一話
Longには三話分の物語を一話にまとめて投稿します。
おそらく皆物語の登場人物たちにあこがれたことはあるだろう。
あこがれは自分じゃ成し遂げられない、この現実で起こることのないことに対して起こる心だ。
大人になるにつれ、現実を知るようになればさらにあこがれは強くなっていく。
だがそのあこがれが現実そのものになった今オレは一つの心のたぎりを失ってしまった。
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世界中でのダンジョンの大量発生「hellwake」が起こると同時に地球全体の人間に何かしらの特殊能力いわゆる「異能力」や「スキル」と呼ばれるものを発現させ、異能力犯罪やダンジョンからの魔物が世界を混沌に陥れた。
このような状況を打開するために有力な異能力者たちが政府に立ち会い異能力者協会「SkillSphere」が結成された。初代SkillSphere隊長たちは各地に出現したダンジョンや魔物の数を少しずつだが確実に減らしていき、人々の生活に支障をきたさないレベルにまで抑え込んだ。
その過程の中で異能力者も着々と集まっていき、SkillSphereは魔物やダンジョンへの対策だけでなく、軍事や救助へも起用され、魔法やスキルは日常生活にも組み込まれていく。そして人類は都市の発展や技術の進歩の道をさらに広げ進めた。
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「起きてよ五十嵐―。もうすぐ着くぞー。」
「んぁ?もう駅か?」
気付けばイヤホンから流れ込んでくる曲もリストを半周していた。
「まったく...昨日は何時に寝たの?どうせ3時とかでしょ?」
3時ではなく本当は5時である。ついついアメコミを読み込んでしまったり、映画2本立て続けで見たりでこんな時間になってしまった。こんなこと本人に言ったら更なるオカン顔負けの注意が飛んでくるので口には出さないのだが。
「まったくそんな心配しなくてもオレは困ることないし別にいいだろ?」
セセラギとともに電車を降りる準備をし始めたが、電車の急停車で席の隣の人が倒れこんできた。正直言って邪魔である。すぐに車内アナウンスが流れてきたが正直内容は聞くまでもなかった。
「R線付近に多数の異能力者が出没~。近くにいる人はなるべく早めに向かって確保するんじゃぞ~!」
と元気な連絡がスマホにペアリングしていたイヤホンから流れきた。正直声が大きすぎて物理的に耳が痛い。
「ここまで目覚ませとは言ってないんだからいいでしょ? 文句言わず早寝すること!」当たり前だ。
あの先生は人間としての基礎体力が化け物なのだ。あれを目指せというのはもちろん無理なのである。オレとセセラギは乗っている車両の窓を全開にして飛び降り先頭車両へダッシュで向った。
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「ああぁぁやっぱ眠いぃ。こっちは少しでも寝ときたいって思ってるのに、朝っぱらから問題起こしてオレを走らせるのはどこのどいつだよぉ。」
本当はもっと早く寝ればいいだけの話なのだが、それを認めたくないので八つ当たりして気をそらすというあまりにも性格の悪い行動をとっていると、先頭車両についていた。その先には大量の紅狼が群れを成して線路をふさいでいた。
「なぁんだ、ただの狼じゃねぇか」
「僕たちにとってはね?一般人にとったら化物でしかないんだから」
それもそうだなと思いながらオレはその群れの中に突っ込んでいった。
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五十嵐ガイの持つスキル「鍛冶人」が発現したのは約5年前のことであった。熱や炎に関する様々な事象を再現できるといった概念的な方向に効果を及ぼすあまり類を見ない特殊なスキルであった。
その権能は「精錬・加速・熱変動・熱探知・スキル情報処理・感覚超過・高速思考・状態異常無効・熱変動攻撃無効・自然系攻撃耐性・物理攻撃耐性・精神攻撃耐性」であり従来のスキルより多様な権能が組み込まれていた。
しかしセセラギナナト以外の者にはただの身体強化魔法のようにしか見えずあまりその凡庸性が指摘されてこなかった石ころの中に隠れた原石のようなスキルであった。
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気づけばあっという間に数が減り、残るは5メートル越えの巨大な個体のみとなった。
「あいつだけやけに皮膚が分厚いんだよな~。ひと手間かかるし開発途中だから、あんまり使いたくないんだけど...」
そしてオレは例の一体から距離を取りこぶしを構え
「空間を面として....前方空間の『精錬』による硬化.... 」
この技、さっき話した通りひと手間かかる技で結構考えることが多いのだ。口に出すと考えていることがまとまりやすくなるっていうのは本当で、細かい調整もしやすくなるのだ。ぶつぶつつぶやきながら技の最終調整に入る。
「『加速』度数五倍速.... 『虚空波拳』.....!」
そう言ってオレをこぶしを突き出した。勢いのまま弾き飛ばされた空気の壁は鋭い矢となって紅狼の腕をえぐり取った。そして最期の一突きが顔を突き破り紅狼の残された体はドサッと倒れこんだ。
「ほぇぇ なにあの技?新作?」
「まあな。前方に硬化した『面』を作り出して、それを思いっきり殴ることで形を鋭くして勢い着けたまんま飛ばすってイメージかな?」
「なんかややこしくない?」
「簡単に言えば...あっわかるかな?上弦の三?」
「あぁ、そういえばそんな感じのやつ使ってたよねー」
なんて会話を交わしながらオレたちは車掌に安全確保の報告を行った。もう正直な話し、学校は遅刻確定なので二人してため息をつきながら車内に戻った。
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「しょーじき遅刻したんだから早いも遅いも変わんないし、ゆっくり歩いてかね?」
「......はぁ、それもそうだね。不本意だけど。」
朝から緊急任務とかいう日常って言ったら日常だが、面倒すぎる恒例行事にうんざりしながらオレとセセラギは後者に向かって歩いて行った。
Skillsphereは惨劇「Hellwake」を抑え込んでいったがそれと同時に、組織としての存在意義も薄れていった。異能力者の犯罪を防止するという仕事もまだ残ってはいるのだが......
まあ、言ってしまえば燃え尽き症候群みたいなものである。隊員それぞれの指揮にも支障が出るためと言って、とある幹部の一人が異能力者の教育、及び育成に力を入れるという方針を提案した。
その提案をしたとある幹部というのは現東京第一育成校校長である天城 龍司 だ。この提案はすんなりと承諾されダンジョンを閉じた後、更地になってしまった土地を買いとり校舎を建てた。それが東京第一育成校なのである。
校舎はA舎とB舎の二つに分かれていて、それぞれに約1500人の生徒がおり合計3000人の生徒たちがこの学び舎に通っている。地上には校庭などはなく代わりに地下に魔鋼コーティングにより塗装・合金が施された厚さ30cmの壁に囲まれた激広訓練場が設備されている。
「...やっぱり異常な大きさだよな。この学校。」
「Skillsphereはもともと国家直属の団体だし結構お金あるんだよねぇ。」
現在時刻は8時45分...校門の前にはオレ達を心待ちにしている人物がたたずんでいた。
「やぁやぁよくもまあ堂々と遅刻してくれたねって素通りするんじゃァないよ君たち?」
正直絶対にかかわりたくなかった首根っこを鷲掴みしてくるこの先生は、うちの学年の理科全般を担当している真視先生である。本名は蛇守真視、Skillsphere4番隊隊長で少しだがメデゥーサの血が混ざった陰湿先生、そのネチネチとした文句や視線が生徒から嫌われているのだ。顔はいいのにもったいない...
「とある生徒の噂話でねぇ...君たち?よく任務出てるらしいねぇ?」
「まっまあ...」
「一般人てのは単純で、すーぐ君たちみたいなのを話題にしたがるんだ。結構ネットニュースになってるんだよォ。今日の朝も頑張ってたみたいじゃぁん?」
正直言いたいことがあるならいつもの調子で言ってほしい!そんなねっとり言わないでくれ気味が悪い!なんて考えていると目つきと口調を変えて
「お前たちなら駅から走ればまだ間に合ったよな?それなのに堂々と歩いてきたよな?お前たちは?ん?」と詰め寄ってきた。
「「あっいやぁぁそれは~そのー」」
「はぁ...まったく世話のかかるやつらだよ...反省文1万字昼までにな」
「メンドー」
「ダルー」
「つべこべ言わず書いてこい」
大体いつもこんな感じである。青春の一環だと思えば楽しいものだろう。そんなことを考えながらオレはロッカーを開いた...
よろしくお願いします。