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第5話 こだわり酒家・陳香楼<チャンホォンラウ>

「よお! えみりーちゃん! 久しぶりだな、なんか食わせてくれよ……」

 俺はいつもと同じように話かけた。

「……誰かと思ったら、篠原くんと佐藤さんか。あれれ? 今日はユカりんと、とぅととも一緒とは珍しい。後ろの二人は……あんたらのツレ?」

 山之内と佐竹ちゃんが、ペコりと軽く会釈した。


「ああ、らんらんマークタワーから、ここまで歩いて来たんだが、中華街も全部停電しているみたいだな」

「中華街『も』って……停電しているのは、このあたりだけじゃないの?」

「みなとみらいから馬車道、スタジアムまで全部……信号も消えてる状態だ」

「なるほどね、それで……うちの店まで来たのか」

「えみりーちゃんは話が早くて助かる」


「まあコンロも水も使えるから、みんなは食事してるといい。いま停電で客もいないから調理人は休憩してるけど呼んでくるからメニュー見て待ってて」

 すると佐竹ちゃんが真っ先に腕を大きく上に広げながら、「わぁい、チャーハン! わたし、チャーハン、だぁいすきなんだ!」と、壁のメニューを眺め始めた。

「それじゃあ、わたしは……」佐藤さんは、薬膳だろうな……。

「では私は、青椒肉絲で……」山之内の奴、いいチョイスするじゃないか。

「うーん……」相変わらず優柔不断だな、とぅととは。


「――ちょっと篠原くんとユカりん、いいかな?……」

 俺たち2人を、えみりーちゃんは手招きで厨房の奥に呼んだ。


   〇


 ――これまでの経緯(いきさつ)を、えみりーちゃんに詳しく話した。


 俺はもう引退して神保町で純喫茶をやっている。

 現在稼働中の「全国市区町村役場システム」が不具合を起こして現場は大混乱。

 システムのコア部分に俺が去年関わっていた汎用人工知能研究の技術が組み込まれているらしい。ユカが、その開発プロジェクトに参加していて、俺に助けを求めてきた。

 システム開発拠点の「らんらんマークタワー」に来たが、ビル管理システムにも同様の技術が組み込まれているようで、突然おかしな動作をしだして「避難警報」を発報した。

 そしてそのビルを始め、地域一帯を巻き込んで暴走している模様。どうも横浜市のシステムも同様とみている。


「――と、いうわけで……あのまま、あそこに残っていても埒が明かないので、こうしてえみりーちゃんのところに来たんだ」

「そっかぁ、篠原くんったら……まぁた、やらかしちゃった訳だ」

「えっ、ちげーし! 俺じゃねーし! 俺は、ちゃんと警告したし、誰かが勝手にコアシステムを流用したからだし……」


 横でユカが「うんうん」と頷いていた。

 セブンスターの煙を、ぷはぁと吐き出し、ニヤニヤしながら俺を少しからかうようにえみりーちゃんは続けた。


「で、うちに置いてあるワークステーションを使わせて欲しい、と」エミリーちゃんは察しがいいから話が早い。

「そう! まさかこんな事態が発生するとは、さすがに思わなかったんだよ。今日は顔合わせの面談だけのつもりだったからさ、何も持ってきてないんだよ」

 ほんと、すぐに帰るつもりだったしな。

「でも篠原くん、スマホでもチャチャーっと何でも出来ちゃうじゃんよ?」

「いや、スマホは持っているんだけどな。これで作業は……さすがに辛い。出来んこともないが歳のせいか……目がな……老眼入っててな」

「あはははは! 篠原くんもかぁ。実は私もね、この頃は近くのモノが見えにくくなってねえ」

 と、言って老眼鏡をかけるような仕草をした。お互い歳は取りたくないもんだな。

 ユカは、「ふーん、そういうもんなのかな。私は両目とも視力1.5あるし心配ないかな」とか言いやがる。

 いやいやいや! お前もな……いずれ、わかる日が来るぞ! と、言葉に出さずに思うだけにとどめた。なんかさ、いかにも老害っぽい発言に感じたんでな。


   ◯


 店の奥の事務室に3人で入った。最新のPCと、少し古いUNIXワークステーションが鎮座していた。古いと行っても安定性に定評のある機種だ。その横にはコピー複合機。

 そして観葉植物や、壁には「招財進宝」と書かれた春聯(しゅんれん)が飾られていたり、バイトのシフト表やらが貼ってあり、「ああ、中華飯店の事務室って感じだなあ」と、関心していた。


「――うちは停電時でも、配電盤で大容量バッテリーへの自動切り替えで、電気は途切れずに使える。ワークステーションと衛星アンテナは、常時稼働するようにしているから、いつでも使えるよ。今はバッテリーが勿体ないからシャットダウンしているけどね。」

 えみりーちゃんが、得意げに説明してくれる。説明好きなのは相変わらずで、なんかいいな。

「さすがだな、昔から新しいモノをすぐ導入していたし、ISDNなんかもいち早く使い出したもんな」

「……ただの新しいモノ好きだよ――」

「いやいや、えみりーちゃんだからこそだよ」

 ユカがジト目で眼鏡に指をあてて、俺を見ている……。なんか不機嫌になってきている気がする。


 ――ヴゥン……ピーッ! チチッ……カリカリカリカリカリ……。


 電源スイッチをONにしてワークステーションに火を入れた。

 UNIXデスクトップが起動したのを確認し、俺はポケットからUSBメモリを取り出し、ワークステーションに差し込んだ。


 画面上には人工知能エージェント起動シークエンスが表示されだし、起動確認を読み上げている。

 

 ピッ、カメラアイ――OK

 マイク――OK

 ストレージ残量――OK

 第三世代準天頂軌道衛星とのリンク――OK

 現在位置確認――OK

 システムオールグリーン

 ポーン! ――汎用人工知能支援メイド・ナギちゃん――起動完了


 ポーン!「篠原さん、どうした? えみりーちゃんチに来て何しているん?」


「げぇっ! ここにもキモメイドが!」

 ユカ、そればっかだな。よし、ここでも第三世代衛星が使えるのは助かる。


          ―― つづく ――


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