第10話:黄金のベルト、火花を散らす
急ブレーキをかけた軽トラックが、火花を散らしながらアスファルトの上を滑る。
その真上、黄金の光を纏ったブレイブ・レオが、隕石のような勢いで拳を振り下ろそうとしていた。
「イーッ! イイィィッ!!(今だ、デッドホーン様! 懐へ潜れ!)」
俺の叫びに、デッドホーンが即座に呼応した。ボロボロになった脚部のサーボモーターを過負荷で焼き切りながら、彼は荷台から垂直に跳躍する。
「おおぉぉぉぉ――ッ!!」
かつて本部のエリートと呼ばれた男の、執念の一撃。 デッドホーンの両腕が、レオの腰にある黄金のベルトをガッチリと掴んだ。その瞬間、ベルトの冷却ファンが断末魔のような悲鳴を上げ、臨界を超えた放電が周囲を焼き始める。
「な……離せ! 離せ、アビスの怪人! ベルトが……制御が効かん!」
二人の巨体がもつれ合い、地面を転がる。レオは必死にベルトを抑えようとしているが、その挙動はもはや素人目にも「爆発寸前」だった。
(……ドラクマ局長。あんたが書いた台本通り、デッドホーン様にはここで『処分』されてもらいます。……だが、レオ。あんたまで死なれたら、俺の今後の『折衝』に差し支えるんでね)
俺は運転席から飛び降り、アルティナを庇って遮蔽物へ逃げ込む。その動作の合間、誰にも見られない角度で、ダッシュボードから掴み出した「予備の通信機」を二人の足元へ放り投げた。
通信機は、もがき合うレオの耳元に転がる。直後、通信機のスピーカーから、最大音量の「人間の声」が響いた。
『――ベルトを回せ! 左の排気弁を全開にして、海に跳べ!!』
レオのバイザーが、一瞬だけ音の主を探して動いた。 彼は半ば本能的に、その切迫した「声」に従った。ベルトの側面に指をかけ、無理やり排気弁をこじ開ける。
ドォォォォォォォォォンッ!!
臨界点を超えたブレイブ・ベルトが暴発した。 だが、レオが寸前で排気弁を開き、海側へ身体を捻ったことで、爆発の指向性が僅かに歪んだ。破壊のエネルギーの大部分は、彼を掴んでいたデッドホーン側へと叩きつけられ、そのまま周囲の海面を巨大な水柱となって跳ね上げた。
光が収まり、砂煙が晴れていく。
「……あ、ああ……」
アルティナが絶句していた。そこにあったのは、黄金の輝きを失い、ボロ布のように地に伏したレオの姿だ。
(完璧だ。レオは助かった。……いや、あえて『助けた』。絶体絶命の瞬間、正体不明の何者かに命を救われた。その事実は、正義の味方の心に一生消えない楔になる)
アーマーが半壊し、意識を失いかけているレオの傍らへ、俺は音もなく歩み寄った。地面に転がる、役目を終えてひしゃげた通信機を拾い上げる。
「(……命拾いしたな、ヒーロー様。あんな欠陥ベルトを掴ませたのは、あんたの身内か、それとも俺たちの本部か。……ま、精々その命、大事に取っておけよ)」
俺のボイスチェンジャー越しの囁きを、レオが朦朧とした意識の中で聞いたかどうか。彼のバイザーから光が消えるのを確認し、俺はアルティナの方へ向き直った。
「イーッ! イイッ!(……大変だ! ヒーローが暴走して、デッドホーン閣下を粉々にしてしまったぞーッ!)」
俺は再び戦闘員の声を上げ、周囲の先輩たちに合図を送る。遠くでは、ワゴン車から這い出したカメラマンたちが、震える手でこの「凄惨な幕引き」を撮り続けていた。
「(……閣下、行きましょう。証拠の通信機は回収しました。これでこの場に、俺が介入した痕跡は一切残りません)」
アルティナの手を引き、俺は闇へと消えた。これでヒーローへの「巨大な貸し」ができた。
(さて、次はあの上司……ドラクマ局長への『成功報告』だ。デッドホーンが消えて喜んでいるあんたの喉元に、いつナイフを突き立ててやるか……。じっくりと考えさせてもらうよ)




