贄儀讃歌(にえのぎさんか)
これは、霄穹界に伝わるとされる古文書の断章、一節です。
内容は象徴と暗喩に満ちており、確かな事実とは断言できませんが、
それでも“理”の深層を紐解く鍵となるでしょう。
時、未だ天地裂かれず。
光は影と混ざり、名も理も輪郭を持たざる頃。
地は呻き、空は裂け、
夙罹の咆吼、万象を呑む。
人、ただ祈り、ただ哭く。
――その刹那、ただ一柱の“えいゆう”、
命を裂きて願いを熾す。
血は祈り、祈りは焔となりて天に昇り、
骨は根を張り、根は礎と化す。
かくして、贄より刻されたは――
十なる御魂、呪いの律と成る。
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禺深羅— 頭蓋より顕現
「心の迷宮を紡ぎ、現実を揺らす」
知略と冷静さで渦の中を統べ、幻覚の幕を自在に操る。
その眼は真理の深淵を見据える。
澄姚綺— 眼球より覗く
「澄みて幽かに、綺は透けて視えず」
深層を穿ち、魂の揺らぎまでも映す視の鏡。
盲目なる真実を見抜く瞳。
喚鏡吼— 声帯より唱わる
「喚びて映し、吼えて変える」
声は契り、言は術。
言葉で世界を書き換える、音律の書記。
鼓命紘— 心拍より響く
「鼓は命の律、紘は輪廻の環り」
一拍にして百命を息づかせ、
癒しと再生を脈打つ霊律の奏者。
堅瑞縵— 骨盤より結ぶ
「堅きは瑞の証、縵は護りの環」
結界を編み、乱れを鎮め、地脈を調える守護者。
沈黙にして磐石の支柱。
轟覇連— 両腕より奔る
「轟くは覇の響き、握るは義の刃」
万軍を穿つ拳、その力の奥に宿るは、
誰よりも繊細なる情。
遊踏惟— 両足より駆ける
「遊びは舞、踏みは道、惟うは境」
空間を跳ね、時を渡る、奔る意思そのもの。
舞うように、境界を超える者。
穢喰禊— 臓腑より燃ゆる
「穢れを喰い、禊ぐは業火」
喰い、焼き、祓い、鎮める。
穢れを己に抱き、代償として浄化を与うる巫火の巫女。
綾封主— 毛髪より編まる
「綾を封じ、術に織り、主となる」
呪の糸を織り上げて結び、力を鎖す。
封印の工芸を極めし術の母。
隴嶺祀— 陰影より現る
「幽かなる嶺に祀られし影の神子」
影に棲み、霊を召し、
彼岸と此岸を渡る、境界の媒介者。
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十の魂らは、英雄の祈いにして、
術の起源、理の胎動。
名もなき願いが、声となり、身となり、
やがて理を織りあげし。
この儀をして「呪の律」と呼び、
後の世の者ら、深く畏れ、深く敬う。
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『呪源記・巻一 天啓章』より抜粋
霄穹十一領域 第六領域:星霜閣 神綴亭 翻綴官 訳
真実か、寓話か。
その判断は、読み解く者に委ねられています。