150 火聖の竜 / 万華鏡
葵:
『いけいけ~! まず最初の大ヒールまで削っちゃって~!』
シュウト:
「了解です!」
空撃ちでプロックだけを飛ばしていた弓に矢をつがえる。
ここからの展開はすべて初見になるだろう。黒い霧が剥がれたことでテンポが変化するかどうかも分からない。ダメそうなら撤退も考えなければならないが、次にまた同じように戦える保証はない。あの黒い霧が再び発生し、それが万一剥がせなかったら終わりだ。可能なら倒しきってしまいたい。細心の注意を払わなければならない。
シュウト:
「葵さん、指揮をお願いします!」
葵:
『わーった。あたしがやるからには、勝つよ!』
アクア:
「私がいるのだから、勝つに決まっているでしょう?」
ジン:
「ゴチャゴチャとうるせぇンだよ! 前立ちしてる身にもなりやがれ!」
ビートホーフェンの通常攻撃|(いわゆるオートアタック相当のもの)は苛烈だった。巨大で凶悪な爪をもつ発達した前足|(ほぼ腕)を振り回し、衝撃波を飛ばしてくる。こんな時はアタッカーで良かったと心の底から思う。範囲攻撃化されているので、近付けば巻き添えを喰らうことになる。ジンは相変わらずの異常な防御性能で、ダメージを最小限に食い止めていた。
ユフィリア:
「〈シールドパクト〉!」
ニキータ:
「ユフィ、危ないからもう少し下がって!」
ユフィリア:
「だけど、ジンさんの近くにいないと~」
ジン:
「まだ平気だ。下がっとけよ」
リコ:
「ルーク! あの人に癒しの力を!」
リコの呼び出した〈ホーリー・エルク〉が、ジンに脈動回復の魔法を重ねる。アクアの〈慈母のアンセム〉、ジン本人の超再生能力と合わせると、これだけでもかなり高水準の回復力を維持できてしまう。あとは必殺攻撃の時に、回復や障壁を重ねて対処すればよさそうだ。
シュウト:
「……あれっ? 召喚生物の自動魔法って、任意だっけ? 何か命令に従ってるような?」
リコ:
「命令してないよ。『お願い』しただけ」
シュウト:
「えっ? でもユニコーンの場合だと、HPが一定値以下の時に……」
リコ:
「だって、家族だもん」
シュウト:
「…………」
そんなのあり?と思ったけれど、けっこう融通が利くのかもしれない。〈大災害〉後だし。異世界だし。召喚生物も生き物だし。ペットじゃなくて家族だとか言い切ってるし。(うん、そういうことにしておこう)
Zenon:
「硬ってぇ~!」
エリオ:
「本当に硬いでござるねっ」
攻撃スタンスでアタッカーにシフトしている〈武士〉の2人が、ビートホーフェンの物理防御力に難儀していた。〈盗剣士〉の2人は防御力に左右されないダメージマーカーの設置を始めている。
ジン:
「おっとっと。新技、新技っと」
大きく振りかぶると、ゆっくりめに振り下ろした。とはいえ、あくまでも当社比というヤツで、『ジンの攻撃にしてはゆっくり』といった意味だ。
ジン:
「〈アーマーブレイク〉!!」
……というか、流石に物言いがついた、というか、僕がつけた。
シュウト:
「って〈アーマークラッシュ〉じゃないですか! 重武器専用技の!」
ジン:
「るせー、時間ないからさっさと攻撃しろ!(早口)」
シュウト:
「……え?」
Zenon:
「ウオーッ、メッチャ(ダメージが)通るぞ!」
ウヅキ:
「どれどれ?」
エリオ:
「(ガガギン)……むっ? 元に戻ったでござる?」
石丸:
「約8秒っスね」
〈大規模戦闘〉中にも関わらず、沈黙がその場を支配した (……気がした)。
葵:
『えーっ? たった8秒~?』
ジン:
「『たった』とか言うなー!!!」
スターク:
「あぶっ! あぶっ!?」
振り返って叫ぶジン。その脇をビートホーフェンの攻撃が通過して、スタークの近くに飛んでいった。
ニキータ:
「ジンさん! 避けないでください!」
ジン:
「だって、よける方が楽チンなんだもん♪」
葵:
『だもん♪ じゃねーよ!イイ歳こいたオッサンがぁ!』
ジン:
「うっせーよ!(ヒョイ) あんなんでも2ヶ月もかけて開発した力作だったんだぞ!(ヒョイ)」
Zenon:
「だから、危ねーって!」
ウヅキ:
「こっち来ただろうが! テメェ、避けんな!」
エリオ:
「……どうやったら、ロクに見もしないで避けられるでござるか?」
シュウト:
「もう『そういう人だから』、としか……」
ゲーム時代だったら操作キャラがそこまで機敏に動かなかった訳で、当然のように回避などできるはずもない。本来、回避とはただ回避判定のことを言うのだ。それに成功すれば『避けていたこと』になるという代物だ。
ジンがやっているのは、ミニマップと連動した回避行動なのだろう。仲間達はジンへのブーイングで溢れかえっているのだが、よく見ればユフィリアに(だけ)は危険が及ばないようにしていた。図々しいというのか、殊勝な心がけというかは、見る人の主観によって決まる気がする。
実際のところ、ビートホーフェンの強さは、ショーンペイルの比ではなかった。ゲームで考えたら、参加24人全員100レベル到達が前提だろう。その上で何度も挑戦し、攻略を練り上げて行かなければならない。
前半の今のうちはまだいい。後半になればまともに文句も冗談も言えなくなってしまうはずだ。
葵:
『ジンぷー、てめぇ仕事しろ!』
スターク:
「そーだ、そーだぁ!」
ジン:
「ケッ、働いたら負けだと思うねっ」
エリオ:
「……その気持ち、拙者にもよくわかるでござる(涙)」
シュウト:
「そんなこと言ってる場合じゃないですってば!」
ユフィリア:
「もう、みんなダメだよ。ジンさんだって生きてるんだよ。友達なんだよ!」
ジン:
「……俺はオケラか? それともアメンボだってか?」
ニキータ:
「何の曲だったかしら?」
石丸:
「手のひらを太陽にっス」
この後、唐突に合唱が始まったりした。流石にアクアは外国人だから分からなかったようだ。レイド中に揉めたり遊んだり歌ったりしているのもどうなのだろうと思わないでもない。それにしても、ユフィリアの頭の中では、なぜそんな曲が流れていたのだろうか。相変わらずの混沌っぷり。
ジン:
「やべ」
そろそろ必殺攻撃がくる頃だろう。そう注意を促そうと口を開きかけたところで、ビートホーフェンが飛び上がった。バックジャンプからブレスの体勢に入って……。
ニキータ:
「ブレス・モーション!」
火属性だろうブレスが、コンパクトなモーションから『地面に向かって』吐き出されていた。Emperor、皇帝の名を与えられたブレス。
ジン:
「ほいっと!」
滑り込んだジンが、〈竜破斬〉ではたき落とすように相殺。威力の余波、凄まじいエネルギーが、そのまま蒸発して消えていった。
ジン:
「今のヤツ、俺が間に合わなかったら叢雲しろ」
Zenon:
「わかった」
エリオ:
「承知!」
葵:
『経験済み? 範囲は?』
ジン:
「飛んでる足元まで余裕。けっこー痛かったな」
アクア:
「広いわね」
ざっと見た感じで直径30m近くになる。この攻撃が問題なのはヘイトトップと関係ない場所への着弾という点だ。つまり、ジンの相殺が間に合わない可能性が十分にあるということになる。
葵:
『着弾ポイント、どうやって決めてんだろ? 対策できないっかな?』
ガツンと脳天に一撃くわえられた気分になる。着弾点がヘイトトップとは別の地点になるという『そういうもの』として決めつけてしまおうとしていた。葵の何気ない呟きは、そうした思考停止を許さなかった。
スターク:
「ところで、両手の爪を振り下ろすヤツがこないんだけど?」
前回戦った時、ジンが片腕分だけ相殺したものの、凄まじい威力で地面を引き裂いた必殺攻撃『運命』。あれも危険度は最大級だろう。一体、いつくるのか?とビクついてしまう。
シュウト:
「使用順が交互とか、ランダムなのかも?」
アクア:
「着弾点の決定と関係があるのかも知れないわね」ニヤリ
思考停止を悪いことだと言う人がいる。そうした話は大学でも耳にしていた。考え続けることの大切さが謡われることは多かったけれど、どこか自己啓発的な胡散臭さが漂う話題でもある。分かってはいるけれど、そんなに強調するようなことだろうか?などと思ってしまう。けれど、葵が実践していたものを見て、初めて『それ』の威力が分かったような気がした。
何より、葵は『頑張って』などいない。ナチュラルな状態での、思考能力の差。自分よりも頭が良い人という存在。ねじ伏せられたことでの麻痺するような感覚。
シュウト:
(こわいなぁ……)
ジンのものとも違うその強大さと敗北とに、慣れてしまいそうなのが怖い。むしろ、こちらの方が負けっぱなしでもいいかも?などと思ってしまいそうだ。
ケイトリン:
「フフッ」
クリスティーヌ:
「クッ!」
前線のケイトリンが何かをやっていて、クリスティーヌが困惑している様子だ。2人とも〈盗剣士〉である。仲良く共闘すればいいものの、生憎とケイトリンの方はそういう性格ではない。もっとずっと『悪趣味な人間』だ。
シュウト:
「何をやってるんですか?」
ウヅキ:
「あの女、ダメージマーカーを『重ねて』やがる」
両手剣を装備したバーミリヲンが、ダメージマーカーの上からビートホーフェンを攻撃する。すると、2重に設置されたダメージマーカーが同時に起爆してダメージを与えていた。
ユフィリア:
「凄いねっ!」
シュウト:
「本当に、出来るようになったのか……」
〈大災害〉の後、〈シルバーソード〉で訓練を始めたはじめの頃から、ケイトリンはダメージマーカーを3つ重ねて、ひと突きで起爆させる練習をしていた。何の意味があるのか分からなかったが、手慰みというか、癖のようにそればかり繰り返して練習していた。
簡単か?と言われれば、答えはノーだ。0.5センチでもズレていれば、ほぼ重なっていようと片方のダメージマーカーしか起爆しない。かといって敵が止まったままで居てくれる訳ではない。動いている敵に、正確に命中させなければならない。
クリスティーヌが放ったダメージマーカーに対して、寸分違わぬ位置にマーカーを重ねていくケイトリン。一朝一夕では、到底身につくことはない技術。クリスティーヌがその練度・実力差に萎縮し始めていた。
巧妙なのは、当たるときにしっかり当てていることだろう。敵の動きが激しくて当たらないと判断すれば、まったく別のポイントに設置していた。こうした態度がより精度を高く見せている。
ダメージマーカーを重ねることによるダメージ増加などがあるかどうかは分からない。ビートホーフェンのHP量が膨大過ぎるため、ゲージ減少量での判別は不可能だからだ。それでも、炸裂時のエフェクトは明らかに大きくなっている。
〈暗殺者〉の〈グリムリーパー・スタイル〉|(武器を両手持ちしている状態)だと、ダメージマーカーの起爆ダメージが増加する特典がある。そのことで、ダメージマーカーの起爆はウヅキ・バーミリヲンの2人に任せようという流れに変わりつつあった。僕が起爆したら『勿体ない』ため、自然と狙わないようになるからだ。同地点設置の利点は、起爆に掛かる攻撃回数を減らす意味合いもある。素早くダメージを与えられるのだから、起爆係を厳選する傾向は加速する。
ケイトリンは精緻なダメージマーカー設置能力でもって、レイドの流れを部分的にせよ、動かしてみせた。生真面目なクリスティーヌは実力不足を認めてしまい、ケイトリンの半ば手駒のようになっている。そこまで大きな差があるわけでもないだろうに。……まさしく彼女の『悪趣味な才能』のなせる技だった。
葵:
『よーし。そろそろヒール来るハズだから、出力コントロ~ル。みんなさがってちょ』
シュウト:
「了解!」
アタッカーが後退し、ジンが盾をしまって前へ。
葵:
『いしくんに合わせて射撃系攻撃、やっちゃってー』
ヒール阻止に失敗するとやり直しなので、少しばかり緊張してくる。
石丸の魔法に合わせた遠距離攻撃が決まった次の瞬間、天地を貫く雷光が疾った。
ジン:
「〈天雷〉!」
シュウト:
「……えっ?」
ジン:
「うしっ、成功!」
シュウト:
「いや、その、ヒールのモーションとかは?」
ジン:
「ん? 今、魔力がウワァ~って感じになっただろ?」
シュウト:
「はぁ…………」
モーションを盗んだとかじゃなかったらしい。ユフィリアの内面もカオスだけれど、ジンに見えている世界も相当アレな気がしてきた。少しだけ経験したものを思い出しても、相当アレだった気がする。
葵:
『一応、背中ンとこが光ってたけど、……アタッカーの位置からじゃ見えないかもねぇ』
スターク:
「え、そんなのってズルくない?」
アクア:
「ゲーム画面でなら、どうかしら?」
ユフィリア:
「そっか!」
シュウト:
「なるほど(苦笑)」
ゲーム時代とは視点の位置が違っているのだ。今は自分の目で見える範囲がそのまま見えている。ゲーム時代は、キャラクターの背中を見ながら操作する『少し俯瞰の入った視野』が基準になっていた。ゲーム時代に準じて考えるなら、『キャラからどう見えるか?』などを考慮していたとは限らない。そんなことまで考える必要など無かっただろう。
葵:
『つか、ジンぷー』
ジン:
「あんだよ? 単純所持禁止」
葵:
『人をポルノ呼ばわりすんな。……何割で戦ってる?』
ジン:
「んー、5~6割ってトコか?」
反応は人それぞれだったが、苦笑いするしかなかった。
ソロ戦闘に特化しているので、強さのすべてをレイドで発揮できる訳じゃない。
葵:
『やっぱな。ステ高いだけの、雑タンクだと思ったら』
ジン:
「周りが弱いんだからしょうがねぇだろ。ボトルネックにでもならない限り、100パーなんか出せないっつー、の!」
石丸:
「制約条件の理論っスね」
轟々たる唸りをあげて振り回される竜の腕。その先端で鈍く輝く巨大な爪をかいくぐり、〈竜破斬〉を叩き込む。そう表現すれば容易く聞こえても、生半可な実力で出来ることではない。
シュウト:
「制約条件?」
石丸:
「渋滞理論とも呼ばれているっス。制約、ボトルネックを中心とした全体最適を行うものっス」
英命:
「そうですね。稼働率で考えれば、70%が目安かと」
ユフィリア:
「レイド中にむつかしいおはなししたらダメー!!」
ユフィリアの言うことももっともだと思う。
葵:
『よおし。……やったろうじゃんか』
ぺろりと舌なめずりする気配。やると言っても、どうするつもりなのか。唐突に実力を増幅させられるハズもない。
葵:
『シュウ君は左に3歩、バーミリヲン出力アップ。ダーリンは後退』
矢継ぎ早の指示。しかし、目的や意図が読みとれない。
葵:
『ウヅキちゃん下がり。くるよん』
尾での薙ぎ払い。時計回りの攻撃は、しかし右翼側のメンバーは後退済みで難なく回避でき、左翼側には反応する時間が十分にあった。
シュウト:
(……なんでだろう?)
葵:
『ダーリン、そこで一発喰らって。ジンぷー、それ避けろ』
ジン:
「ほいよ」ひょい
レイシンがダメージを受ける。それを回復させる。ヘイトを下げているのだろうが、何をしているのか目的も理由もわからなかった。
こうしたことが何度も続いていった。いつの間にか中央にスペースが生まれていて、それでうまく回避できたりする。でも余計な回復の影響でポジション変更しなければならなくなったりもする。
論理的な整合性があったと分かるのは、結果が出た後、もしくは結果が出る直前なのだった。
スターク:
「これって、効率いいの?」
バーミリヲン:
「わからない。が、何かパズルを見ているような」
英命:
「…………」
バラバラに積み上げられたパズルが、どこか遠くでかみ合って連鎖しているのに近い印象だった。正解の実感がない。効率がいいのかも分からない。でも、成立はしている、気がする。
葵:
『よーし、全員、全力攻撃、8秒間いっくよ~っ。ジンぷー!』
ジン:
「ほいよ。……〈アーマーブレイク〉!」
訳の分からないまま8秒間の全力攻撃を敢行。ここだけは分かり易い。防御力の低下したビートホーフェンに強打を叩き込む。あっという間にフル・アタックの時間は終わった。
Zenon:
「よっしゃあああ!」
リディア:
「……これってもしかして全力管制戦闘なんですか?」
クリスティーヌ:
「世界でも数人しかできないと言われる、あの……?」
スターク:
「ウチにも出来る人がいないというか、必要がないというか……」
エリオ:
「ふむ……?」
ジン:
「いや、違う」
葵:
『ちがうよーん』
おどけて笑っている風の雰囲気。なにがどうなっているのか分からない。
英命:
「ところどころ、論理的な整合性を破壊する動作が入っていて、組立てが成立しません。つまり、アドリブ・即興戦闘ということになりますが?」
レイシン:
「そうだね。コレを『カレイドスコープ』って呼んでるよ」
――カレイドスコープ。
日本語で『万華鏡』。葵の特異能力。戦闘指揮の方法論のひとつ。
そもそも〈大規模戦闘〉とは何か、その難しさはどこにあるか?といえば、『敵が強いこと』が問題なのではなく、集団戦を行う『人間』の話になる。人はバラバラに考え、バラバラに動く。このため多人数で連携を行うことは至難の業だ。自分勝手に動くことを制限し、効率的な、ある程度決められた動きを行う訓練をすることで成立させるのが一般的であった。
たとえばシロエの行う全力管制戦闘は、戦闘を文章から物語へと読み解き、緻密にして長大な予測を遙か未来にまで渡って行き渡らせることで成立させている。シロエが戦闘という物語を見通すことで、レイドメンバー達は台本を与えられた役者のごとく、舞台でそれぞれが(シロエに見通された範囲で)『自由に』活躍できるようになる。
一方、葵の『カレイドスコープ』は、やっていることの性質が真逆であった。アドリブやジャズセッションに近い。方法論としては全力管制戦闘にカテゴライズされるが、レイド戦闘をオーケストラに例えたならば、譜面を捨て去ってしまう行為だった。
シュウト:
「……結局、どういう意味のある技なんですか?」
葵:
『考えるな、感じろ!ってことさっ』
ジン:
「あー、『女のやることはワカラン。けど、なんか巧くいく』という非論理的な、“感覚型レイド”だ」
シュウト:
「それって、どういう……?」
レイシン:
「よくわからないんだよ」はっはっは
余計に不安になりながらもレイドは続いていく。
しばらくパズルをしたら、フル・アタック。またパズルをして、フル・アタック。これが幾度も繰り返された。葵の指示にどんな意図があるのか読めないので、下手なことは出来ない。正直なところ、僕は早く次のフル・アタックが来ないものかとばかり考えていた。理解できるのは『そこだけ』だったからだ。
幾度もビートホーフェンの必殺攻撃を凌ぎ、掻い潜った。ジンの相殺が間に合わない場面もあったが、Zenonの〈叢雲の太刀〉と英命の障壁で全滅を阻止する。
ジンの動きは少し良くなっていた。範囲化した通常攻撃を躱し、攻撃を叩き込む動きは苛烈そのものと言ってよいだろう。
カレイドスコープのことで頭を悩ませている間に、いつのまにやら残り体力ゲージ3割に到達しようとしていた。ビートホーフェンは巨大ヒール持ちなので、総HPはそう多くない。
葵:
『巨大ヒール来るかも? 丁寧にね!』
シュウト:
「了解!」
ジンが〈天雷〉の準備を終えたところで、石丸が魔法を叩き込んだ。
葵:
『にゃんと!?』
巨大な竜の体から『黒い霧』が吹き出し、またもや僕らの行く手を阻んでいた。しかもヒールのモーションに入っていた。
シュウト:
「〈乱刃……」
葵:
『シュウくん、ストップ! それは勿体ないからなし』
シュウト:
「ですが……?」
残り3割まで減らしていたHPゲージが、みるみるうちに回復していく。悔しい思いをしながら見守るしかなかった。黒い霧の無敵フィールドの中での回復なので、手が出せない。規定の回復行動ということか。HPゲージ6割強まで戻ってしまったところで、無敵フィールドが消えた。
リディア:
「今から第2フェイズ……!?」
全体的に黒かった竜鱗が白く変わる。一度きりの巨大回復なのだろう。攻撃パターンの変化などに注意しなければならない。
葵:
『ジンぷー、立ち上がり気を付けろ。ダメージ反射されたら一撃で死ねるぞ?』
ジン:
「ドアホウ。……1撃なら耐えられるっつーの」
如何にも何か反射して来そうな白さだった。
『ダメージ反射』は、平均ダメージ量の高いジンの弱点の一つだ。これは内部計算の方式によって結果が変わることが予想される。
攻撃を『そのまま』反射するタイプの場合、回避できる余地はないものの、〈竜破斬〉の非属性は反射させることがたぶん出来ない。
一方でレイドボスはダメージ量に応じて反射的な反撃を行う可能性がある。そちらの場合はダメージを受ける→反撃する、の2つの動作なので回避できる可能性が出てくるものの、ダメージ量が高いほど反射量も増えることになる。
ニキータ:
「ブレス・モーション!?」
ここまでのリキャストタイムを無視する唐突なドラゴン・ブレス。しかも今までのようなバックジャンプからのブレスとはモーションが違っていた。両手の爪を地面に食い込ませて体を固定させている。地面から魔力を吸い上げているかのエフェクト。
葵:
『ジンぷー!』
ジン:
「全員、下がれ!!」
地獄の炎を連想させる黒い炎が吐き出される。ジンは切り札を解き放ち、難攻不落の城塞と化した。
葵:
『いしくん?』
石丸:
「カウント、始めているっス」
4つめの必殺攻撃『フィデリオ』の追加でさらに複雑さは増していく。使用された必殺攻撃によって、次の必殺攻撃までの時間が変化するのだ。目まぐるしく状況が入れ替わり続ける戦場は、まるで万華鏡のようだ。
続けて放たれた『英雄』――炎を纏っての突進爆撃攻撃――の回避のため、安全地帯への退避を急ぐ。フィールド全域にランダムにばらまかれる爆撃の嵐だが、ジンの背後、突進ルート状だけは安全地帯になっている。ジンが正面から特大の爆撃を防げばオーケーだ。
必殺ではない攻撃も多彩で、『春』『月光』『パストラーレ』など、小技も地味に痛い。特に『パストラーレ』は持続型の回復で、停止条件になっている部分ダメージをクリアしないと延々と回復し続けるギミックまであった。さらに厳しかったのは『ハイリゲンシュタット』での無音化攻撃だった。魔法も援護歌も一定時間、強制的にカットされる。バフが解除されるわけではないのだが、性質上、アクアの援護歌は途切れることになるためどうしようもない。地味に嫌な攻撃だった。
必殺攻撃への対処の合間に全力攻撃を叩き込み、僕は、僕らは、だんだんと一体感を感じ始めていた。味方との、ではない。敵も含めた、『このレイド』との一体感だった。
――そして、パズルの欠片が、パズルを解き始めた。
アドリブを続けると、アドリブ自体が『固定された流れ』になってしまう。アドリブだからといって滅茶苦茶なことができる訳でもないため、どこかで見たような連携の繰り返しを無意識に選択したくなってしまう。
そのため、全力攻撃をたびたび繰り返すことでリセットしつつ、表層の意識はそちらに向かわせ、無意識下では葵のパズルを見せ続けた。無意識下で行われる計算は、暗に、理解できないものを理解しようとし続ける。
パズルの欠片にされたレイドメンバー達。しかし彼ら・彼女らは駒ではなく、それぞれが人間である。それぞれのポジションから、同じパズルに参加することで、感覚が共有され始めていた。理由は分からないがなんとなく『こう動きたい』という感覚が生まれていた。
個人の戦闘タイプには理論派と感覚派とがあるものだが、感覚派は自分のやっていることを他者と共有できない。説明もできないが、なぜだかそれで巧くいくのを知っている。だから、何となく戦ってみたりして伝染することに期待することしかできない。
葵の『カレイドスコープ』は、感覚戦闘をレイドで共有するタイプの全力管制戦闘だった。発見できたのは偶然だし、研鑽の方法も分からない。葵にしか出来ないのだ。けれど、その威力は参加した人達には明らかだった。ただし、参加しても巧く説明できるものではなかった。
葵:
『さぁ、フィナーレだよ』
最終フェイズで狂乱となった炎爪竜ビートホーフェン。体格が膨れ上がり、全長は30m近い気がする。その状態でもう10分近く戦っていて、残りHPゲージは2~3%にまでなっている。戦闘時間は密度が濃すぎてよく分からない。葵の指揮できる時間からすれば40分の限界ギリギリぐらいだろう。
アクア:
「最後は高らかに、歌うように!」
アクアは、実力も人数も不足している僕らを保たせてみせた。彼女が1人で帳尻を合わせたと言っても過言ではない。
石丸:
「敵、必殺攻撃10秒前っス」
葵:
『よし、それをしのいで、その後に最終攻撃!』
しかし、そう簡単には行かなかった。狂乱状態のレイドボスの最後の必殺攻撃は、『運命』と『フィデリオ』が合成されたようなものだったからだ。振り下ろされる爪から衝撃波が、吐き出される黒炎のブレスが、僕らを襲った。『フィデリオ』のためにジンは下がっていて、『運命』の相殺が間に合わない。
英命:
「直列励起オーバードライブ! 〈四方拝〉!!」
Zenon:
「後は任せたぜ! 〈叢雲の太刀〉!!」
神楽舞で〈四方拝〉を英命が放った。緊急呪文にして最強の障壁魔法。前に進み出たZenonは〈叢雲の太刀〉を放っていた。
凌ぎ切ったと思う前に、既に次の動きを始めているメンバーがいた。全力攻撃前に、準備をするためだ。2人の〈盗剣士〉は〈オープニングギャンビット〉を、リディアも〈ソーンバイトホステージ〉を投射している。石丸は〈ロバストバッテリー〉でカウントダウンを始めている。
葵:
『いっけぇっ! 最終総攻撃!!!』
ジンが〈アーマーブレイク〉を叩きつけたと同時に、僕らは襲いかかった。ユフィリアの〈イセリアルチャント〉で舞い散る天使の羽の中で、次々と必殺の一撃を浴びせていく。
僕は、そのタイミングでビートホーフェンの真後ろに立っていた。獣性の解放から、抑圧までを済ませて、1秒ほどの余裕をもって全力の一撃を叩き込む。〈乱刃紅奏撃〉+〈スナイパーショット〉。気を失いそうになるほど気力を持って行かれたが、走りながら武器を引き抜き、最後にもう一撃を見舞うために走った。
◆
ニキータ:
「〈グランドフィナーレ〉!」
発生のゆっくりな技を当てるのに成功してホッとする。技の名前とは違って、まったく最後の技になっていない。そして次が私の本命だった。タイミングを見つつ詠唱を開始する。
ケイトリンとクリスティーヌが〈ダンスマカブル〉を終え、それぞれ〈ブレイクトリガー〉と〈エンドオブアクト〉を放つ。最後の総攻撃は、祭りの終わりの花火大会を思わせる壮麗さだった。
エリオは2連続の移動抜刀術を成功させ、そのまま輝く2本の刃を振りかぶると、6つ刃で光属性斬撃を叩き付けている。
私は石丸の〈スターダスト・レイン〉に〈リピートノート〉を使っていた。最大級に強化された〈スターダスト・レイン〉が2連射される。
8秒間の攻撃時間が終わろうとしていた。最後の最後にウヅキがビートホーフェンの首の裏に現れて、〈アサシネイト〉から〈エクスターミネイション〉へと滑らかに繋げていた。アクセルインパクト。しかし不本意そうな顔に見えた。
最後の総攻撃でも彼の竜は倒れなかった。流石にこれは私も焦ってしまった。保険の〈バトルコンダクト〉を使わなかったため、この後の展開がどうなるのか分からなかったからだ。
ジン:
「譲ってやっから、ちゃんとトドメ刺せよ?」
8秒目が終わってから、ジンの神速突きがドラゴンの胸元に深々と刺さった。〈竜破斬〉ジ・エンド。それでも倒れない。
ケイトリン:
「そらっ、オマケだ!」
ケイトリンの投射したダメージマーカーのポイント滑り込んだシュウトが、今度こそラストアタックを決めた。
シュウト:
「〈絶命の一閃〉!!」
ダメージマーカーが炸裂し、アサシネイトの極大ダメージがHPゲージを全て削り取った。
葵:
『なっ!?』
しかし、〈炎爪竜ビートホーフェン〉は倒れなかった。まるで自爆でもするかのように、体の中心から光を放とうとしていた。直後に爆発する凄まじい光量。ゾーン全体が真っ白な光に飲まれる。
その技の名は……。
◆
シュウト:
「あれ。生きて、る?」
スターク:
「うーんと、勝ったのでいいのかな?」
ジン:
「この状態からすりゃ、勝ったんだろ」
周囲にビートホーフェンの姿はなく、かなりの量のお宝で溢れかえっていた。ちょっと量が大げさ過ぎる気がするほどの大量のお宝だった。レイドダンジョンのラスボスを倒したのと比べても、さらに多い。
ニキータ:
「最後のって、一体?」
アクア:
「『諸君、喝采を。喜劇は終わった』……ベートーヴェンの死に際のセリフと言われているものね。HP・MP、たぶん特技の再使用規制まで全部回復しているのでしょう。リフレッシュしてくれたみたいね」
葵:
『死に際は、まさしくラスボスだったねぇ』
アクア:
「死に際のベートーヴェンは、ほとんど人付き合いをしていなかったらしいわ。耳が聞こえなくなっていたから、親しい人以外は遠ざけていたのね。それでも彼の人気は衰えず、たくさんの贈り物をされたそうよ」
ジン:
「ふぅん。それでコレか」
葵:
『あたし、MP切れ。ここで落ちるわ~』
ジン:
「おう、お疲れ」
レイシン:
「お疲れさま」
アクア:
「……見事な指揮だったわ」
アクアの賛辞の後に続く勇気は無かった。それ以上の言葉など無いと分かっていたからだ。アクアが言うことに意味がある。僕の言葉では、それを汚してしまう。
Zenon:
「凄かったな」
バーミリヲン:
「ああ。天才、ということだろう」
スターク:
「そうだね」
レイドでありながら、まるで異質だった。精神的な疲労も大きかったけれど、まるで絆の力で勝ったような気持ちもあって、満足度は高かった。互いの動きが噛み合う感覚が、今もまだ持続している気がする。
ユフィリア:
「これからどうするの?」
ジン:
「どうもこうも、まずこのお宝をどうにしかしねーと。……シュウト、働け」
シュウト:
「はい!」
幻想級アイテム、その他マジックアイテム、金貨、その他金目のアイテムなどに分類していく。
シュウト:
「金貨は石丸さんの専用バッグに入れちゃってください」
Zenon:
「金貨専用のマジックバッグかよ。初めて見たぜ」
石丸:
「交易商人用のクエストで入手したものっス」
ざらざらと流し込むだけで、枚数も正確にカウントしてくれる。この手のアイテムは、ゲーム時代の品の強みだろう。
クリスティーヌ:
「誰か、ちょっと来てください!」
シュウト:
「えと、なんでしょう?」
クリスティーヌ:
「こんなアイテムが……」
Zenon:
「なんだよ?」
スターク:
「何があったの?」
あの『黒い霧』を思わせる装備品だった。〈闇霞のケープ〉、幻想級だ。
ニキータ:
「もしかして、あの無敵の?」
Zenon:
「まさかそんな強力なアイテムなわけ、ない、よな?」
物理・魔法無効の防具があるわけがない。でも耐性値とかがトンデモないことになっている可能性とかは……。
スターク:
「ブッ」
シュウト:
「なっ!?」
Zenon:
「なんだこりゃあ!」
最大MP値を5000点近く増量し、さらにMPの回復効果まで付属した装飾品だった。
アクア:
「ケープは肩からかけるマントみたいなものよ。名前の時点で装飾品でしょう」
呆れたように一言で切り捨てられた。反論の余地はないのだが、男の子はロマンとかに弱いのだ。
Zenon:
「おい、これどうするんだよ? 誰に持たせるつもりだ?」
ジン:
「知るか、俺は忙しい」
巻物あさりに夢中のジンは完全にスルー状態である。
確かに、かなり強力なものに違いない。魔法職が持つべき品なのは間違いない。しかし……。
シュウト:
「あの、アクアさんが使いますか?」
アクア:
「……(溜め息) その色のケープが私に似合うと思うの?」
シュウト:
(デスヨネー)
確かに似合わないとは思った。思ったけれど、どうにも意志決定権が僕には足りないのだ。立場が弱いのである。能力が足りてないのも自覚している。こればかりは仕方ないではないか。
シュウト:
「だとしたら、石丸さんに渡すべきでしょうか?」
石丸:
「自分はこの杖を貰ったばかりっスから」
アクア:
「この先のことを考えるなら、リディアに渡すべきでしょうね」
リディア:
「ふぇ!?」
確かに彼女はマナコントローラー兼任だ。大量のMPを預かってもらうのは合理的だ。
Zenon:
「なぁ、アンタにもそろそろ武器とか防具とか必要だろ?」
ジン:
「あ?……そんなことよっかハラへった」
レイシン:
「もうお昼だっけ。じゃあ、準備するね」
お昼の準備をしながら、残りのメンバーは財宝の分類を続けた。そして今回もまたジンは崩れ落ちた。
ジン:
「オフッ、また無かった……」
集め終わったアイテムを3回か4回確認し、口伝の巻物がなかったことで半分死んだみたいになっていた。レイドボスと戦っていた時のタフネスは1ミリも見られない。
スターク:
「無いと思うなぁ~」
Zenon:
「そんな巻物の話とか聞いたことねぇし」
シュウト:
「そろそろ諦めましょうよ、ジンさん」
ジン:
「…………嫌だ。俺は諦めないっ!」
アクア:
「バカよね? 貴方、本当はただのバカなんでしょう?」
リコ:
「でもこういうしつこさ?が、あの強さの秘密かもですし」
ニキータ:
「そう言われると、そういう気もしてくるわね……」
ユフィリア:
「ジンさん、強く生きよう?」
ジン:
「うん……」
幻想級の装備は一気に4つ。〈闇霞のケープ〉、〈炎爪の指揮棒〉、〈火牙刀〉〈黒炎剣〉。装身具ふたつ、武器もふたつ。問題はその名前で、爪の名前が入っているのは指揮棒だということだろう。
お昼ご飯を食べながら、そのあたりの話になっていた。
スターク:
「……ってことは、モルヅァートには弱点がないってこと?」
シュウト:
「今回、〈イセリアルチャント〉が凄く効果あったのにね」
ユフィリア:
「えっへん!」
ニキータ:
「凄く偉かったわ、ユフィ」
シュウト:
「指揮棒なんですが……」
アクアかニキータか、どちらに渡すべきか?と考えてしまう。ここでも問題は名前だった。
ジン:
「ふむ。水の歌姫さんは、火の指揮棒は持てないってか?」にやにや
ニキータ:
「私は、……アクアさんが持つべきだと思います」
アクア:
「…………」
幻想級の指揮棒の効果は、援護歌を強化するものだ。ニキータは近接戦闘よりのビルドなので、アクアに渡した方が意義が大きい。武器ではないので、ビルドの邪魔にもならないはずだ。
シュウト:
「あの、これをお渡ししますので、どうかモルヅァートまで……」
ジン:
「ぶははははは!」
自分でもどうかと思ったのだが、なんとなくいやらしい下心を明かしてしまった方が巧くいくような気がしたのだ。きっとカレイドスコープの影響だ。そうに違いない。
アクア:
「まったく。私を差し置いて『神童』と戦わせる訳がないでしょう!」
むしり取るように指揮棒を奪うと、そのまま装備していた。アクアの名が刻まれる。アイテムロックによって、〈炎爪の指揮棒〉は半永遠的にアクアの所持品となった。
両手持ちの〈火牙刀〉はZenonに、片手持ちの〈黒炎剣〉はクリスティーヌが固辞したため、ケイトリンの持ち物となった。
英命:
「私は、お金の方がありがたいので」
ジン:
「俺もだ」
Zenon:
「だからぁ、アンタはそろそろ装備品の更新をだな?!」
ジン:
「ところで、この金ピカの家具とかどうすりゃいいんだ? かさばるし、そもそも、これ買い取ってくれんの?」
バーミリヲン:
「……持ち帰ってからだろう」
〈海洋機構〉でも買い取れるかどうか分からない、というのが逆に凄い。マーケットに流して買い手が付くかどうかは五分といったところだろう。世の中に金ピカ好きが多いことを祈るしかない。
ただ、魔法の家具なのかもしれないので、買い手を探す前にその辺りを詳しく調べてからになるだろう。
ユフィリア:
「なんで棚とかタンスとか出てくるのかな?」
アクア:
「ベートーヴェンが引っ越しを繰り返したから、かしら?」
食事を終えてしばらくしてから、眠くて仕方なくなってきた。長時間のボス戦での疲労によるものだろう。カレイドスコープの負担が表面化してきたのかもしれない。
そのままその日は、荷物を持ってアキバに帰還することになった。
――〈炎爪竜ビートホーフェン〉、撃破。