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EX  ナカス炎上

 

ジン:

「…………」


 僕らは、〈茶クオリティ〉でエルムが来るのを待っていた。普段ならジンと2人でも退屈することはないのだが、今は相手がむっつりとだんまりを決め込んでいる。何を話していいのかよく分からないでいた。

 加えて個人的な事情を言えば、あっちもこっちも連絡が付かなかったりするので、頭を抱えたくなっている。


 セブンヒルから戻った後で〈カトレヤ〉のメインメンバーを集めてローマでの出来事を改めて報告した。ローマ滞在中に時間はあったので、葵には念話で説明してあったのだが、やはり質問を交えてみんなの前で話した方が良いらしい。なぜだかそわそわと落ち着きのないジンが丸投げして来たこともあって、僕が説明する役を仰せつかる。

 レオンを倒すクライマックスの場面になっても、ジン本人の反応は薄いままだった。……問題は話が終わった後で起こる。


ジン:

「そういや、こっちでなんか変わったコトとかなかったのか?」

葵:

「んー↓ ナカスの町が〈Plant hwyaden〉(プラント フロウデン)に制圧されたぐらいかな」

シュウト:

「なっ!?」

ユフィリア:

「そうなの?」

ニキータ:

「そんなことが、あったなんて」

ジン:

「……やはり、か」

シュウト:

「抵抗とか、は、しなかったんですか?」

葵:

「御題目としてはナカスの救済だしねぇ。交渉するにも町の代表すら決まってなかったみたいよ? そもそも〈Plant hwyaden〉を警戒してすらいないんだから、これは仕方ないっしょ。それと、なんか火事があったらしくて、それですんなり吸収されちゃったみたい」

ユフィリア:

「葵さん、睦実ちゃんたちは?」

葵:

「〈ハーティ・ロード〉は相変わらずだって。〈Plant hwyaden〉とあくまで対立する気みたいだから、宿無しレジスタンスに逆戻りだぁね」

ユフィリア:

「そう、なんだ」


 時間も遅かったのでその夜は寝てしまうことにした。今朝、念話してみたが、さつき嬢に連絡は付かなかった。そうしてジンがだんまりをはじめてしまって、今に至る。



エルム:

「これはどうもすみません、お待たせしたようですね」

ジン:

「いいや、構わんさ」


 エルムがやってきたところで現実に引き戻され、慌てた。 






ミィナ:

「ねぇ、食べさせて~」


 ――その日〈大地人〉の女の子と仲良くなったミィナは、木苺をねだっていた。


大地人の少女:

「あ~ん」

ミィナ:

「あ~むっ☆」

大地人の少女:

「おいしい?」

ミィナ:

「うん、おいひい。すっぱいとこがたまんない!」

大地人の少女:

「あむっ。(もぐもぐ)すっっぱ~~い!」

ミィナ:

「あはははは! ちょっと大人の味だったかな?」

大地人の少女:

「ごめんなさい。美味しくなかったよね?」

ミィナ:

「そんなことないよ~。だったら、ちょちょいと、おねーちゃんが魔法をかけてあげよう。口開けて? 『はい、あ~~ん』」

大地人の少女:

「あ~ん」


 ――〈大地人〉の女の子は目をまんまるくして驚く。それを嬉しそうにミィナはみていた。


大地人の少女:

「おいしい!」

ミィナ:

「でしょ?」


 ――サブ職〈食闘士〉である彼女の能力『神の舌』は、どんな食べ物でも美味しくしてしまう能力だった。しかし、〈大災害〉後の食べ物にはまともな味が無い。それでも(、、、、)美味しくしてしまう能力であった。

 メニュー作成された料理は、ぱさぱさのもそもそで、塩気すらない微妙なものだったが、彼女が食べれば『美味しかった』のである。ぱさぱさのもそもそ『だから』美味しくないはずが、ぱさぱさのもそもそ『でも』美味しくする能力だ。仕組みとしては、ドーパミンやエンドルフィンといった脳内麻薬の分泌をコントロールすることで、どんな食べ物であっても多幸感を得られるもの、と予想される。


 ミィナこの能力は、〈大災害〉直後の時期は大変有用だった。彼女は『あ~ん』することを思いつき、いわゆる口伝進化によって、『神の舌』という能力を『女神の手』として置き換えることに成功する。ナカスの街は彼女の『あ~ん』によって救われていた。


 そして、料理の手作り法が発見され、現在に至ると、彼女はもっぱら『あ~ん』される側になっていた。

 最初こそ良かったが、『すべての料理が美味しくなること』は、もはや味の否定であって、彼女にとってみれば大きな幸せを失ったのに等しい。『神の舌』の力によって、不味い味、微妙な味、普通の味、その他すべての『味わい』を捨ててしまうことになったのだ。ただ幸いなことに、『逆・女神の手』と言うべき他人からの『あ~ん』であれば、元の味を楽しむことができる。その結果、ミィナは人から『あ~ん』して貰う日々を送っていた。

 (その結果、放り投げられた1ホールのパウンドケーキを、手を使わずに食べきるという偉業を成し遂げるまでになった)


 ミィナは〈食闘士〉を止めようかと何度か悩んでもいたが、その都度「まぁ、いっか」と結論を先送りにしていた。







睦実:

「ほんっとに、厚かましい連中なんだから! 何が助けにきました~、だよっ」

ミィナ:

「なになに? どしたの?」

ふーみん:

「〈Plant hwyaden〉の〈冒険者〉が街に入り込んで来て……」


 ――突如現れた〈Plant hwyaden〉の兵士たちは、ナカスの街中のあちこちで『助けにきた』と宣言した。電撃的なナカス攻略作戦だった。


睦実:

「お前らに助けてもらう必要ないっての!」


 ――自分たちは間違っていない、正しい行動をしている、という態度に、睦実はハラを立てた。だが、彼女の叫びも虚しく、ナカスの街は揺れた。

 みな、護衛の兵士に守られてミナミに連れていって貰えるチャンスだと話し合っているのだった。大阪までの距離を考えても、そう何度も期待できる話ではない。みんながついていってしまい、自分だけ残されでもしたら、とても苦労することになるのは目に見えている。


 皆、九州に住んでいるからナカスを本拠地にしている訳ではないのだ。ゲーム時代はタウンゲートによってどこのプレイヤータウンも普通に行き来できた。だからアキバも、ミナミも、シブヤも、ススキノも、『1度や2度は普通に行ったことのあるゲームタウン』に他ならない。ミナミへ行くことへの抵抗感があまり大きく無いのも、このためである。

 それどころかクエストによっては別のタウンを一時的に根城とするのだって普通のことだ。気分によってホームタウンを変えていけない理由などない。ナカスにも東北や関東の人間もいるし、逆にアキバに九州のプレイヤーがいるのも普通のことでしかない。関西人のもつ東京への対抗心のようなものは、無いではないが、そこまで強くはなかった。


 かといって、半年近くを過ごした街でもあり、愛着がないと言えば嘘になる。ナカスを見限って出て行くと決めるのは簡単ではない。



 また、公平に評価するのであれば、今回と同様のケースはススキノでも行われている。アキバがススキノのプレイヤーを救出するのと、ミナミがナカスのプレイヤーを救出するというのは『形としては』同じことなのだ。



誰かの声:

「ミィナはどうするんだ?」

ミィナ:

「……あたし?」


 ――ミィナは〈Relations〉というギルドのマスターで、ナカスの街でもひときわ目立つ存在だ。一時期はナカスの大半がこのギルドとして纏まりかけたこともある。

 街の人々の熱い視線に、内心でたじろぐミィナ。彼女には特にプランや考えなどはない。


ミィナ:

「んー、あたし、この街が好きだからなぁ~」

別の声:

「ミナミに行ったら、旨いもんイッパイだろ。たこ焼きとか」

ミィナ:

「たこ焼きかぁ~☆」


 ――瞳を輝かせ、たこ焼きに想いを馳せていては何の説得力もない。この後〈Relations〉の崩壊まで3時間掛からなかったが、『3時間も保った』『がんばった方だろう』と仲間には評価された。


 ナカスが団結するか決めあぐねている間に、〈Plant hwyaden〉はこうして『一人ひとり』に対しての呼びかけを行っていく。結果、目の粗いザルからポロポロとこぼれ落ちていくのに似ていた。落ちるほど状況は加速し、ザルは機能しなくなっていく。……これは反対派の焦りも加速させることになった。







ナカス派男:

「じゃあ何か、ナカスを捨ててミナミに逃げようっていうのか?」

ミナミ派男:

「それの何が悪い? ここにいても現実世界に戻れるのか? 何の役にも立たないより、ミナミに行く方が」

ナカス派男:

「この裏切りヤロウ」

ミナミ派男:

「何が裏切りだ、ひとつの考え方としてアリだって言ってるんだろうが!」

レギオネル:

「ちょっと、君たち、落ち着きたまえ」

ナカス派&ミナミ派:

「「黙ってろ、金ピカ!!」」

レギオネル:

「金ピカ!?」






 ――4時間が経過。


キサラギ:

「連れてきた」

ミィナ:

「どーもどーも」



 ――この時までに趨勢はほぼ決まっていた。一つの要因としては、ナカスを捨てミナミに身を寄せようとする者達を『裏切り者』と怒鳴り散らしてしまったことがあげられる。……その結果どうなったかといえば、裏切り者と罵るナカス側と、助けてくれるミナミという構図になってしまった。乱雑なナカス派に愛想を尽かす人が出てしまい、状況は動き始めていた。


 遅蒔きながら失敗を悟ったナカス派だったが、『裏切り者』呼ばわりを止めさせるのに思いのほか手間取ってしまった。これが被害を拡大させたのは否めない。


 その後、『ナカスのプレイヤー6割以上が参加する意思を確認した』と〈Plant hwyaden〉は発表。ナカスの民衆に拍手でもって迎えられた。流れは〈Plant hwyaden〉にあると理解することで、ナカスを捨てる流れは更に加速する。

 こうしてナカス派、反ミナミ派は居場所を無くしつつある。そうして始めて、彼らは集結する機会を得たことになる。


ダリア:

「この子を呼んでどうする気?」

直江:

「ミィナ、〈Relations〉の連中を引き留めろ。まさかミナミに付く気じゃないだろうな?!」

ミィナ:

「えっと、ダメでした?」

直江:

「ふざけるんじゃない!」

レギオネル:

「ちょっと、女性にはもう少し優しく……」


 ――〈ラッキースター〉のダリア・イシュタル、〈第十一戦闘大隊〉の直江山城、〈バイアクヘー〉の金ピカ、レギオネル・ツィンツが発言していた。

 目的は、ナカスの半分程度の規模に膨れ上がっていた〈Relations〉の取り込みで状況を覆すこと。しかし、この時点で〈Relations〉は既に崩壊していた。ミィナとその友達の5人組は、なんとなく、みんなと一緒にミナミに行くものだと思っていた。


白雪:

「あの、ギルドはもう、解散しちゃったんですけど……」


 ミィナの仲間のひとり、白雪が事情を簡単に説明した。「どういうことだ!?」と問いつめられて首を竦めてしまうのだが、「脆くて壊れやすい硝子細工の様でした。手のひらでそっと姿を消す粉雪のように儚く……」などと表現してみせた。白雪に度胸が有るのか無いのかは、誰にも分からなかった。


ダリア:

「は~ぁ」

アギラ:

「あーあ、こりゃ参ったな」

ミィナ:

「ダメだよ、ため息の数だけシアワセが逃げちゃうよ?」

ボルドウィン:

「…………」


 ――ダリアは一度〈Plant hwyaden〉に参加しており、協力した後に離脱してきている。つまり戻るという選択肢はない。アギラ達〈ハーティ・ロード〉も敵対する姿勢を崩すつもりは無かった。特に参謀役の葉月は徹底抗戦を主張している。

 ナカスの生産ギルドである〈紅蓮〉のボルドウィンは基本的に喋らないため、ここでも沈黙を続けていた。


 こうしてとりあえず集まってみたものの、〈Relations〉が崩壊していたことで方策を失ってしまった。



霜村:

「……で、どうなる?」

葉月:

「残念ですが、どうにもならないでしょう。〈Plant hwyaden〉が『敵』、もしくは『悪』だと考えてはいませんからね」


 ――とある集団の人数は、目的の正しさに比例している……といった錯覚がある。集団を外から見ている場合、大集団『だから』きっと正しいのだろうと考えてしまい易い。大規模ギルドの方が正しそうに感じ易いことから、既存のギルドが複数集まっているアキバよりも、一つの巨大ギルドでまとまっているミナミの方が正しいように感じ易くなる。

 だが、『正しいから人が集まっている』というのは、その集団の中に入ればすぐに誤解だと分かるものだ。大きいからといって正しいことにはならない。

 人数や規模を拡大するためには、規模に合わせたシステムを構築しなければならない。仕組みが正しいとしても、運用するのは人間である。人数が増えるほど仕事は増え、人間の犯すミスも加速度的に増していく。役割分担の細分化を通じて、多くの構成員は『組織の維持』のために働くようになる。大目的と関係しなくなるのだ。こうして組織が『何をしているか』を知らなくても平気になっていく。

 時間の経過と共に多くの組織は目的を見失い、ただ存続するために存続するようになる。企業も国家もこれは同じだ。『内側の人々』と『その人数』は、組織の正しさを保証する意味を持たない。



葉月:

「ただ、6割以上を確保したというのは嘘でしょう。ナカスの正確なプレイヤー数など『誰も』把握していないハズですから」

霜村:

「それは嘘かどうかは関係ない、ということだな?」

葉月:

「そうです。多数派を主張するだけでいい。主流派に付こうと思っていた者達を取り込むための、ちょっとした誘導です。でも、それが決め手になりつつある。……敵の参謀は、優秀ですね」

霜村:

「……」


 ――ミナミを離れたあの日から、葉月はたびたび沈むような表情をするようになっていた。見ていないようで見ている霜村は、葉月の成長を知っていた。重荷を背負うことで、無責任な青年は大人の男になろうとしている。その荷がどんなものなのかは、まだ知らされていない。誰にも言わないようにしているなら、それでいいと思っているからだった。見ているようで見ていない霜村は、細かいことはどうでもいいと思っている。



ダリア:

「どうにかしてみんなを引き留めないと」

アギラ:

「」

直江:

「ミナミの人間は黙っていろ!〈Plant hwyaden〉にむざむざ乗っ取られてなるものか……」


 ――意見はまとまらず、具体的な行動を起こすに至らない。そのまま時間ばかりが過ぎていった。







ルーグ:

「やっべ、やべぇ。クッソォ、とうとうナカスまで来やがった」


 ――個人的な事情で〈Plant hwyaden〉と関わり合いになりたくないルーグは、深夜になってから移動を開始していた。根城にしていた場所の近くに〈Plant hwyaden〉の兵士がいたためだ。自分が狙われているかもしれないなどというのは過剰な思い込みに過ぎないのだが、『念のため念のため』と、とりあえず別の場所を探して休もうと考える。部屋を窓から抜け出してコソコソしていた。


ルーグ:

「ん? ……なんだ?」


 ――同じく闇の中をコソコソと動く人影。怪しさ満点である。光ぐらい使えよと言いたいルーグだったが、他人から見ればルーグ自身も十二分に怪しい。その辺を都合良く棚に上げ、追跡していった。勘が働き、〈Plant hwyaden〉がナカスの街で何か小細工しようとしているのではないか?と考えていた。


ルーグ:

(この辺りは、倉庫か?)


 ――息を潜めて見守っていると、きな臭い感じがした。

 否、本当に何かが焦げて、燃えているらしい。顔を出して覗いてみると、火勢は徐々に強まり、炎の赤い輝きが目に飛び込んでくる。


ルーグ:

「うぇ!? うぇええええ??」


 ――町中での火災に、思わず倉庫に駆け寄ってしまうルーグだった。待ってみても衛兵が現れる気配は無い。衛兵は消防の代わりをしてはくれないとしばらくしてようやく思い至る。彼は〈暗殺者〉だったので、火災への対処には不向きだった。誰かに連絡しようにも、連絡する相手がいなかった。


ルーグ:

「ちょっ、待てよ!」


 ――火災現場から飛び出してきた人影を見つけるや、瞬間移動のような速度で2人同時に捕まえていた。手に持っている道具などからしても、彼らが放火の犯人で間違いない。


ルーグ:

「お前ら! 何で火を付けて……、え?」


 ――振り向いた犯人と目があった。強い力でふりほどこうとしてくる。驚きがまさり、ルーグは相手がしたいようにさせてしまっていた。腕から逃れ、走り去る放火犯。

 その背中を呆然と眺めつつ、つぶやく。


ルーグ:

「……うそだろ?」







 ――火災の知らせを受けた時、さつき嬢は眠りの中にいた。瞬間的に覚醒すると、素早く身支度を整える。夜襲の備えとして訓練していた通りの動きだ。寝ぼけまなこの睦実に「出てくる」と伝え、彼女は〈ハーティ・ロード〉の元に合流した。続々と集まってくるギルドメンバー達。


さつき:

「なぜ? どうして……?」


 ――ナカスの街が燃えていた。火の手の広がりに愕然となる。

 海側の倉庫になっている場所を中心に、街のあちこちで火事になっていた。ナカスもまた、現代日本の様なコンクリートの街ではない。草木が繁茂する緑豊かな街であり、燃えるものはそれこそ『そこら中』にあった。



傷顔守護戦士:

「すまん遅くなった。とりあえず俺たちで全部だ」

アギラ:

「よし! 集まれるだけ集まったな」

葉月:

「まず〈大地人〉の避難と怪我人のフォローを!」

霜村:

「報告は弥生に念話だ」

アギラ:

「 〈ハーティ・ロード〉、いくぞ! 声を出していけ!」

全員:

「「おお!!」」


 ――戦闘ギルドは緊急事態に強い。

 〈ハーティ・ロード〉のギルドマスター・アギラは、不謹慎ながらも火災現場を『ゲーム化』してしまった。そんなギルマスに慣れている仲間達は、気の利いた返しを始める。

 アギラが燃えているものを蹴り飛ばして一カ所に集めている間に、戦士職は人を運んだり、まだ燃えていない荷物を外に出したりと、一番の活躍を見せていた。江戸時代の火消しよろしく、燃え移った周囲の建物を部分的に壊したり、木の枝を斬り飛ばして延焼を防ぐ武器攻撃職。魔法攻撃職が消火に使う攻撃魔法は威力が有りすぎることで、使用するタイミングや状況が限定される。凍結などで時間稼ぎをしながら、ここぞというタイミングでトドメを刺す役回りになった。怪我人の治療だけでなく、炎の中で活動する仲間たちのフォローは回復職の力が必要だ。こうしてレイドの感覚でもって連携を構築し、火災を『攻略』していった。

 しかし、ナカスの街全体でみれば、巧く『回せる』者達ばかりとはいかない。



さつき:

「ここは終了だ、次に行くぞ! ……まったく手が足りない。どうする、葉月?」

葉月:

「現実的には〈Plant hwyaden〉の兵に協力してもらう他にないでしょう」

ダリア:

「あんた達、何をバカなことを言ってるのよ!?」

アギラ:

「ンなこと言ってる場合じゃねぇだろうが!」


 ――葉月の下した決断が仕方ないものであることは、さつき嬢も分かっていた。

 〈Plant hwyaden〉が消火活動に参加するようになった頃から、バラバラだった街の〈冒険者〉達も連携し始めた。炎との戦いは夜が明けるまで続いた。



アレックス・M・寺島:

「西側は確認しました」

レギオネル:

「東側も終わっているようだ」

トモミ・カジマ:

「海の方もオッケー」

弥生:

「全地点、終了を確認。……これで全部ね」

ミィナ:

「おわったー! みんな、お疲れさまー!」


 ――すすの付いた手でさわったりしたのだろう、黒く汚れた顔をしたミィナが、終了を宣言していた。

 ホッと一息付く間もなく、被害状況の確認と犯人探しが始まる。



弥生:

「〈大地人〉に死者の報告無し。火傷とかの怪我は治癒が終わってる。行方不明者は不明。これは仕方ないね」

カガリネア:

「火事だけど、食料を保管してる倉庫がターゲットみたい」

Pluck:

〈紅蓮〉(ウチ)も食料用の倉庫が狙われてました。計画的だな、こりゃ」

弥生:

「まだ分からないけど、建物のゾーン内に保管されてたから、火事の規模の割には平気っぽいけどね」

カガリネア:

「むしろ、消火活動で使った魔法でダメになってる」

Pluck:

「ですね。野菜などはともかく、米なんかが水を吸ったらおしまいだ」


 ――後に判明することだが、この時点でナカスの食料約20%に被害があった。甚大と評すべき被害である。


ルルイエ・P:

「食料を狙った犯行だとすれば、綿密な下調べが必要になる。本当に外部の手によるものだろうか?」

葉月:

「その話は伏せておいてください。……今はマズい」

Pluck:

「ですが〈Plant hwyaden〉のせいだって話になってますよ?」

ルルイエ・P:

「愚かな……」







ナカルナード:

「責任とは、何のことだ」

睦実:

「誤魔化すな! あの火事をやったのは〈Plant hwyaden〉だろ!」

さつき:

「止めるんだ、睦実」

ナカルナード:

「くだらない言い掛かりだ。これから統治しようというのに、燃やしてしまってどうするというんだ?」

睦実:

「それは、えっと、……この街に価値がなくなれば、みんな〈Plant hwyaden〉に行きたくなる、とか?」

ナカルナード:

「そんなことをする必要はない。人数を減らせば済むだけのことだ。我々はミナミへの参加を募るだけでいい。人が減れば急速に不便になる。

最初は意固地になるかもしれんが、焦ってくれば人の心は大きく傾く。だから、その手助けをするだけで良かった。……案外、犯人は我々が火を付けたと思わせたかったのかもしれんな」

睦実:

「えっ、なんで?」

さつき:

「〈Plant hwyaden〉が火を付けたと思えば、ミナミへの参加を止めるものも出てくる」

ナカルナード:

「フン、『小人閑居して不善をなす』か」







 ――火事の結果、ナカスの食糧難が予想され、プレイヤー達はミナミへの移住に素直に応じることになった。

 〈冒険者〉にとって、引っ越しの準備はそう時間が掛かるものではない。銀行に預けてしまえば、後はミナミで取り出せるからだ。移動の間に必要なものも、魔法の鞄に収まってしまう。



ミィナ:

「あたし、残ることにした」

澪:

「ちょっと、本気なの?」

ミィナ:

「だって、みんな下を向いてる。こんなの絶対にダメだよ!」

ヒロ:

「ミィナ……。うん、わかった!」

澪:

「ちょっとヒロ、あんたまで!?」



 ――〈Relations〉のミィナが不参加となれば、ナカスを纏める象徴的な人物がいなくなってしまう。このためか〈紅蓮〉のボルドウィンは、いつしかミナミへ行く人々の先導を務めることになった。この寡黙すぎるドワーフの鍛冶師は、いつも黙って受け入れることをする。その背中が、人の心を打つ日もある。こうして日本サーバー最高の鍛冶師は、ミナミの職人に混じり、鉄床(かなどこ)で過ごす日々を送った。

 〈紅蓮〉の寡黙すぎるギルドマスターの代わりに仕事をしていたPluckは、ミナミへの参加を渋る仲間をまとめつつ、調達班(=戦闘班)の隊長ストラダーに合流しようと動き始めた。ストラダーは念話で状況は分かっているものの、帰還呪文で帰れない状況にあり、この頃はまだナカスへ急ぐ道中にあった。


 ナカスから多くの住民が移動した直後、〈Plant hwyaden〉はミナミによる統治を宣言、残った住民全員にギルドへの加入を強制する。これに反発した者達が〈ナカス防衛戦線〉を組織したと言われている。首謀者とされるのは、元〈Relations〉のリーダー、ミィナ。そして、〈第十一戦闘大隊〉の直江である。この直江山城に関して〈Plant hwyaden〉側から『見事な戦術家である』と賞賛の言葉が贈られていた。このため、ナカスに残った〈冒険者〉からは直江山城がリーダー格だと見なされている。



さつき:

「いこう、睦実?」

睦実:

「あーあ。まただね。……住むトコ、無くなっちゃったなぁ~」

さつき:

「そうだな。……だが」

睦実:

「……だね」


 ――この後、レジスタンス活動を続ける〈ナカス防衛戦線〉を駆逐すべく、幾度か〈Plant hwyaden〉の兵が送り込まれることになるのだが、その全てを阻止してみせたことから、さつき嬢は『西の剣王』の異名で呼ばれるに至る。その剣の冴えは、遠くミナミまで轟き、やがて強者(つわもの)を呼び寄せることになる。







ジン:

「……てことらしい」

エルム:

「なるほど、興味深いお話ですね。ああ、ところで」

ジン:

「うん?」

エルム:

「ミナミは、何故、ナカスを制圧したのでしょうか? その目的は?」

ジン:

「さぁな。なんで俺に訊く?」

エルム:

「いえ、なんとなく。貴方ならばご存じ(、、、)なのかと」

ジン:

「フッ。……俺の意見はあるにはあるが、タダじゃ教えらんないね」

エルム:

「これはこれは」

 


私的解釈によるナカス制圧でした。色々ありますがここでは控えます。

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