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126  トリコロール! / 3000対180

 

 ジンの実力を確かめたことで、〈スイス衛兵隊〉の態度は好意的なものに変わっていた。あの戦闘からインスピレーションを得たようで、隊長のヴィルヘルムは状況に応じたヘイト・コントロールを徹底的に再練習させた。

 練習と討論が繰り返され、些細なアイデアも全て検討していく。残り時間の限りを尽くして準備は進められていった。食事も終え、十分な休憩の後、本番の集合時間に至る。


ラトリ:

「ごめん、ちょっと待ってくれる?」

ヴィルヘルム:

「どうした、ラトリ?」

ラトリ:

「セブンヒル内部の仲間から連絡があった。レオンのヤツ、城門を潰してるって話だ」

ギャン:

「なんてことだ!?」


 戦闘前から駆け引きは始まっていた。

 幾つかの城門の裏に荷物を積み上げ、そこからの侵入を阻止する構え。しかし、全ての城門に施された訳ではないという。城門破壊後、通過できるのは東西南北で各1ヶ所のみ。


アクア:

「やろうと思えば、全ての城門を裏から塞ぐことだってできたはずよね?」

ギヴァ:

「城門は交通の要所だ。往来の混乱を避けたのではないか?」

ヴィルヘルム:

「……君はどう考える?」

ジン:

「駆け引きか、揺さぶりだろう。一ヶ所だけ開けておいて、そこに全軍を集めることもできるはずだからな」

ラトリ:

「だよね。その場合、ボクらは城門じゃないところから侵入しようとがんばることになる訳だけど」

シュウト:

「でも、これってセブンヒル内部にこっちの内通者がいるのが前提ですよね?」

ラトリ:

「やっぱ、そこまで読まれてちゃってるよね~」

ジン:

「なかなかイヤらしい手かもな。下手に兵を集中させれば、こっちが奇策に出るように誘導することになる。この場合、一見すると兵を分散させたままだが、城門を絞ったことで兵の配置を集中させられる。下手な奇策も打ちにくい」

ヴィルヘルム:

「兵が圧倒的に多いことを活かした、王道戦法か……」

アクア:

「フムン。読み勝ちすることよりも、読み負けないことを重視している訳ね」


 レオンに翻弄されている感じがしてくる。仕掛ける側なのに、逆に仕掛けられている辺りに、イヤな予感がした。


 そして移動を開始。


ヴィルヘルム:

「我々はセブンヒル北東のポイントXヘ移動する。そこで待機し、北側もしくは東側のどちらかの城門に攻め入る。最終的にどちらを攻めるかは、ポイントXに到着後、指示する」


ジン:

「さて、どうなるかな?」

アクア:

「…………」


 移動を開始し、正午の10分前にはどうにかポイントXの近くに到着。偵察隊の報告では、相手も偵察の兵を送っているため、10分も同じ場所で待機するのは危険とのことだ。


ヴィルヘルム:

「5分前になったらポイントXに移動だ」


 弱火で焼かれているみたいに、急ぎたい気持ちと、ジッとしていたい気持ちにさいなまれる。どこかで見たような気がすると思ったら、某テレビ番組だと思い至る。追跡するハンターが来ないか不安な気持ちは、実際に番組に参加すると、こんな気分かもしれない。


ヴィルヘルム:

「……いくぞ」


 肩口から上げた手で、ひっかくように合図を出す。なんとなく中腰でスルスルと移動していく。


ギヴァ:

「ポイントXに到着ぅ~」

ヴィルヘルム:

「よし、5分前だ」

シグムント:

「隊長、どっちを攻める? 北か、東か?」

ジン:

「いかん。巡回が来るぞ、隠れろ!」


 ミニマップが使えるジンが警告を発する。緊張の瞬間だった。


アクア:

「ダメ、見つかったわ」

ジン:

「シュウト、行けっ!」


 ジンが指さす方向に、咄嗟に飛び出していた。


シュウト:

(ともかく、黙らせる!)


 敵影はひとつだ。念話を使わせてはならない。声を上げるのも防ぎたい。となれば選択肢はそう多くない。殺すか、黙らせるか。

 背後で弓を引き絞る音が聞こえた。(ならば!)と、咄嗟に作戦を変更。


シュウト:

「〈ガストステップ〉!」


 相手の背後に回り込めるように、距離を見切って特技を使う。突撃してくる〈暗殺者〉相手に、無抵抗に背後をさらすほど相手は間抜けではない。素早く振り返って構えを取ってきた。


巡回の兵:

「ぐがっ!?」


 しかし、こちらは『それ』が狙いだ。味方が矢で支援してくれる。背後から受けた矢に、相手の瞳が揺れるのが見えた気がした。僕はほぼ同時に跳び上がっていた。流れ矢に当たらないように、敵の視界から消えるように。


シュウト:

「〈キリングサイレントリィ〉」


 体をひねりながら背後に着地、沈黙化の特技を叩き込む。そのまま敵と体を入れ替え、飛んでくる矢の盾に使う。トドメを刺そうとしたが、矢が敵を仕留めるのが先だった。


ギャン:

「素晴らしい動きだな」

シュウト:

「いえ、このぐらい普通ですから」


 やってきたヴィルヘルムが敵の死体を確認している。


ヴィルヘルム:

「……捕らえるだけにしたかったが、殺してしまったのなら仕方ない」

ギリアム:

「大神殿に戻る前に、死んだことが気付かれるぞ。直ぐに攻めよう、隊長!」

グレイ:

「北か、東か、どっちにいく?」


 沈黙したヴィルヘルムが、重々しく口を開いた。


ヴィルヘルム:

「……北だ」

ギヴァ:

「よし、移動するぞ!」


 整然と移動する〈スイス衛兵隊〉のメンバー達。北側城門へ進軍するのに、少しばかり迂回するのかもしれないと思った時だった。先頭のアクアが示していたのは〈妖精の輪〉だった。アクアだけが持つ〈妖精の指輪〉の力で、移動先を変えているのだろう。


グレイ:

「ちょっと待て、〈妖精の輪〉から何処にジャンプするつもりだ?」

ギヴァ:

「どこでも構わんだろう。さっさと飛べ!」

ギャン:

「それとも、何か問題があるのか?」

シュウト:

(なるほど、そういうことだったのか……)


 次々と隊員達がジャンプしていく。これが本命の陽動作戦だったことに気が付いたのだろう。みんな愉快そうな笑顔だった。


ジン:

「密かに離脱しようとしていた2人は斬った。怖れをなしたか、裏切ったかは分からないが」

ギヴァ:

「汚れ仕事をさせて、すまない」

ヴィルヘルム:

「さぁ、いくぞグレイ!」


 ヴィルヘルムが〈妖精の輪〉に突き飛ばし、強制的にジャンプさせてしまう。


ラトリ:

「はい、いらっしゃい。これで最後かなー?」


 どうも先ほどからラトリの姿が見えないと思っていたら、この地点に先に移動していたらしい。


グレイ:

「ここは、ここはどこのポイントなんだ?」

ラトリ:

「別にどこだっていいじゃな~い。それとも、何か困ることでも?」

ギャン:

「いいや、何も困らないな」

ギリアム:

「そうだな。やることは同じだ」


 次々と隊員達が特徴的なマントを羽織っていく。オレンジに青のラインが入った〈スイス衛兵隊〉のシンボルカラー。へたりこんだグレイは動かなかったが、誰も責めることはしなかった。



ヴィルヘルム:

「いいか! 俺たちはこれから無謀な戦いに挑むことになる。だが、それは『いつものこと』だ」

シグムント:

「違いない」

ヴィルヘルム:

「実力を出せば、今度も勝てるだろう。なに、今回はアクアがいる。それにジン君もだ。城門の中に俺たちの『新しい友人』を送り届けるだけのイージー・ミッションだ。それが済めば、残りは代わりにやってくれる」

ラトリ:

「楽勝!」

ジン:

「マジかよ」

ヴィルヘルム:

「みんな、生き残れとは言わない。……楽しんでいこう!」







 ――セブンヒル南側城門。

 守備隊に配属された男達は、北側に敵が向かっているという情報伝達を受けていて、暇そうに会話していた。


部隊長:

「どうやら北側で戦闘になるらしい」

兵士:

「なんだ、出番なしか。少し見てみたかったな」

部隊長:

「〈スイス衛兵隊〉か。文句なしの最強ギルドだしな」

兵士:

「マトモにやりあえば、レオンだって分が悪い」

部隊長:

「連中、今は200人ぐらいって話だ。90レベルが3000人で戦えば、いくら何でも負ける訳がないだろ」

兵士:

「そりゃそうだ。……って、何だか騒がしくないか?」

部隊長:

「んん?」


 ――その後、念話とパーティ念話が飛び交うことになった。南側城門前に、謎の集団が忽然と姿を現していた。オレンジと青のストライプのマントは遠目からでもハッキリと確認できる。〈スイス衛兵隊〉、西欧最強の『おもちゃの兵隊』である。







ジン:

「うっげぇ、数が多すぎる……」


 こちらも24人組のフルレイドを7つ足した大集団だ。余りも加えて約180人。しかし、まさしく桁が違った。その全てが90レベル。なのに、10倍以上の敵がいるのだ。数の暴力は、まず目から作用してきた。多すぎて勝てないという前提で考えたくなってしまう。


シュウト:

「ジンさん、大丈夫ですか?」

ジン:

「大丈夫なわきゃねーだろ。うわっちゃー、俺の無敵伝説ってば、ここで無名の誰かに殺されて終わっちゃうだろ……」

アクア:

「シュウト、その男のことは放っておきなさい。そうやって愚痴らないと戦えないんだから。毎回よ、毎回」


 1人乗りの特殊な騎乗生物、キリンに跨がったアクアがそう声を掛けてくる。


シュウト:

「いや、でも……」

アクア:

「いいから。どうせ『もう少し』よ」


 何が『もう少し』なのか分からなかったが、あまり気にしてもいられなかった。突撃の号令を今かと待っているからでもある。あらゆる支援魔法を掛け終わって、今はなにをしているのだろう。

 500人程の遊撃らしき部隊が側面から騎馬で突撃してくるのが見える。しばらくすると接触することになるだろう。たかだか500だが、それでもこちらの2倍を越す戦力である。


ヴィルヘルム:

「いくぞぉおお!! 突撃ぃぃいいい!!!」


 最大戦速での突撃だった。ここでは重武装で最低速度の戦士職を基準にした最大速度を意味する。残りは約500m。城門まで約3分。5分後にはほぼ決着がついているはずだ。


 しばらく走ったところで、7つの部隊のひとつが本体集団から離脱。遊撃部隊の足止めに向かった。接触と同時にタウンティングすれば、その後はほぼ殺されるばかりだろう。決して無抵抗なのではない。24対500であれば、戦力差が20倍を超えてしまう。抵抗しても結果は大きく違わないのだ。それでも、ほんの1分ばかりの時間を稼ぐために、24人が命を懸けていた。


 残り400m。魔法の遠距離攻撃エリアへと近づいている。城門までの200m圏内をどう乗り切るかが勝負だ。様々な対策を練っていたが、どうしても一手、足りない。

 次々と召喚生物が現れ、100m地点に並んでいく。また数名の無謀なプレイヤーが突撃してくるのが見えた。それにつられたのか、30人程度の兵士が正面から突っ込んでくる。兵士の数が多すぎるらしく、完全な指揮・統制などは出来ないようだ。この場にレオンがいないらしいことも影響しているかもしれない。


ジン:

「……くくくく。ぬゅふふふふ」

アクア:

「来たわね」

シュウト:

「なんですか? ジンさんは、一体……?」


 段々と速度が落ち始めていたジンが不気味に笑い始める。あまりの恐ろしさに気が触れたのかと思ってしまった。ドラゴン戦でもこんな様子は見たことがない。しかしアクアには確信があるようだ。


アクア:

「知らないの? もしかすると、貴方達の前では格好付けてるのかもしれないけど」

シュウト:

「格好……?」


 騎乗生物に乗っているアクアと違い、こちらは走っているのであまりキチンとした会話にならない。後方に残った足止め部隊の全滅まで残り何秒もないはずだ。遊撃の騎馬兵が追いかけてくれば、自然と挟み撃ちにされてしまう。オシリに火が付いて感じる。


 敵の守備隊が『そろり』と動き出しそうな気配が強まっていた。四方を囲まれ、足止めされたら自分たちの負けだが、どうすることもできない。




 ――カチリ。



 どこかで、否、ジンのところで鍵が開くような音を聞いた気がした。思わずまじまじと見てしまう。



 ――D・D・S発動。(Direct Direct System=直截指揮システム)

 アンコントローラブルに陥ったジンは、D・D・Sに制御を委譲。フリーライドと無心の本質とは、自己制御方式からの脱却である。自我や自意識による制御をやめる必要があるのだ。それでは代わりに『何が』制御するのか。極まった意識、意識装置に他ならない。無心とは空の心にあらず。中心軸や丹田といった意識装置が直接的に身体制御を行う。これが秘密であった。

 〈スイス衛兵隊〉には大軍の戦意が向けられている。戦場全体に広がる『戦争の意識』を、ジンは捉えていた。見えている範囲を超えて、総勢1万与の敵全軍から向けられる敵意・殺意をキャッチ。膨大なそれらを、自身のエネルギーへと変換。このことでジンの潜在レベルは200を軽く越えて更新され続けていく。


ジン:

「うぉおおぉぉおおおおお!!!」


 ――シュウトは太陽よりもまぶしい真っ白な輝きを見ていた。それは現実の光ではなく、何度か経験のある『意識の光』のそれだった。

 オーバーライド、荒神、双身体、あらゆる意識装置がジンの上で走り始める。同時にドラゴンストリームをその身に纏わせた。味方の下丹田、中丹田、前方力を活性化し、敵へは逆にその破壊を行う。最強にして最凶の威圧能力である。

 ……ジンの内の『戦闘の天才』が目を覚ます。より正確には集合知へのアクセスに近しいものだ。その驚異的な戦闘センスは、無限の可能性の中から、勝利に繋がる一手を導き出す。


ジン:

「ヴィルヘルム! 槍をくれ。投げるヤツ!」

ヴィルヘルム:

「聞いたか? 誰か、渡してやれ!!」

誰かの声:

「木か? 鉄か?」

ジン:

「鉄!」


 残り300mを切った。正面から先走った30名の敵が接近中。100m地点の召喚生物付近を通過中。200m付近で遭遇することになりそうだ。巧く使えば、あの無謀な連中を楯に使って、更に接近できる気がする。


 ジンは回されてきた金属製のジャベリンを受け取ると、軽くしごいて持ち手を確認、……というよりも、手に馴染ませて見えた。


シュウト:

「それでどうするんですか?」

ジン:

「……挨拶がまだだろう?」ニヤリ



 残り250m。ちゃんと目で追えたのは、〈フローティング・スタンス〉の起動までだった。縮地で姿が消えて感じるほど加速する。更に全身を地面に叩きつけるような具合で倒れ込みつつ、ジャベリンを地面スレスレで投擲。そのまま転げ回っていた。〈スイス衛兵隊〉はジンを避けながら、止まらずに走り続けていく。


 〈竜破斬〉のエフェクトだろう青い光を纏った槍は、地を這う弾道で、ウネウネと蛇のように揺らめいて飛んでいった。金属の槍が波打つ威力・速度はどのくらいになるのか。まるで止まる気配もなく飛んでいく。たぶん、この場の全員が目で追っていた。


 ――槍は低空でくすぶり続けていた。敵本陣の目前まで飛び、そこからゆっくりと上がっていった。命中コースに居た敵兵が避けて、筋道が出来ている。馬に乗っていた指揮官らしき人物も、馬から下りて行く末を見守った。

 槍はみるみる上昇を始め、一瞬で敵軍を駆け抜ける。そのまま背後の城門上部に命中。突き刺さらず、粉々に砕け散って跡形も残らなかった。現地では破裂時に轟音が鳴り響いたが、シュウトには聞こえない。

 包囲しようと動き始めていた敵軍の足止まる。ジンの行動はホンの少しだけ、だが決定的に、勝敗の天秤を傾けていた。



 走って戻ってきたジンに尋ねられる。


ジン:

「シュウト、誰かに当たったか?」

シュウト:

「いえ、『人には』当たりませんでした」

ジン:

「む、外れたか。残念っ」

アクア:

「あの距離だもの、避けるに決まってるでしょう?」

シュウト:

「えっ、というか城門を狙ったんじゃないんですか?」

ジン:

「……当然、狙ったに決まってるだろう」キリッ

アクア:

「……当たり前ね」サラリ

シュウト:

(ダメだ、この人たち。単に面白いだけだよ……)


 

 槍が飛んでいった間にも距離を稼いで、残り200m圏内へ。


ラトリ:

「飛行部隊、来るよー!」

ギヴァ:

「〈召喚術師〉の攻撃が始まるぞ!」

アクア:

「突っ込んでくるバカを楯に使って!」


 〈召喚術師〉の魔法攻撃が開始された。事前に障壁(バリア)を掛けてあるため、障壁切れと同時に前列を交代するのだが、間に合わずに一人、また一人と脱落していく。

 背後からは遊撃の騎馬兵も迫ってきている。上空からはグリフォンやワイバーンなどの騎乗生物に乗ったプレイヤーだ。これも予想してあった。飛行型の騎乗生物に乗っているプレイヤーは、難易度の高いレイドをこなした手練れという意味でもある。


 無謀なプレイヤー集団30人を魔法攻撃の楯に使ったため、彼らは背後の味方から撃たれて数を減らしている。このままなるべく速度を殺さずに、可能な限り素早く突破しなければならない。

 前に躍り出たジンが、敵の先頭を即死させると、〈スイス衛兵隊〉は戦わず、体当たりなどで押しつぶし、そのまま走り抜けてしまった。さすがに戦い慣れした集団だけあって、やることがスマートだ。


 残り150mを切って、更に前進。楯が無くなったことでいよいよ被害が増えていくことに。

 仲間が次々と倒れていくのを黙って見守りながら、僕らはアクアが走らせているキリンと併走していた。次の手はいよいよ彼女の出番だ。ここで絶対に守りきらなければならない。


アクア:

「メテオよ、直撃コース!」

ジン:

「分かってる!」


 強力な召喚魔法のひとつ〈メテオ・スウォーム〉だ。ジンが飛び上がって〈竜破斬〉で迎撃、相殺。さらに別のグリフォン乗りが放った〈フェニックス〉も打ち消す。僕は進路を塞ぐ巨大なゴーレムを切り裂き、続けてジンを狙う飛行部隊に対してフォローを入れた。ワイバーンの目元に矢が命中。


 残り120m。生存者は100人を割り込み、90人を僅かに上回るかどうか。100m圏内に入れば、今度は〈妖術師〉達の魔法が飛んでくるはずだった。200人を越す〈妖術師〉の魔法を食らえば、100人にも満たない集団ではひとたまりもない。


シュウト:

「アクアさん!」

ヴィルヘルム:

「アクア、頼んだぞ」


 キリンにしがみつき、頭を下げていたアクアが体を起こす。


シュウト:

(アクアさんなら!)


 残り100m圏内に侵入。まだアクアは動かない。こちらも余裕がなくなっている。そろそろ限界だった。


アクア:

「!!!!」


 その瞬間、確かにアクアの全身から何かが放射された。


シュウト:

(……来る!)



 直後。


 押しつぶされるような圧力。ブラックアウトしそうな程の衝撃に、敵味方全軍の足が止まる。世界が雪崩を打って崩落した。青い空が、透明でみえない天井が、落ちてくる。巨大な轟音が無音となり、僕らの聴力が奪い去られたことを教えていた。共鳴場形成のための音圧操作というが、『タンブリング・ダウン』と命名された『これ』は、もはや局所的な天災に近い。


 音の失われた世界で、ただ一人、アクアの音楽が鳴り始める。〈軍神の歌姫〉(レギオンディーヴァ)のステージ、その幕が上がる。


 敵の飛行部隊は全て墜落。後方から追撃していた遊撃も騎馬から脱落して悲惨なことになっていた。敵全軍も機能停止。呪文は全て阻害されて強制的にキャンセルされる。援護歌はアクア以外には使えなくなっているはずだ。


 ほぼ全種類の永続式援護歌が、数倍の威力で効果を発揮。これには移動速度増加も含まれている。


ヴィルヘルム:

「今だ、特攻部隊!」


 敵も混乱を収拾しようともがいている。今の内に展開を有利に運ばなければならない。

 選抜メンバーによる特攻部隊が前に。〈暗殺者〉と〈盗剣士〉数名による最速での先行突撃。本体より前に特攻させることで、敵の攻撃対象を分断するのが狙いだ。


ギャン:

「いっけぇぇええ!!」


 凄まじい速度での突撃だった。その数は10名。アクアによる支援効果もあって、移動速度は驚異的なものだ。放たれる攻撃魔法を回避しつつ、どんどん距離を詰めていく。死ぬのは全員覚悟の上だろう。


 ――特技性能の関係で、直線移動ではいかな〈暗殺者〉と言えど、〈盗剣士〉に最速の座を譲ることになる。最後の数メートルを〈ライトニングステップ〉で駆け抜けるギャン。稲妻めいた左右のステップで敵の攻撃を回避しつつ、敵陣にそのままの速度で突っ込んだ。

 可能な限り移動速度を乗せた〈エンドオブアクト〉。そのまま〈ワールウィンド〉、更に〈ダンスマカブル〉へと繋ぐ。ギャンだけではない。みな「死ぬ前に!」と必殺特技を次々と吐き出していく。



 残り80m……、70m。敵本陣は目前だ。

 アクアの『タンブリング・ダウン』直後から、巨体の竜がこちらに向かって来ていた。その数、5。しかし、敵ではない。〈スイス衛兵隊〉の飛行部隊だ。ワイバーン程の速度は出ないが、6人パーティを乗せて飛べるうえに、ブレス攻撃も可能という。さっそくこちらとの距離をグングン縮めていた。


ジン:

ここ(、、)だ」

シュウト:

「ジンさん!」

ジン:

「先に行く、お前は好きにしろ。〈竜血の加護〉《アイアンスキン》! 〈シールドチャージ〉!!」


 盾を構えるとエメラルドの流星となって飛び出して行った。

 直後と言って良いタイミングで2度目の〈シールドチャージ〉。一気に速度が倍加していた。アクアの永続式援護歌の力で、特技の再使用規制がかなり短縮されているためだ。3段加速して敵陣に突っ込もうとする最後の一瞬、トドメの4段ロケット。


 敵兵が高々と舞い上がる。

 離れた位置から見ていると、人間も水と変わらない。敵集団は大きな水たまりのようなもので、そこに〈竜血の加護〉で鋼鉄化したジンが時速200キロを超える(300キロぐらい?)の高速で突っ込んだら、人は水しぶきになった。10m近く舞い上がったかもしれない。


シュウト:

(くっ、僕はどうする?)


 ジンを追いかけて行きたい気持ちはあるけれど、ここからの数十メートルを突破するのは容易ではない。

 残り60m。敵の集中砲火にさらされていた。〈スイス衛兵隊〉の足が止まりそうになっている。全滅の危機だった。


シュウト:

「弓矢が……!」


 時間が止まって見えた。何十本のも矢が降り注ごうとしている。

 

シグムント:

「おおおお!」


 〈武闘家〉のシグムントが〈ファントムステップ〉で空へ。他にも部隊に残っていた〈盗剣士〉が〈ユニコーンジャンプ〉。〈盗剣士〉の〈ワールウィンド〉が、シグムントの〈ドラゴンテイルズウイング〉が、空中で飛来する矢をたたき落としていく。全てを打ち落とすことはできず、次々と全身に矢が突き刺さっていく。〈盗剣士〉は落命して墜落。シグムントは辛うじて生きている状態で着地するものの、回復なしで生き残れる状態ではない。


ヴィルヘルム:

「10秒だ! 10秒でどうにかしろ!!」


 そう仲間に言い捨てるや、〈守護戦士〉のヴィルヘルムは、集団の中から独りで飛び出して行った。仲間達の悲壮な表情は、リーダーの死を恐れつつも、それを噛み殺して生き残らんとするものだった。


 何度かステップを踏みながらどんどん前に飛び出していく。幾つかの呪文を受けるたびに障壁が反応し、その残量を減らしていく。

 敵の注目を一身に受けたヴィルヘルムは、しかし、切り札を切らない。特技を使うことをド忘れしているんじゃないかと心配するほどだった。障壁が切れ、反応起動回復の光と、HoT(ヒールオーバータイム)が僅かにその命を繋ごうと足掻いていた。


シュウト:

「早く使わないと死んでしまう!」

アクア:

「……あれが、ヴィルヘルムよ」


 弓矢も、魔法も、その全てが彼に向けられていた。ただ一人、ヴィルヘルムだけに向けられる殺意。それは彼を捉え、放たれた。


 膨大な量の攻撃が、回避不能な範囲で、回避不能な速度で……。




ヴィルヘルム:

「〈キャッスル・オブ・ストーン〉!!」



 世界の全てが狂ってしまった。そう思うほどだった。

 執拗に狙われ続けるヴィルヘルム。恐ろしい数の攻撃が集中し、集中し続けている。10秒だけの無敵化は、彼を全ての攻撃から守り続ける。しかし、いくら痛くないと言っても、あれだけの攻撃を受け続ける心境とはいかなるものなのか、僕には想像することすら不可能だった。そして恐ろしいのは11秒目だ。絶対に、1秒も持たないはずだ。攻撃の数が違う。


 気付くと天にはオーロラが広がっていた。僕らの傷が、そしてヴィルヘルムの傷もまた、癒されていった。

 あらゆる呪文をかけ直し、10秒が経過する前に突撃が再会される。ヴィルヘルムの稼いだ時間を無駄にする〈スイス衛兵隊〉ではなかった。その突撃は彼を飲み込み、11秒目の攻撃から守る。


 その時、上空を通過するドラゴンが生み出した風が僕の髪を撫でていった。ようやく追いついて来たのだった。


アクア:

「行きなさい、シュウト。貴方の努めを果たすのよ」

シュウト:

「すみません、行きます!」


 いかなければならない。ジンを守るという約束を、自分の誓いを、新しい友人達の祈りを果たすために。

 破眼を発動させ、体の力を抜いた。可能な限り深く傾倒させ、カカトで強く地面を踏み抜き、僕は跳んだ。


 速度が上がると地面を蹴ることは出来ない。間に合わないからだ。超高速で腿上げ『だけ』をやっていないと間に合わなくなる。地面を蹴っていたら次の瞬間に顔から地面と仲良くすることになるだろう。

 『真下を踏むように』『真下を踏むように』と念仏のように頭の中でつぶやく。中次運動で速力を増したいところだが、アクアの永続式援護歌で移動速が上がっていた。体をクネらせたとしても、足の回転が早すぎて間に合いそうにない。運動が下手だということが身に沁みて分かる。


 熱く感じるほど重い空気抵抗。目に付いた一人に膝蹴りを入れて、そのまま吹っ飛んだ。吹っ飛びをコントロールして着地するべく回転させる。敵陣の真っ直中に飛び込んだのだから、次の瞬間に攻撃される可能性を考えないといけない。


シュウト:

(ジンさんは……?)



 ぎくり。


 ジンの周囲には空間が出来ていた。慣れているはずの自分ですら怯むほどの威圧感。ジン以外は狙えないほどヘイトが蓄積しているハズなのに、攻撃できないほどの圧力と恐怖。熱狂した戦士が次々と襲いかかり、当然とばかりに次々と倒されていった。


シュウト:

(アクアさんのと、同じだ)


 ――それは異界形成能力であった。

 アクアの演奏をみたシュウトは破眼の力によって『同じもの』であると看破した。そもそも演劇的空間に相手(客)を巻き込む能力だが、ジンのものは武道家の約束稽古に似ていた。

 お約束に縛られた弟子達が、次々と師匠に向かって行き、バッタバッタとなぎ倒される姿。素人からすれば、なんでワザとやられているの?と言いたくなる光景。だが、それをジンは実戦の最中でやっていた。

 武術の鍛錬における演舞などは理想的なものに過ぎない。故に、実戦では『同じ事ができない』とされる。しかし、逆にいえば理想とは効率が高いことと意味が近い。実力差が開いている状態、且つ、効率良く敵を倒し続けることで、演舞のそれに自然と近似することになった。

 圧倒的な大人数、しかも勝ち戦。なのに目の前には圧倒的な強さの戦士。できれば戦いたくはない、けれど、やらない訳にもいかない。怖いので自分を奮い立たせなければならない。熱狂した状態で『とりあえず』の攻撃を仕掛ける。これだけの人数がいるのだから運が良ければ倒せるかもしれない。

 ジン側からすれば、相手を熱狂させて、相手の勢いを利用したカウンターの方が楽だった。冷静にメタ的に考えれば、距離をとって魔法攻撃などをすればいいのだが、演劇的空間に巻き込まれたため思いつかない。


シュウト:

「くっ!」


 城壁の上にジンを狙っている兵を見つけ、逆に矢を射る。

 飛行部隊のドラゴンは、城壁上に設置された大弓を攻撃していた。セブンヒル周辺の樹木を伐採していた時点から、この手の設置型攻撃兵器の存在が予見されていたためだ。


 ジンの間合いに飛び込み、矢をつがえた。


ジン:

「来たか」

シュウト:

「はい」


 敵の沈黙は1秒も保たなかった。 

 襲いかかってくる敵を次々と倒していくジン。その動きに合わせて矢を射ていく。年季と言えるほど時間を重ねた訳ではなかったが、最初の冒険の日から積み重ねて来たコンビネーションを見せつけてやらなければなるまい。

 破眼の力を借りて、ジンの動きに同期する。ひとつひとつの動作の意味を無意識に処理して、動くべき場所で動きとして表現。5秒、6秒と重い時間が静かに降り積もっていった。魔法攻撃すら躱して戦いに染められていく。



ジン:

「よしっ! いいぞ!」


 〈スイス衛兵隊〉が最後の突撃を行っていた。敵味方を巻き込んだ乱戦になるだろう。作戦は最終局面へ。


ヴィルヘルム:

「城門を壊せ!行け行け行け!!」


 ジンの生み出したスペースに入り込む〈スイス衛兵隊〉の隊員たち。一瞬、ギヴァの姿が見えた。そのまま城門破壊へと向かっていく。セブンヒルの兵士達は十分な指示もされず、混乱して見えた。僕らは味方のフォローに周り、被害を押さえていく。


ギヴァ:

「しゃああぁぁ!!」


 巨大な両手斧を振りかぶった〈パラディン〉は、城門に激しく叩きつける。それが発動キーだったかのように、敵軍の猛反撃が始まった。『城門を守る』という確固たる目的を得て、攻撃は苛烈さを増す。

 巨大な城門を破壊するのに一体、どのくらいの時間が掛かるのか。このままでは全滅しかねない。ジンが行けば早く城門を壊せる。しかし、ジンが守りから外れた途端、僅かに残った味方は総崩れになるかもしれない。


アクア:

「ちょっとマズいわね」

ラトリ:

「でも、やるしかないでしょ~」


 飄々とした彼の〈妖術師〉は、大魔術を行使すべく詠唱を開始していた。ヴィルヘルムが咄嗟にラトリを守る様に指示を出す。ジンは守りに入れる位置にいない。〈ロバストバッテリー〉によるカウントダウン開始。更にラトリの頭上に光の玉が生成された。〈スペルマキシマイズ〉のエフェクトだ。カウントダウンは緑色へ。打ち出された最高威力の魔法が城門を叩く。カウントダウンは黄色へ。銀色のルーン文字がラトリの周辺を周り始める。〈エンハンスコード〉のエフェクトだ。7秒間は最高の攻撃力を発揮できる。

 同時に、敵はラトリに気が付き出した。〈ロバストバッテリー〉はカウントダウンが赤になれば最大の威力が発揮できる。残り数秒、最後の一撃を出し切るまで何とか守り抜かなければならない。カウントダウンはオレンジへ。


ギャン:

「おおおお!! 〈ワールウインド〉!!!」


 生き残っていたのか、蘇生を受けたのか、ともかくギャンが現れ、ラトリを狙う敵兵に対して乱舞攻撃を敢行。最後の数秒、ラトリはアクアによって超速化した呪文詠唱を終えて、後は発動を控えるばかり。

 カウントダウンは最後の赤色に。



 ブシュッ。


 腹を貫通する槍の一撃。しかし、ラトリはその場から動かなかった。眉をひとつ動かした切りだ。


ラトリ:

「〈ディスインテグレイト〉!」


 指先から放たれる白銀の光線が、セブンヒルの城門に突き刺さる。物質分解光線の魔法だった。〈ロバストバッテリー〉で〈スペルマキシマイズ〉で、更に〈エンハンスコード〉で威力増幅された魔法は、構造物へ極大ダメージを与えていた。


 更にラトリに切りかかる敵兵。魔術師が味方の支援なしで生きられる時間は、5秒にも満たない。


ラトリ:

「フッ……」


 魔術師は、最後に腕を掲げ、親指を立てて見せ、絶命した。


ヴィルヘルム:

「ラトリッ! クッ、全員、城門に行け! 走れ!!」


ギヴァ:

「シェエァアア!!」


 ギヴァの率いるチームが、最後の一撃を加え、城門が瓦解した。


ジン:

「アクア、シュウト、行くぞ」


 アクアの乗せたキリンは、華麗なジャンプで放物線を描いて着地、そのまま城門へと走る。僕らも同じ方向に走った。

 〈スイス衛兵隊〉はまだ大勢のプレイヤーが居残っている。ジンとヴィルヘルムとを逃し、先へ行かせるためだ。それぞれの選択。それぞれの役割。そして、それぞれの勝利へ。


ギヴァ:

「急げ!」

ヴィルヘルム:

「ジン! 入るんだ!」

シュウト:

「ジンさん!!」


 城門の手前で振り返ったジンに対して、緊迫した声が重なる。


ジン:

「……ブースト・反転・〈アンカーハウル〉!」


 闇色をしたエフェクトの〈アンカーハウル〉が放射状に広がり、さざ波のように敵を呑み込んでいく。言葉通りの反転ブーストが成立しているのであれば、敵はジンを攻撃対象に出来ないはずだ。いや、もっと違う効果だってあるのかもしれない。


 ヴィルヘルムとギャンとに腕を掴まれ、ジンは城門の中へ。衛兵の管理するゾーン内への立ち入りと同時に、追ってきていた敵兵は離れていった。そのまま城門の外にバリケードを作るように立ちふさがる。

 ……と、外から飛んできた矢をはじき返す。最後に放った悔し紛れの一撃だったのだろう。


 城門の外に残った〈スイス衛兵隊〉の隊員は、ジンが城門内へ入ったことを知って「勝った!」と叫ぶものもいた。シグムントも外に残った一人だった。残念ながら、その大半はリンチされ、そのまま殺されることになるだろう。最後にジンが放った逆タウンティングが少しでも作用してくれれば、と祈るような気持ちだった。



 城門から離れて街へ入ろうとすると、単純に言って、大勢の人々がこちらをみていた。


ジン:

「そうか、街にも大勢のプレイヤーがいるんだもんな」

アクア:

「そうよ。外の兵士達だって、別に敵という訳じゃないもの」


 敵の大軍と戦っていたため、まるでセブンヒルの中でも敵意を向きだしにされるのかと思っていたのだ。

 しかし、セブンヒルの中には兵達よりも更に大勢のプレイヤーがいて、『どうなるか』と見守っているのだった。そこに敵意はなかった。〈スイス衛兵隊〉はセブンヒルに対して攻撃したわけではない。『レオンとの勝負』なのだと実感していた。



ヴィルヘルム:

「ジン君。どうだ、すぐ行けるか?」


 勝利を喜ぶ仲間達を余所に、ヴィルヘルムは冷静に次の行動を始めていた。まだ、終わってはいない。


ジン:

「少し、ゆっくり行きたいとこだな」


 さしものジンであっても、疲労の色は隠せない。仕事量で考えれば、一人で〈スイス衛兵隊〉に匹敵する活躍をしたのだ、こればかりは仕方がないことだろう。


ヴィルヘルム:

「わかった。我々が先に行って、レオン以外の敵を片づける。後から来てくれ」

ジン:

「あいよ……。なるべく早く行く」

ヴィルヘルム:

「頼む」


 有名人らしく、ヴィルヘルムの姿に歓声が上がる。半分以上は声援であり応援だった。無責任な声もあったが、ノリがいいのだろう。

 最強ギルドのリーダー格というのはこういう状況の方が分かりやすく伝ってくる。ヴィルヘルムを先頭に、生き残った〈スイス衛兵隊〉は小走りにレオンのいる宮殿へと走っていった。残りは20人ほどだろうか。ほぼ9割が脱落した大激戦だった。



アクア:

「私達もいきましょう」

 

 アクアのキリンは、合図すると一条の雷となって空に消えた。こちらも徒歩でセブンヒルを行くことになる。


ジン:

「やっべ、忘れてたじゃん」

シュウト:

「何ですか?」

ジン:

「ほれ、セブンヒルの地図を貰ってなかった。俺ひとりが生き残っても、レオンが何処にいるかわかんねーじゃん」

アクア:

「ああ……」

シュウト:

「そう、ですね……」


 綿密な打ち合わせをして、徹底的に準備したはずなのに、抜けてるところは抜けているもののようだ。


アクア:

「まぁ、確かに忘れてたけど、そこらの人に聞けば、教えてくれるでしょう?」

ジン:

「みんな居場所を知ってるってことは、余所者臭ハンパねーってことだろ」

アクア:

「細かいことにイチイチうるさい男ね」

ジン:

「そうかぁ? けっこー、深刻な問題を内包してないか?」


 大変な戦いを切り抜けたばかりだというのに、2人はもう、普通の会話をしていた。


シュウト:

(なんとか、生き残った……)


 正直にいって、ラッキーだったと思う。30分も戦っていたような気がするが、時間的には5分ぐらいの出来事のはずだ。ジンが生き残っているのは自分が守ったからではなく、実力によるものだろう。役に立っているか疑わしくなるものの、それでも居ないよりはマシだと思いたい。


 後はレオンを倒すのみ。

 セブンヒルの街並みを物珍しくキョロキョロと見つつ、アクアの後について観光…………ではなく、最後の戦いへと向かうのであった。

 


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