第4話 怖いけどそっちの怖さは求めてないです
今日は予約のお客が18時からくるからと17時に出勤することになった。
少しだけ早い時間のお店の周りはなんとなくいつもと違う気がして楽しい。
「おはようございます」
ママから夜でも仕事でお店に入るときには「おはよう」って言うことを教えてもらった。
「ああ、おはよう。盛りつけを手伝って」
ママはおうちで作ってきた料理のタッパーをカウンターの中に並べて出している。
私はコートを脱いで手を洗ってからカウンターの中に入った。
「今日も美味しそうですね」
「夕飯は食べてこれなかったのかい?」
「軽く食べてきましたよ」
だって美味しそうだからつい料理をじっと見てしまう。
かぼちゃサラダと出し巻き卵、おでん、鶏の照り煮、きんぴらごぼうとお母さんが作ってくれるレパートリーもあるけれど、味付けが違っててどちらも美味しいの。飲みの席で出すものだからママの方が味が濃いかな。
「どうせ余るから少し食べておきな」
その言葉を待ってました。
全部を少しづついただきます。美味しー。おでんはまた仄かに温かい。
「今日のお客はおでんが好きなんだよ」
「そうなんですか」
「アタシはおでんってちょっと……思い出すことがあってねぇ」
ママはおでんを鍋に移してお出汁の味見をする。
「なんですか?」
ママは怖い話をしてくれそうな顔をしているのでワクワクと続きを待つ。
「昔は仕事が終わるとアカネたちとお店の近くの居酒屋とか小料理屋によってね、ほら、今みたいに24時間のコンビニとかなかったから途中で買って帰るってできないから……」
コンビニが24時間じゃないってお父さんがちらっと言っていたかも。
「ま、当時は今より飲み屋が多くてね。ラーメンだったり天ぷら屋やお寿司なんかも遅くまでやってたさ」
「そうなんですねぇ、深夜に外食ってあんまりしたことないです」
大学の時にレストランチェーンとかくらい……
「ある日、アカネとすごく古い建物で趣のあるおでん屋を見つけてねぇ」
これは怖そうとドキドキして続きの言葉を待った。
「お店の中は雑然としてて本当に生活感あふれる感じで、おばあちゃん二人で切り盛りしていてさ。私たちは逆に新鮮に思えて……おでんをお任せで頼んでビールも出してもらったのさ」
あれ、普通に食事の話かな。
「で、おでんが出てきて箸立てから割り箸を取り出すとき……ふと箸立ての横から黒いものがニョっとよぎったのさ……」
ぎゃーーーーーーーー!!!!!!!!!!
「えっ……それって」
飲食店では絶対NGなアレですよね⁇
「アカネと二人で顔を見合わせて『あのー』って言ったら女将さんが『今の若い子はすぐ気にするけどそんなものはどこにでもいるから』って流されちゃってね」
いやーーーーーー!!!!
「頼んじゃったから、ま、食べると美味しかったのよ」
ママは本当に美味しかったとつぶやいてるけど、今もその時も普通にダメだと思う。
「大小いろいろなサイズを見たのは後にも先にもあの時だけさ……」
口うるさく掃除しろって言うのはそういうことだったのかな……
哀愁漂うママの口調がよりあの(・・)存在を強調する。
「でね、お店を出たら三時くらいだったかしら……ゴミ置き場に近くの飲み屋のその日のゴミがおでん屋の脇に出てるわけ。見ないようにして帰ったわ……」
そりゃ、繁華街にはよくいるって聞くけど……
「もうねぇ……あの頃はいろいろ緩かったから」
今そんなお店があったらSNSで大炎上だと思うのだけど……
「でもねぇ、本当に美味しくて、女将さんたちも楽しくてまた行きたいって気持ちもわくお店だったの……さすがにいかなかったけどさ」
当時のママたちは二十歳になったばかりのころのはず、今の私くらい……同じような感覚のはず。
「この間、そのあたりを通ったらシャッター通りになってて切なかったわ」
「そうなんですね……」
「あの頃の飲食店の怖い話はまだまだいっぱいあるよ。ふふ」
あ、ママは私が違う怖さを期待していたのを知っててこの話をしたんだ。ニヤッと悪い顔で私を見てるの。もーー!!
「今だと死活問題になるから私には本当に怖い話だけどね」
そんな話をしていたら、予約の時間になってしまった。
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オカルトではない怖い話になってしまいました
ママのやりたいように持っていくと、一番書きたい場面の流れにたどりつける気がして
先に虫注意を入れるべきかと思いましたがネタバレすぎるので今回はご容赦ください




