最強聖女なのにギャルだからって追放とか、マジウケるんだけど!
「え、ちょっと待って。ウチ、いま追放って言われた?」
王宮の大広間。
重々しい空気の中で、あたし──聖女マリカは思わず聞き返した。
だって意味わかんなくない?
つい昨日まで「国の希望」とか言われてたんだけど。
ざわ、と小さく空気が揺れる。
玉座の横に立つ男を、周囲がどこか緊張した目で見ていた。
──最近就任したばっかの新宰相。
若いのにバカみたいに仕事できるって噂のやつ。
「その通りだ、マリカ。君は聖女としての自覚に欠ける。言動も軽薄、その格好も不適切……これ以上、王国の象徴として置いておくわけにはいかない」
宰相がメガネくいってしながら、いかにも「ちゃんとしてます」みたいな顔で言ってくる。
無駄に顔がいいのがまた腹立つ。
性格が終わってなかったらちょっとは評価してたかもしんないのに。
「軽薄ってなに? ウチ、ちゃんと結界張ってたし、魔物の群れも一晩で消し飛ばしたし、回復も全部やってたじゃん?」
あたしが言い返すと、宰相は一瞬だけ黙った。
「……それは認めるが、問題は品位だ!」
「……で?」
一拍。
「品位で魔物倒せんの?」
場がシーンとする。
ほら見ろ、誰も反論できてないじゃん。
そもそもさ、聖女ってもっとキラキラしてていいポジションじゃない?
なのに地味なローブ着て、お祈りして、笑顔も控えめで〜とか、時代遅れすぎなんだけど。
「とにかく! 決定は覆らない。即刻、王都を離れてもらう」
「はぁ〜〜〜、マジかぁ」
ため息ひとつ。
まあいいや。
こんな堅苦しいとこ、こっちから願い下げだし。
「じゃ、バイバイ。あとで困っても知らんよ?」
軽く手を振って、そのまま大広間を出る。
後ろでざわざわしてるけど、もうどうでもいい。
──で。
三日後。
「ねえ、あんたたち。最近、魔物めっちゃ増えてない?」
王都からちょっと離れた街で、あたしは屋台の串焼きを食べながら聞いた。
「そうなんだよ! 結界が弱まってるって噂でさ……」
「へぇ〜」
そりゃそうでしょ。
あたしが張ってたやつだし。
ていうか、あれ維持するの普通の聖女じゃ無理だよ?
毎日こっそり魔力ぶち込んでたし。
「王都、大丈夫なの?」
「さあな……最近は聖女マリカ様も姿を見せないらしいし」
「ふーん」
ちょっとだけ、ニヤける。
ま、あたしがいなくなったらどうなるか、わかってもらわないとね?
その夜。
空が赤く染まった。
遠くの方──王都の方角。
「うわ、派手にやってるじゃん」
魔物の大群、完全に暴走してるっぽい。
さて、どうするか。
正直、あんな追い出し方されたし、放置でもよくない?って気持ちもある。
「……助けに行くと思う?」
誰もいない夜道で呟いて、あたしは空を見上げた。
──赤い。
でも、なんか変。
「……ねえ、アンタもそう思うよね?」
足元の影に話しかける。
普通なら、ただの独り言。
でも今日は違った。
『やっと気づいたか、聖女』
「は?」
影が、返事した。
『本来、この世界は魔物の側が正常だ』
その瞬間。
遠くの森が、ぐにゃりと歪んで見えた。
木だと思っていたものが、ゆっくりと脈打つ。
枝が、まるで指みたいに空を掻く。
「……は?」
思わず声が漏れる。
え、なにこれ新手のバグ?
さっきまで静かだった夜が、どこか生き物の内側みたいに感じる。
いや、違う。
「……こっちが本当で、あたしが見てた方が──」
『歪んでいたのだ』
影の声が、静かに続いた。
『人間が生きられているのは、聖女の力で無理やり歪めていたからに過ぎない』
地面が、どくん、と脈打つ。
「……ちょっと待って」
頭の中で情報が渋滞する。
「じゃあ、なに? ウチら、知らんうちに世界改変してた系?」
『そうだ』
「え、ウケるんだけど」
いや、笑えんけど。
つまりなに?
あたしがいなかったら人類終了っていうか──
「最初から詰んでる世界じゃん」
『その通りだ』
さらっと言うな。
ていうか。
「……なんで誰もそれ言わなかったの?」
『言えば、お前は役目を自覚する。そうすれば──』
影が、ゆらっと揺れる。
さっきより、少しだけ輪郭が濃い。
『今までのような、自由で型破りな力は発揮できなくなる』
あたしは黙る。
あー、なるほどね。
清楚でお淑やかな聖女やれっての、そういう。
「枠からはみ出るほどの力を無自覚に増幅させるために、制限かけてたってこと?」
『聖女らしさ、という檻だ』
「うっわ最悪」
思わず顔しかめる。
じゃあさ。
あたしがギャルだったから──
「逆にバグって最強になってたわけ?」
『……皮肉なことにな』
ちょっと間があってから返ってくる。
はー、なるほど。
全部繋がったわ。
遠くで、魔物の咆哮が響く。
それが、さっきよりも「正しい音」に聞こえるのが、ちょっとだけ気持ち悪い。
「じゃあさ、王都が今やばいのって──」
『お前という歪みが消えたことで、世界が正常に戻ろうとしている』
「つまり、人類滅亡RTA開始ってことね」
『理解が早いな』
でしょ。
あたし頭いいし。
……いや、問題そこじゃないな。
「ねえ」
影に向かって、ニヤッと笑う。
「それさ、元に戻るのが正しいなら──」
指を鳴らす。
バチッと、空気が弾けた。
ネイルが、淡く光る。
「ウチがもう一回歪ませたらどうなんの?」
影が、初めて黙る。
『……お前は──』
「聖女とかどうでもいいし?」
肩をすくめる。
「ウチはウチのやりたいようにやるだけ」
空の赤が、さらに濃くなる。
でも関係ない。
「世界の仕様? 知るかそんなの」
足元に展開する魔法陣が、今までよりずっと派手に輝く。
ネイルも髪も、全部同じ色に光って。
テンション、爆上がり。
「正しい世界とかクソつまんないんだけど?」
一歩、踏み出す。
「誰が決めた正しさだし」
笑う。
「ウチが一番盛れる世界に上書きするわ」
一瞬、間を置いて。
「だってその方が、生きてる感じするじゃん?」
『──それは、神への反逆だ』
「じゃあ、神も盛り直せばよくない?」
即答。
影が、完全に言葉を失う。
その瞬間。
空が割れた。
赤い裂け目の向こうから、“何か”がこちらを覗いている。
──そのとき、背後に気配。
「……はぁ。やっぱ来るよね」
振り返らなくてもわかる。
「なに、見物? それともまた“品位”チェック?」
「どちらでもない」
カツ、と靴音。
「──謝罪に来た」
「は?」
思わず振り向く。
あのメガネ宰相が、夜道に立ってた。
場違いすぎてちょっとウケる。
「君を追放した件だ。あれは──私の計画だ」
「……は?」
さっきから、それしか言ってない気がするんだけど。
「は? ……じゃなくて説明してくんない?」
「簡潔に言う」
メガネくいっ。
その仕草、今はちょっとムカつく。
「君は強すぎた」
「知ってる」
「その力は、世界を歪めている」
「それも、さっき知った」
「だろうな。だから隠していた」
さらっと言うな。
「じゃあ、何? 追放ごっこでウチ試したってこと?」
「違う」
即答。
「──成功率は三割だった」
空気が、少しだけ重くなる。
「君が折れれば、その時点で人類は終わりだった」
……へえ。
思ったより、ちゃんとヤバいことしてるじゃん。
「君を、自由にするためだ」
言葉が、静かに続く。
「王宮にいる限り、君は聖女でいなければならない」
「まあ、うざかったね」
「その枠が、君の力を制限していた」
あたしは黙る。
さっき影にも言われたやつ、それ。
「だから我々は、あえて君を追放した」
「……なるほどね」
腕を組む。
怒ってないわけじゃない。
でも──筋は通ってる。
「怒りも、不満も、全部ひっくるめて──枷を壊すために」
「いや普通にムカついたけど?」
「承知している」
間髪入れずに返ってくる。
で。
そこで初めて──
あの宰相が、頭を下げた。
「すまなかった」
シンプルすぎて、逆に重い。
「君一人に、全てを背負わせた」
……ちょっと黙る。
あー、これズルいわ。
「……で?」
腕組みして見下ろす。
「成功したの?」
「見ての通りだ」
宰相が空を見る。
割れかけの赤い空。
「君は今、聖女ではない」
「うん」
「だからこそ──世界に干渉できる」
「うん」
つまり。
「最初からそれ狙い?」
「そうだ」
「性格わっる」
「よく言われる」
ちょっとだけ笑った。
……顔いいやつが笑うとズルいんだよね。
でもまあ。
──嫌いじゃない。
……で。
「じゃあさ」
あたしはニヤッとする。
「全部うまくいったんだ?」
「まだだ」
即答。
「最後の工程が残っている」
「なにそれ」
宰相は、あたしを真っ直ぐ見る。
「──君が、この世界をどうするか決めることだ」
あー、はいはい。
丸投げね。
「責任重大すぎてウケる」
「君以外にできない」
「でたそれ」
でもまあ。
嫌いじゃない。
あたしは空を見上げる。
割れた向こうから覗いてる神。
全部まとめて──
「上書きでいいよね?」
「任せる」
即答。
ほんとこの人、ブレないな。
「……あのさ」
ふと思い出して、宰相を見る。
「謝罪だけで済むと思ってる?」
「思っていない」
即答(二回目)。
「君は、何を望む?」
来た。
交渉タイム。
にやっと笑う。
「神殿、フルリニューアル」
「……」
「あと予算メガ盛り」
「……具体的には」
「キラキラで、でっかくて、映えて、あとウチ専用フロア」
「……」
「あとネイルサロンとカフェ併設」
「それは神殿か?」
「神殿だけど?」
しばらく沈黙。
で。
深いため息ひとつ。
「──承認する」
「よっしゃ」
即決。
仕事早。
「国庫が傾くが」
「世界救うんだから安いもんでしょ?」
「……否定できない」
メガネを押し上げる。
その顔、ちょっと楽しそうなのムカつく。
「では、契約成立だ」
「り」
軽く手を振る。
「ちゃんと謝ったし、許してあげる」
そのまま、前を向く。
空の裂け目。
その向こう。
「じゃ、世界──盛ってくるわ」
一歩、踏み出す。
光が弾ける。
「どうせなら、全員まとめて盛ってやる」
ネイルが、髪が、世界が──弾けるみたいに輝く。
赤い空も、歪んだ森も、全部まとめて塗り替えていく。
「正しさ」なんてどうでもいい。
「それっぽさ」もいらない。
ウチが一番アガる形にするだけ。
──その方が、生きてる感じするから。
閃光。
世界が、上書きされる。
静寂。
そして。
「……なんだこれは」
ぽつりと、宰相が呟いた。
その顔を見て──
あたしは、吹き出した。
「ちょ、メガネ」
指さす。
「キラキラじゃん」
レンズの縁、フレーム、全部。
無駄にデコってある。
「……これは、君が?」
「ついでに盛っといた」
ドヤ顔で言う。
数秒の沈黙。
で。
宰相が、ゆっくりとメガネを外して──
ため息。
「……まあ、いい」
ちょっとだけ笑った。
だからあたしも、笑う。
ネイルが光る。
全部、完璧。
「メガ盛り予算よろしく」
「……了解した」
即答。
ほんと、この人ブレない。
まあいいや。
全部まとめて──
「マジウケるんだけど!」
新しくなった空の下で、あたしは、もう一回笑った。




