アルバムの君へ
日付だけはなぜだか鮮明に思い出せる。11月の7日。あれだけ主張が激しかった夏も今や懐かしいほど涼しくなってきた。俺は傷痕を長袖で隠し、バイトへ歩いて向かっていた。薬にも毒にもならない流行りのバンドをヘッドフォンで垂れ流し、Twitterを上から下に流す作業を惰性で続けていた。来週にはテストが控えてるってのに、意味も目的もなくバイトに没頭していた。稼いだ金はゲーム会社に吸い込まれ、このままじゃあダメと理解しつつガチャを回す。出た☆6オペレーターに喜びつつ、どこかで冷めた自分がいる。
「そんなゲーム何になるの?何もないから、ゲームしかすることも誇ることがないだけじゃん」
チッ。俺だって・・・まぁいいや。俺はヘッドフォンの音量を上げる。中身のない薄っぺらいラブソングと見栄のための投稿。すべてが嫌になり、ポケットにスマホを押し込んだ。
バイトの控室に入り、椅子に座り壁に背を預ける。後輩2人が俺が入ってきたときに一瞬会話を止め、また喋りだした。ポケットからスマホを出し、ロックを解除する。
「近いうちに電話したい」
送られてきたたった10文字のライン。高まる鼓動と訝しむ挙動。震える手でトーク画面を開いた。1分前。がっついてると思われるか?知るかそんなもの。
「一難去らずまた一難。何かあったの?」
即既読。すぐに返信がきた。
「ブロックしてなかったんだね」
「する理由がなかったからな。藤原さん」
少し迷った後、あえて名字で呼ぶことにした。これ以上お互い傷つかないように。俺とお前はもう他人なんだって線を引くために。
少しの間のあと、
「今から電話できない?和」
変わらずアイツは名前で呼んでくる。そういう所が嫌いなんだ。私は気にしてないよって。才能なんてないよ。努力だよって。ああ、ただの自意識過剰ってことくらい分かってる。アイツは誰にでもモテるから、暇だったから連絡をよこしてきただけにすぎない。そう言い聞かせないと上がる口角を隠し切れない。
「無理、今からバイト」
「10時までだっけ」
・・・よく知ってるな。校則違反のバイトをしてることなんてそんなに公言しているわけでもないのに。さっすが1軍さんだ。頭の回転だけじゃあなくてお耳がお早いことで。
「それ終わったら電話かけてもいい?」
少し迷った。後輩2人が立ち上がり上着を脱ぎだした。俺も上着を脱ぎ、少し迷った後返事をせずにスマホと財布を金庫に入れた。
それから2時間、特にミスも問題もなく仕事を済ませた。妙に働いてる時間が長く感じた。
斎藤からのラーメンの誘いを断り、ヘッドフォンを付けなおす。通知は2件。見たい気持ちを抑え、アップルミュージックを開く。手癖でヒットソングを流そうとしたけど、少し考え、ボヘミアンラプソディーを流す。中学の頃の青くて尖って痛い記憶が耳から流れ込み、思わず苦笑した。あの男がママに泣きつく前にトップソングに戻す。深呼吸をひとつ。俺はラインを開いた。




