第6話 呼ぶ声
「でさぁ、京子ちゃん、何か聞こえたって何だったんだ?」
清原さんは顔色の悪い京子ちゃんにぐいぐいと聞く。
「……急に水が落ちる音がした気がして音が聞こえた方向を見たときに『おいで』って聞こえたのよ」
ビールを一気に煽った京子ちゃんは吐き出すように言う。
「っおー!?」
「何それ……」
村ちゃんとサンちゃんが腕を擦る。さっき謎の体験したばかりだから生々しいんだと思う。
「一瞬だけ、蓮池が見えた気がしてそこから『こちらにおいで……』って声が聞こえて……ついていきたくなったの!!それに宮司姿みたいな男の人が林の中にいたのよ」
わぁ……ゾクゾクする。なんだかお店の中の温度が急に下がったような……
「林には誰もいなかったぞ」
「ああ、誰ともすれ違わなかった」
清原さんとサンちゃんが「なぁ」ってお互い顔を見合わせて頷きあう。ちょっと恐怖感があるようで顔がこわばっている。
「今も聞こえる気がするのよ!!おいでって……」
ひゃーーー……
思わず後ろを振り返っちぉう。ママが棚に軽く持たれてタバコを吸ってた。
「なんでママ、真顔なんですかぁ」
怖がっても楽しんでもいないで、ただ清原さんたちを眺めている。
ママの吸うたばこの煙が薄く広がってお店の中を漂ってるような……ここの空調はどうなってるのかなぁ……でもお店もママもそんなにタバコ臭くないの不思議。
「おでんが冷めちまうよ。温めなおそうか?」
私の言葉はスルーでタバコを灰皿に押し付けて、清原さんたちに声を掛ける。
「ああ、大丈夫、食べちまうからお代わりをくれ」
京子ちゃんと寺さんは生ビールを、清原さんは焼酎のボトルをおろしてくれて、寺さんとちゃんはハイボールに飲み物を変えた。
「昔行ったときは呼ばれる声は聞こえなかったんですか?」
京子ちゃんが昔体験したことを清原さんたちが気になってってことだから気になってつい聞いてしまった。
「ないわ。そんな体験してたら絶対に行かないわよ」
ですよねー。
「そういえば、その時は火の車は出たのか?」
清原さんは怖がりつつも、好奇心を抑えられない。私と一緒だ。
「清ちゃん、そんな体験してたらもう一回行きたい?」
京子ちゃんが呆れた声で吐き捨てる。
「どうかな、気になって一回は行くかなぁ」
「俺も~」
清原さんとサンちゃんは似たもの同士なのかな。
「でも天気が崩れたり、裏林で怖い思いは前もしたんだろう?」
「そうよ、だけど今日のは昔より怖かったわ」
寺ちゃんが聞くと京子ちゃんは寒そうに身を縮めた。
「……あんたたち、神社は拝み奉るために行くもんだよ。日本の神様の多くは祟り神さ。無事に帰ってこれただけで御の字だ」
ママが京子ちゃんに熱燗でおでんの出汁割りをつくって出す。
「温まるよ」
「あ、ママ、俺にもくれ」
「僕も欲しい」
結局みんなで出汁割りを飲むことに。私にも出してもらえた。
お出汁の香りとほんのり残る酒気が優しく喉を通っていく。
「あんたたち、いい歳なんだから肝試しなんてしてないでハイキングにでも行ってきなよ。神社の散歩だって本当は気持ちいいもんだよ」
清原さんたちはママより少し若いくらいかな。服装や顔立ちから考えるとうちのお父さんたちより若いかも。
「特にすることがなかったからさ、ちょっと気になって行ってみたんだよ」
「ゴルフって気分じゃなかったし」
「ボーリングは腰がやばそうでなー」
オジサンたちがママに言い訳をする様子はちょっとかわいい。
「私は植物園が良かったわ」
京子ちゃんは清原さんたちに押し切られちゃったんだね。
結局、清原さんたちは上着が乾くまでに、おでんの鍋を空にしてたくさん飲み食いしてくれて。
ママはお見送りで京子ちゃんにコートを渡したときに、京子ちゃんの肩をパンパンと払う仕草をして「嫌な時はちゃんと断るんだよ」と言った。
みんなが帰った後、ママはしばらくの間、お店の扉を開けっぱなしにした。
「どうしたんですか?」
「湿気が籠ると嫌だからね」
ママは咥えタバコで入口の掃き掃除をした。灰が落ちないのかな。
しばらく掃除をして時間が過ぎて扉を閉めた。
「今日はこれでおしまいかねぇ……」
なんてママが呟いたら、入り口のベルが鳴る。
カランカラン
「ママ、飲みにきたよ」
コマっちゃんが奥さんを連れて飲みに来てくれた。




