万点近いダメージ量が必要になるハズだった。そうして考えると、ドラゴンのHPの減り具合から考えて、20万点ぐらいの威力があったような気がしてくる。


アクア:

「どういうことなの? 〈冒険者〉の瞬間最大ダメージ量を大きく逸脱しているわよ」

リコ:

「私にも何がなんだか……」


 瞬間最大ダメージ量は、〈暗殺者〉のアサシネイトというのが定説で、これがゲームバランスの目安や、基準みたいなものだと言われる。もうすぐ97レベルになるので、そこでアサシネイトの更新が予想されるけれど、最新版のアサシネイトにしたところで、3万点や、4万点のダメージ量になるわけではない。最高に希望的観測で上乗せしても2万点がせいぜい。実際にはそれよりも下がって、平均15000点ぐらいではないかと思われる。


ジン:

「どうだとか言われてもなぁ? 型月でいえば、セイバーの聖剣ぶっぱに近いような感じだったけど」

葵:

『対城宝具か。案外、それかも』

ユフィリア:

「タイジョウホウグってなぁに?」

ジン:

「お城をぶっ壊すための宝の魔法の武器って意味だな。たとえば、対軍宝具なら軍隊を叩きのめす魔法の武器ってことになる」

アクア:

「仮説としてはどうなの?」

葵:

『構造物破壊用なんじゃないかな。残鉄剣とか、ディスインテグレイトみたいな』

ジン:

「だとしたら、なんでモンスターにダメージがいくんだ?」

Zenon:

「バグじゃねーか?」

スターク:

「とりあえずバグで片づける風潮って、どうなの?」

リコ:

「それなんですけど、メテオの強化呪文だから、なのかも」

葵:

『どゆこと?』

リコ:

「今、〈シューティング・スター〉を使ったのに、メテオも再使用規制がかかってます」

ジン:

「ああ、メテオを利用してんのか。呪文を上書きするのか、呪文を強化する特技かなんかってことか」

葵:

「なぁ~る。メテオを使ってるからダメージが発生した訳だね。そりゃあバグっぽいな!(笑)」

英命:

「では、構造物を破壊するための特大威力の魔法に、対生物攻撃能力が備わってしまった、という流れですね?」

リコ:

「たぶん」

ジン:

「こないだのローマの時にこの呪文があったらなぁ……」

シュウト:

「城門を軽く壊せて、かなり楽だったのに……」


 こういうものは、欲しかった時には使えなかったりするものらしい。


スターク:

「でも、欠点とかありそうなカンジだけど? そういうのが無いと、なんか困るっていうか(苦笑)」

葵:

『動かない物体にしか当たらない勢いの命中率の低さとかかな?』

ジン:

「まぁ、避けるのはそんなムズくないしな。見てから何秒かある感じだったし」

英命:

「空から降ってきたことからすると、野外だけという可能性もありそうです。ダンジョンなどの室内では使えるのでしょうか……?」

リコ:

「とりあえず再使用規制が3時間です。メテオとは別に」

バーミリヲン:

「連射は利かないようだな」


 特大威力だが、それなりに使用制限がきつい感じなので、特殊な呪文という位置付けでまとまりそうだった。


ケイトリン:

「モルヅァートにはどちらにしても使えないな」

ニキータ:

「まず当たらないわね(苦笑)」

リコ:

「せっかくなので、なんとか工夫して、当てます! ……というか、当ててやるんだから!」轟っ

ジン:

「まぁ、いいだろ。ゴブリンの砦に打ち込んだり、艦隊戦で敵の旗艦に隕石かまして一発アウトにするとか、夢がひろがったからな(笑)」

葵:

『んだんだ(笑)。ラミネーションシンタックスかなんかと組み合わせて、リコ座流星群とか開発しよーぜ!』

シュウト:

「リコ座って……(苦笑)」


 構造物攻撃用なので、ダメージ上限が外れているようだ。バグっぽくもあるけれど、狙って当てるには用意とか作戦が必要な感じでもある。


 ――その後の調査により〈シューティング・スター〉のおおまかな性能が判明。

 再使用規制3時間。追尾性能なし&銃口補正なし。命中まで最短でも約5秒。対生物ダメージ約20万点(プロップ破壊のダメージ量は不明だが、人工物はほぼ破壊可能)







 そしてモルヅァートと戦うべくゾーンへ入った。

 とりあえず毎回のご挨拶からスタート。


ユフィリア:

「モルヅァート! 私たちの味方になって! トモダチになろう?」

モルヅァート:

「「その気持ちはありがたく受け取ろう。……だが、答えは否だ!」」


 このドラゴン、ノリノリである。


ユフィリア:

「そろそろ考え直して!ね、お願い!」

モルヅァート:

「「考え直すも何も、このモルヅァートこそ正しく、このモルヅァートこそ強い」」

葵:

『なん……、だと……?』


 挑発も織り込んでくる辺り、手慣れたものである。お断りする心苦しさの演技とかも、そのうちに始めそうな勢いだ。


ユフィリア:

「モルヅァートの分からず屋! 悪い子!」

モルヅァート:

「「むぅ。悪い子と言われるのは不本意だが、こればかりは仕方ない」」

ジン:

「じゃあ分からず屋の悪い子には、お仕置きタイムといこうかね」

モルヅァート:

「「そちらは望むところだ」」


 モルヅァートを釘付けにするべく、ジンが足を止めて向き合う。巨大なドラゴン相手にそんなことをしようと思えば、ヒーラーが少なくとも3枚は必要になるだろう。1枚でどうにかするべく、最小限の動きで防ぎ、躱し、相殺し続けた。

 ただ、当たり前というか、攻撃にまでジンの手が回らない。ダメージを与えるペースが極端に落ちてしまっている。それはそれで普通のタンクの姿ではあるのだけれど、今更なので違和感がある。


葵:

『魔法陣! 呪文くるぞぉ!』

モルヅァート:

「「〈ホーリーテンペスト〉」」


 一度見た攻撃が来たのは、はじめてだった。一撃なら凌ぐことも出来る。光・神聖属性の広範囲魔法攻撃。英命の張った障壁が弾け飛ぶのを感じつつ、僕らは懸命に堪えた。

 耐えきったと思った瞬間、続けて魔法陣が展開された。


スターク:

「ちょっ、連続!?」

アクア:

「ジン!」

ジン:

「うおらっ、〈天雷〉!……んだと!?」


 呪文を妨害するべく放たれた〈天雷〉。だったが、〈神祇官〉のダメージ遮断呪文に似たバリアで弾かれた。1点でもダメージが通れば、落雷でのスタン効果になるものが、完全に防がれてしまっている。

 モルヅァートの罠だった。ジンの動きを限定して対処してくる。〈竜破斬〉は障壁を無視するので、障壁があったことすらジンには分からなかったのだろう。


葵:

『マズい(笑)』

モルヅァート:

「「〈フレアテンペスト〉」」

石丸:

「〈ヴォイドスペル〉!」


 虚無の力場がモルヅァートの魔法攻撃を無効化した。しかし、嫌な予感は消えたりしない。ごくごく当たり前のように3度目の魔法陣が展開される。


Zenon:

「どうすりゃいいんだよ、こんなの!?(汗)」

モルヅァート:

「〈ブリザードテンペスト〉」

ユフィリア:

「〈オーロラヒール〉!」


 吹雪の嵐が吹き荒れ、それを打ち消すようにオーロラの輝きが僕らを癒し、守った。どういう処理になっているのか分からないが、〈ブリザードテンペスト〉の威力で死ぬ前に、強引に回復させているようだ。地味に神業だったりするんじゃなかろうか。


ジン:

「攻めろ!!」


 ジンがほえた。破れかぶれか、死中に活か、はたまた根性論なのか。レイシンに続いて、ウヅキ、ケイトリンと、数人が飛び出していく。

 それで始めて、心が負けていたのに気付いた。もうさっと降参して、また次でがんばればいい。……そんな負け犬根性が癖になってしまいそうだった。

 弱気を振り切り、いけないと分かっていたが、目に力を込める。ジンが〈竜破斬〉を使わずに攻撃している。モルヅァートの障壁を削ろうとしているのだ。……障壁が無くなれば〈天雷〉で魔法攻撃を阻害できるからだろう。破れかぶれどころか、極めて真っ当な、合理的選択でしかなかった。ああした心のタフネスに舌を巻く。


葵:

「アタッカー、側面に回り込むように!」


 次の魔法陣が展開される。モルヅァートが相手だとたかだか5分保たせるだけで命がけの全力が要求される。

 その内に一度ぐらい死ぬだろうと思っていたが、今日がその日になりそうだった。ぼんやりと未練めいた感情を覚えていた。

 せめて残弾を残さずに死のうと考える。


シュウト:

「〈乱刃紅奏撃〉!!」


 龍奏弓から『瞳』の魔弾が乱れ飛び、モルヅァートの障壁を破壊した。しかし、今回〈天雷〉は間に合わない。


英命:

「〈四方拝〉!」

モルヅァート:

「〈ブラストテンペスト〉」


 英命の緊急呪文で再び障壁を展開した直後、轟音を伴う稲妻の嵐が吹き荒れた。モルヅァート自身を巻き込むように使われた呪文は、側面から切りつけていた味方までまとめて打ち据えている。四方拝の障壁はどうにか砕けずに残ったが、その耐久値はほとんど残っていないだろう。


アクア:

「自身を巻き込んでの魔法攻撃?」

葵:

「そっか……。 うーん。 はい! まいったー、降参、こうさーん!!」


 次の『なんとかテンペスト』用の魔法陣を引っ込め、モルヅァートの攻撃がストップする。今回も負けで戦闘終了。

 大体のところ安堵の気持ちが強い。しかし、側面のアタッカーが舌打ちしているのが聞こえたりしている。なんというか、強気だ。



モルヅァート:

「「全体の移動速度が上がっているようだ。そこから改善してくるとは思わなかったぞ」」

ジン:

「まぁな」


 見抜かれている。ジンは不満げに言葉少なく応じるに留めていた。モルヅァートの感想コメントは続いた。


モルヅァート:

「「しかし、戦術的に移動速度を活かせてはいないな。それと、ユフィリア」」

ユフィリア:

「なぁに?」

モルヅァート:

「「〈ブリザードテンペスト〉をどうやって防いだ? 予定ではあそこで8人倒れると予測していたのだが?」」

ユフィリア:

「うーんとね。間に合わせよう!間に合わせなきゃ!って思ったの」

モルヅァート:

「「……それだけだろうか?」」

ユフィリア:

「うん。そうだよ」えへ


 脳天気というか、何も考えていないというか。結局、ただのバカなのだろう。けれど、ただのバカだから『弱い』とか『下手』となる訳でもないらしい。世の中は理不尽だと思う。……それともモルヅァートほどの知性があれば、ユフィリアの内面世界を理解できたりするのだろうか?


ジン:

「名前を付けるとしたら、『ゼロ・カウンター』とかになるんだろうなー」

アクア:

「〈施療神官〉の特性と一致しているのもポイントかも。ダメージ直後、究極の反応回復ね」


 ジン達がそんな言い方をしていると、さぞや凄い技に感じる。確かに神業なのだが、そんな大層な話ではなさそうな、ような? ……いや、誰も真似はできないんだろうけれど、ユフィリアにとっては、そんなに難しくなさそうに思える。やっぱり理不尽だ。


スターク:

「ところで、今の魔法攻撃、いったい幾つあるのさ?!」

モルヅァート:

「「うむ。通常の6属性に加えて、竜属性もある。すべてモルヅァートの考案した独自の魔法だ」」ドヤァン

英命:

「察するに、以前のモルヅァートが開発に関わっているようですね」にこにこ

モルヅァート:

「「明察である。竜属性以外は、以前のモルヅァートが生み出したものだ」」

ジン:

「その竜属性って何なんだよ。モンハンかっつー」

モルヅァート:

「「知りたいか? 知りたいであろう?」」

ジン:

「いいえ、結構ですぅ~」

モルヅァート:

「「なんだと? 我慢をしているな? 本当は知りたくてたまらないのだろう?」」

ジン:

「別に知りたくありませ~ん」

葵:

『ジンぷーはともかく、あたしは知りたいかな。教えて?』

モルヅァート:

「「そうだろう? 知りたいであろう」」

ジン:

「ばっか、葵」

葵:

『誰がバカだこのヤロウ』

シュウト:

「……それで、竜属性ってどういうものなんですか?」


モルヅァート:

「「それはだな」」

シュウト:

「それは?」

ユフィリア:

「なになに?」



モルヅァート:

「「秘密である!」」




ジン:

「……ハラ減ったな、メシにすっかー?」

レイシン:

「どこで食べようか?」


 戦闘の後片付けをして、次の予定を確認。やることはたくさんあるのだ。モルヅァートの冗談に付き合ってやる暇はない。断じてない。


 基本状態が『ボッチ』のドラゴンだけあって、お寒いジョークを華麗にスルーされ慣れていないのだろう。無視されていることに気がついて、どうしていいのか分からずに狼狽え始めた。こういう軽いノリの会話でドラゴンに勝ち目があると思うなよ(怒)とか思いつつ、モルヅァートの方を見ないようにする。


モルヅァート:

「「怒ったのか? ……怒ってしまったのか?」」


アクア:

「さっさと移動しましょう」

リディア:

(アハハ、ひどい(笑))


 ゾーンを出ようとズンズン歩いていくと、飛び上がったモルヅァートがダイブを決めて眼前に出現。もの凄い高機動なのだが、音としては極めて静かだった。


モルヅァート:

「「怒ったのなら、謝罪しよう」」

ジン:

「そこどけよ。邪魔だろ、外に出られないだろ」


 平然と僕らを殺しにかかる癖に、怒らせたと思ったら謝罪するという。冷静に考えると、その感覚があまりにも狂い過ぎていて、どう感じればいいのかよく分からない。

 一方のジンは、レイドボスに邪魔とか平然と言ってしまう有様だ。ゾーンからの脱出を邪魔するのもレイドボスの仕事かもしれない。そう思えば、今は単純に全滅の危機とも言える訳であり、リディアに〈フリップゲート〉の用意をしてもらうべきか?とか頭の中では考えていたりもする。



モルヅァート:

「「何をそんなに怒っている?」」

ジン:

「なんだっていいだろ」

モルヅァート:

「「やはり、秘密を知りたかったということか!」」むふん

ジン:

「だいたい、そんなもん本当にあるのかよ……」ボソ

モルヅァート:

「「あるとも! 私は嘘を付かない!」」

葵:

『はい、ダウト! それがもう嘘じゃん』


 なんだかなー、なんなんだかなー、なんだかなー。


ユフィリア:

「もういいでしょ! モルヅァートいじめちゃダメ!」

ジン:

「なんだよ。もうちょっと拗らせたかったのに」

モルヅァート:

「「……待て、今のはどういうことだ? 説明を要求する!」」


 なんだかんだ言いながら、友情を育んでいるような気がしないでもない。本当の本当のところ、どうするつもりなのだろう……? なんとなく、最後には倒してしまうのだろうと思っていた。けれど僕自身、だんだん本気で分からなくなりつつあった。


 結局、この時もモルヅァートに見せつけるようにして昼食を食べることになってしまった。

 


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