第2話 ラウンジ〈camellia〉
ママと二人、いつも使っている個人タクシーで繁華街に向かう。
「今夜も暇だったのかい?」
「そうなんだよ。コマっちゃん」
運転手のコマっちゃんは、ママが毎日行きかえりに呼ぶし、タクシーで帰るお客さんのためにも呼ぶので仲良しだ。古い付き合いでお店の流行り具合もよくわかってるみたい。
たまにタクシーのお客さんに〈蓮~ロータス~〉を紹介くれたりもするらしい。
「おれぁ、今日肝試しの客にあたっちまってなぁ」
コマっちゃんはちょっと嫌だったような声音で話す。
「おや、今どきもそんな遊びしてるんだねぇ」
「えー、この辺りに怖いところあるんですか?」
私はオカルトっぽい話は結構好きだ。テレビやネットの番組も超常現象とか嘘臭いと思いながら見ちゃう。
怖いのはイヤなんだけど、配信者の廃墟探検なんてちょっとワクワクしちゃう。
「なんだい、そんなのに興味あるのかい?おっちゃんは深夜の仕事が怖くなるから関わるの嫌だけどね」
「オバケとか見てみたいけど見たことないから気になっちゃいます」
「見えないいもんは見えないほうがいいんだよ」
コマっちゃんは、本当に嫌みたい。タクシーと心霊現象って怖い話でよく出てくるのにね。
「隣町に廃ホテルがあってなぁ、あそこは今は進入禁止なんだけどそれでも見に来ちゃうんだよね」
廃ホテル、オカルト動画によく出てくる。でも実際何か出たっていうのは少ないと思う。
「帰りまで待ってろって言われるのが嫌だな。一人で暗いとこで待つんだよ」
それはたしかに嫌だな……
「風が吹いたりして窓がコツンってなった気がする時とかゾゾっとすんだよなぁ」
ギャーー、暗闇の中一人ぼっちの時そんな音聞くの、絶対イヤだよ。
「興味本位でそんなところ行くもんじゃないよ。ユリカ」
ママは嫌そうな顔で注意した。
「えー」
「コマっちゃん、生活がかかってるから仕方ないけどなるべく他の人に回しなよ」
「そうしたいけど、行き先聞く前に乗せちまうんだから仕方ないべ」
「まぁねぇ……」
話の途中で目的地に着いちゃった。肝試しスポット気になりすぎる。
「帰りに呼ぶよ」
「あいよ」
コマっちゃんは個人だから毎回必ずつかまるわけじゃないけどね。
今夜はママの昔の同僚のお店。ラウンジ〈camellia〉に連れてきてもらった。
ちょっと古い趣のある扉を開けるとママより少し先輩で迫力があるママさんがいるのだ。
「アカネ、アタシはいつもの。ユリカは何を飲むんだい」
アカネママは茶色の肩より下の長さの髪を少し巻いてて、やっぱり少し派手なスーツを着ている。
雰囲気としてはライオンのような、威風堂々とした感じかな。
「私も静加ママと同じでお願いします」
「好きなもののめばいいのに」
静加ママは今日のつきだしの残りをアカネママに差し出した。
「こんなにいいのかしら?あんたの店よくつぶれないでもってるわよねぇ」
アカネママが苦笑する。私も少し思ってる。セット料金が安いしほとんど一人客だから。
つきだしはナッツといぶりがっこクリームチーズ、セロリの漬物。そして頼んでいたウィスキーのロック。
「仕事終わった後はこーいうのが良いんだよね」
静加ママは嬉しそうに漬物から手を付けた。
「そういえば、最近知らない連中が飲み歩いてるってさ。あんたんのとこも来るかもしれないから気を付けてね」
静加ママが一人で店にいることが多いから確かに心配になる。
「……さっきコマっちゃんが肝試しがどうのっていってたよ。その連中かねぇ」
〈蓮~ロータス~〉もだけど今日繁華街の中の〈camellia〉も滅多に新しい顔のお客は来ないと思う。悲しいかなこの街は廃れるばかりで。観光客も来ないし、わざわざ飲みに足を延ばすほど魅力的な街に思われてないから。
「肝試しねぇ……若い時は楽しいと思ったけど今思うとなんだったのかしらって思うのよ」
「まぁね……その時のノリってのはわかるんだけど、ぶっちゃけ不法侵入だよ」
確かに。入っちゃいけない場所とか、他人の持ち物かもしれない。
「ま、私たちもけっこう好きだったわよねぇ。肝試し流行ってたし」
アカネママが笑って言うと静加ママが苦い顔をした。
え⁉︎行くもんじゃないって言ってたのに!




