引き篭もり魔女とドラッグストア
「傷薬なら当店も当然扱ってますので、どうぞこちらへ」
眼鏡が素敵な薬屋よろずの店長ずしひめさんに傷薬の棚に案内された。
二列に並んだ棚一面に紙の箱に入れられた傷薬がずらりと並んでいた。
どれも似たような傷薬でサッパリ分からない。だからずしひめ店長にオススメを聞いてみる。
「店長オススメは?」
「オススメですか、そうですね……ではチョイスは私にお任せください」
「おっ、おおう」
眼鏡を光らせたずしひめ店長がテキパキと薬を選んでカゴに入れていく。ポンポン入れていくが、代金払うのはぼくだから所持金足りるか心配になる。
まぁ、底が尽きてもこれから稼ぎに行くから大丈夫かな……うん大丈夫だ。
「一応かすり傷用と深傷用2種セットを選びました。詳しくは会計の時に、他に欲しい薬は?」
「えっ、あ……急に聞かれてどうしよう……」
「それでしたら風邪薬がオススメです」
「おっ、おおう」
ずしひめ店長の言われるままに別の棚に案内され四角い箱に入った風邪薬を選んでもらった。
しかしパッケージが金ピカでいかにも風邪に効きそうだ。あと何故か字が読めて商品名は……ゴールドドラッグと書かれていた。
なんかカッコ良く気に入ったので、ぼくの分合わせて二箱買うことにした。
今回はそれ位かな。
あとずしひめ店長に店内を案内されたけど、食品おやつや飲み物、化粧品やペットフード? などなんでも揃っていてコンビニに匹敵する品揃えだった。だから薬のついでにお菓子買ってしまいそうだ。
だからと言ってコンビニはお役目ごめんとはいかない。コンビニにしかない商品があるからな。例えば弁当、惣菜、カウンター前のホットな揚げ物はコンビニでしか買えない。
あと店長の顔みたいし、薬屋もコンビニも両方通うよ。
さてあとは会計だ。
ぼくはずしひめ店長にレジまで案内された。
「ではお会計いたします」
この店も店長以外従業員がいない。まぁ相手にする客はぼくだけだから彼女だけで充分だろうけど、広さの割にずいぶん寂しいな。
「まずはかすり傷セットは塗り薬銀貨1枚、バンソーコ一箱銀貨1枚、消毒液一本銀貨1枚になります。続けて深傷セットは、化膿用塗り薬一本金貨1枚、包帯3ロール銀貨3枚、ガーゼ2パック銀貨2枚になります。続いて風邪薬ゴールドドラッグ二箱金貨2枚で、合計金貨3枚、銀貨8枚になります」
「おっ、おおう……」
意外とゴールドドラッグが高価だ。結構高くついたが、なんとか足りた。
これはなんとしても稼がないと野垂れ死ぬな。しかしコミ障のぼくに出来るだろうか……。
代金を払い商品を受け取り背を向けた。するとずしひめ店長がぼくを呼び止めた。
「お待ちくださいお客様っポイントカードはお持ちですか?」
「ポイントカード……この店もポイントカード扱っているのか?」
「ええしかもコンビニエンスストアライジング店のポイントカードが我が店でも共通に使えます」
「本当か!」
驚きでぼくは目を丸くした。
しかしこのポイントカード一枚で他の店でもポイント貯められるとは便利だ。
早速ポイントカードを彼女に渡した。
「はい確かにポイント加算いたしました。詳しくはこのレシートに印刷されてますので確認を」
「おおう」
早速レシートを見た。
今回の買い物で加算されたポイントは140ですでにあるポイントを足して合計490ポイントだ。
次のレベルアップ4000まで程遠な。そうなると人助けポイントで一気に稼ぐしかないか……。
「またのご利用を」
出口でずしひめ店長に見送られぼくは外に出た。試しにうしろを振り返るとやはり、薬屋も消えていた。
ぼくはヤドカリハウスに戻って助けた母娘にお土産を渡すことにする。おっと、その前にコンビニ袋被って正体を隠されないとな。
「ただいま帰りました」
「あっコンビニ袋マンさんっお帰りなさいっ!」
ピンク髪の女の子が笑顔で寄って来た。
まず他人に好意を持たれたことがないから、ぼくはどう対応していいか戸惑った。
「お、おう……」
とりあえず素気ない返事をして女の子にお菓子と、ピンクうさぎのぬいぐるみを渡した。
「わーっうさぎのぬいぐるみだーっ! ありがとうコンビニ袋マンさんっ!」
「おう……」
素直に喜んでくれて嬉しい。一方ぼくも嬉しいけどどう表現していいのか分からず、返事が素気なくなる。まぁとりあえず喜んでくれていいな。
「あと怪我した時に治療する薬とかあげるよ」
あと薬等を母親に手渡した。
「助けてくれたのに、薬まで貰ってよろしいんですか?」
「構わない」
「ありがとうございますコンビニ袋マンさん」
「いえいえ、それより皆さんとご飯食べよう」
「お昼ですか……そこまでしてもらってわ、私どもは貧しくてお礼をしたくても……」
「見返りなんて要らない。ぼくはただ困っている人を助けたかっただけ、気にするな」
「ありがとうございますっあなたは恩人です」
「お、おおう……」
母親がぼくの手を握って礼を何度も言った。しかし感謝されるのは慣れてないから照れるな。
さてぼくは母娘をカーペットの上に座らせて、ハンバーグ弁当とオレンジジュースを渡した。
レンジで温めてからしばらく経ったが、まだほのかに温かい。レンジとか言う機械がこの部屋にあれば便利だが……今度店長にどの店に行けば手に入るか聞いてみよう。
とにかく今は飯だ。
「なっ、なんですかコレはっ?」
母親がコンビニ弁当を見て驚いている。そりゃな、ぼくも当初ビックリしたもんだ。
ぼくは詳しく説明し、プラスチックスプーンを二人に手渡した。流石に割り箸はハードルが高いか。
「これがハンバーグ弁当と言う料理なのですね……ではまず一口……はむっ……うっ美味しいっこの煮込んだ肉料理とてもジューシーで美味しいです!」
「それは良かった。ちびっ子も遠慮なく食べろ」
「うんっ!」
ぼくは頑なにコンビニ袋を被ったままのり弁を食べた。しかしハンバーグ弁当でなくて良かった。だってトロトロのあんかけが上に乗っていて袋を被ったままだと食い難いと思ったよ。
そうそう他にもホットフードを買ってたんだ。特にちびっ子が喜びそうなアメリカドックを女の子に渡した。
「ありがと〜」
「ケチャップをつけて食べると美味しいよ」
「うんっ」
店長がつけてくれたケチャップとマスタードが入った小さな容器。確か真ん中から折ると中身が出る仕組みだ。
ぼくがやって見せると女の子が見よう見まねでアメリカンドックにケチャップをつけて食べた。
「美味しいっ! 外の衣が甘くサクサクで中の肉がジューシーでとっても美味しいよっ!」
「お、おおう……」
ちびっ子の癖してぼくより食レポ上手いんじゃないか……将来有望だな。
このあと唐揚げとか食べさせプリンで締めて食事を終えた。
「ご馳走様です。こんな美味しい料理頂きまし、お土産まで頂きありがとうございます」
「コンビニ袋マンっ美味しかったよ!」
「それは良かったな」
母娘はコンビニ飯に大満足だ。ぼくも大枚叩いて奢ったかいがあったよ。
「ん、おっと!」
するとヤドカリハウスが急に立ち止まった。なにごとかと窓から外を覗くと、遠くに城が見えた。
どうやら王都にたどり着いたみたいだ。
ここまで来れば安全なので母娘を降ろした。
「コンビニ袋マン様っこのご恩決して忘れません。本当にありがとうございました」
「ありがとうっアタシも将来コンビニ袋マンみたいになるんだ!」
「……嬉しいが、それはやめとけ」
「うんっじゃあね〜!」
母親と手を繋いだちびっ子がぼくと別れ、姿が見えなくなるまで元気に手を振っていた。
しばらくしてからようやくコンビニ袋を取った。
「ふうっ〜顔が蒸れた……さてぼくも王都に行きたいが……このヤドカリさん滅茶苦茶目立つな……どうしよ」
ゲートを潜る時門番に止められる可能性大だ。しかも中はこんなに広くて快適だから凄く貴重なモノと騒ぎになりかねない。
だからなんとか隠せないだろうか? ここはコンビニ店長に相談だ。