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第8話 対策本部(仮)と有識者(自称)会議

「ちょっと篠原の旦那を借りるぜ」


 まったく……この稲妻刑事(イナズマ・デカ)は、いつでも問答無用。昔からこうやって俺を引っ張り回す。あの時だって……。

 すると、えみりーちゃんが彼に近づいていき、声をかけた。


「まぁまぁ、稲妻刑事サンダーボルト・ジョウさんよ。『上海亭』も大丈夫そうだし、これから朝飯を作るのだけれど、あんたらも食ってかない? 今、横浜は、どこも停電だし……お店なんか開いてないだろうしさ」


 ナイス! 少しは時間が稼げそうだ。


「いいねぇ、慌ててもしょうがない。よし! それじゃあ、王刑事(ワンチャン)も食ってこうぜ」

「はい、いいですね! 実は昨日から、ろくなものを食べてなくて。俺は『本格四川麻辣豆腐(マラードウフ)麺』を……。稲妻さんは何を食います?」

「俺は、いつもの『青椒肉絲(チンジャオロースー)』を頼むわ」

「あーっ! 私! 私は、えーっと……炒飯! 炒飯だぁすき!」

「うぷっ、おまえら……。朝っぱらから《《油ギトギト》》に《《激辛》》かよ! 元気だな……。俺は『小籠包(しょうろんぽう)』だけでいいや。ユカはどうする?」

「私は、いいや。さっきカロメ食ったばかりだから、お腹空いてない」

「じゃあ、準備するから中で待ってな……」


 俺たちは、ぞろぞろと陳香楼(ちんこうろう)に入っていった。


   ◯


 店の入口からみて左の奥に、大きめの宴会スペースがある。そこには丸い回転テーブルがあり、それを囲んでみんなで集まって、料理ができるのを待っていた。厨房の方からは、ジャッジャッと鍋をふる音が響いてくる。部屋の端で、えみりーちゃんが壁によりかかりながら足を組み、セブンスターに火をつけた。


「――さて、篠原よ。ちょっと聞いてほしいんだが……」


 稲妻刑事(イナズマ・デカ)がタバコをくわえライターを手に、唐突に話をはじめた。

「今、横浜市内全域が停電しているだろ? どうにもおかしいんだよ。ほら、全国市区町村役場システムが不具合を起こして役場が機能していない件。実はな……、ここだけの話なんだが……」


 俺は、嫌な予感がした。


「ちょっと待った! それ以上は待った! まぁた俺を便利に使おうとしているだろ。あんたが、それを言うときは必ずなんかあるんだ」


「ちっ、察しがいいな……。まぁ聞けよ……」


「一ヶ月前のことだ。俺の高校時代の後輩、篠原の2つ上の先輩にあたる中島聡(ナカジマサトシ)、覚えているか? あいつ今、警視庁で捜査二課長をやってんだよ。で、そこに脅迫文が届いたんだ」

「ああ、覚えている。中島先輩は、あの時生徒会長をしていて、俺や、えみりーちゃんとつるんで、よく悪巧みをしたもんだ」

「それでな、その中島が言うには……」


『汎用人工知能は危険だ! 直ちに使用を中止しないととりかえしのつかいないことになるぞ! あれはまだ進化の途上でとても社会運用に耐えられる代物ではない。昨今生成AIだ、AGIだと騒がれてはいるが……(以下数十ページに及ぶ危険性についての説明)』


「――と、今どきめずらしい手書きの封書でな。かなり几帳面に文字の大きさの揃った筆跡でびっしりと。それも小さい字で。その危険性について解説が書かれていたらしい。何十枚も。『薄気味悪い』って中島のヤツがこぼしていたよ」

「確かに気味が悪いですね。なんか怨念のようなものを感じずにはいられません……手書きで数十枚とか」

 佐竹ちゃんが、腕を抱えてブルブル震えている……。


 稲妻刑事が手帳のメモを見ながら昨日の市内のトラブルを振り返る。


「それから3週間後、つまり先週月曜から、『①全国市区町村役場システム』の不具合発生。昨日の『②らんらんマークタワー避難警報』と『③横浜市内大停電』、『④横浜市役所防災無線異常放送』、立て続けに不具合が発生して、社会に混乱をもたらした」

「聞けば、これらすべてに『汎用人工知能』技術が使われていて、どれもが人の手を介さず独自に状況を分析し、とるべき行動を自ら判断、実行できるらしいじゃないか……。と、脅迫文に書いてあったと中島が言ってた」


「なんだそりゃ、脅迫文に手口をわざわざ書いて送るのかよ。自己顕示欲モンスターか?」


「この手のややこしいコンピューター犯罪には、正直言って警察組織は弱い。いつも後手後手になってしまう。いや、警察はいつでもコトが起こってからだな。そこでだ……」

「ああ、それで(うち)に来たわけだ。篠原くんに協力を依頼するために連絡を取りたい、と」

「あいかわらず察しがいいな……エミリー・チャンよ」

「あーやっぱりそういう事か。それで、俺が陳香楼(ちんこうろう)にいたのがタイミングがいいと」


 ――ピーッ、ピーッ、ピーッ


 と、その時、店の配電盤から電子音が鳴り響き、電気が大容量バッテリーから電力会社からの供給に戻った。店の照明が省電力モードから通常の明るさに自動調整が働いた。

「お、明るくなった!」皆があたりをキョロキョロと見回した。

 えみりーちゃんが、配電盤の様子を見に行き、ホッとした表情でつぶやく。

「ああ、よかった。もう少し停電が続いていたらここのバッテリーももたなかったかもな。さぁ、料理も出来たみたいだし、朝めしを食べようか」


「よし! まずは腹ごしらえだ。食うぞぉ!」


 俺はなんだかますます食欲がなくなってきたよ。


   ◯


 朝めしを食い終わった面々は、おのおのリラックスした状態で、温かい烏龍茶をすすっていると、佐竹ちゃんのスマホが鳴った。

「はい、佐竹です。あ、山之内さんですか……ええ、はい……そうです、はい、はい」

 山之内からの電話か。あいつ結局家に帰れたのかな?

「ええーっ? なんですってぇ? ほんとですか、それ……。はい、わかりました。私はとりあえず自宅待機ですね」


「……!」

 佐竹ちゃんの声に驚いて、みな一斉に彼女の方を向いた。


「どうした? 山之内はなんて言ってるんだ?」

「《《とぅとと》》さんが亡くなったと……。自殺……らしいです。遺書もあるそうです」


          ―― つづく ――

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