引き篭もり魔女と店長からのプレゼント
このまま買い物続けてポイントを貯めるつもりだったが、引き篭もっていたせいで金が尽きそうだ。
そこでぼくコンビニを召喚して店長にそのことを相談することに決めた。
「おいでまして〜♬」
「おっ、おおう……」
相変わらず明るい店長だ。入店早々の挨拶にぼくはまともな返事が出来ずどもった。
それはいいとして今日は店長にお金についての相談があったんだ。
「あら、お金の問題やろか?」
「 !? 」
また店長にぼくの心を読まれた。
スキルとは割り切れない超常的な能力。一体何者なんだこの人は……。
「あらまたフクロウみたいに目ぇ丸るうして、単にカンが当たっただけやに気にしやんといてな。それより金の問題は切実やな……」
勝手に話しを進める店長が腕組みした。
「う〜ん金が底を尽きると買い物出来やんし、私としても死活問題やなぁ……ほな外出てお金稼ぎましょか?」
「……」
いきなり引き篭もりに外に出ろとはハードルが高すぎる。顔から大量の汗をかき、パニックになったぼくは手を横に振った。
「あら、無理にとは言わんけど、このままでええの? こんな迷宮で引き篭もっといても、人生なんも変わりませんよ」
「し、しかしだな……さ、三年も外に出てないからいざ他人と会うのが怖い……」
「なんや〜、たった三年なら大した問題とちゃう。そうやっ思い切って外出てお金稼いでんか? なにコミ症で不安? 大丈夫お客さんなら大丈夫だ」
「しかし店長さんと離れるのは不安だ」
「あら、まるで私はお客さんの保護者みたいやんなぁ、まぁ心配ないよコンビニ召喚しならいつでも会えるに」
なら安心した。
とはいえ外の世界はどうなっている……このダンジョンで三年潜り、山中で九十年余り修行していた。だから約百年振りに下界に行く。
「まだ心配やったら特別に私からプレゼントするでぇ、とりあえずダンジョンから出てってくれませんか?」
「なにっ……まさかぼ、ぼくを騙すつもりか店長……?」
「いややに、とりあえず騙された思て外外〜♡」
「!!」
目を細めた店長さんが笑いながら手を振った。逆にぼくは戸惑い目を丸くした。
「店長さんの言葉を信じていいのか……」
「任せてや、ここじゃ持ち運び大変やで外で渡したいわけ」
「……分かった。店長さんを信じる」
「おおきんな、とりあえずコンビニから出てってくれるか?」
「おっ、おうっ……」
まさかの出てけにちょっと動揺したぼくは外に出た。そしてうしろを振り返るとコンビニが消えていた。店長さんは外でと言っていたので家に戻って貴重品と冒険に必要な道具を鞄に詰め込んだ。
あとは家に結界を張って留守の間魔物が入ってこないよう処置した。
それでぼくは出口に向かって歩き出した。
しかし久しぶりの外の世界だからドキドキする。しばらく魔物と戦いながらやっとダンジョンを抜け地上に出た。
丸一日掛かってしまってすっかり朝だ。太陽の光が眩しい。
早速ぼくはコンビニを召喚し店内に入ると店長さんが待っていてくれた。
「待っとったに、お客さんに特別タダでコレをプレゼントするに」
そう言って店長さんが巻き貝の貝殻をぼくの手の平に乗せた。手に取ってみると貝殻に窓が付いていて、口の部分になにやらハサミが詰まっていた。
これはもしやヤドカリか……。
「そうですヤドカリハウスいや、ヤドカリ引き篭もりハウスです」
「!!」
この貝殻がヤドカリのハウス?
しかもわざわざ引き篭もりと余計なこと付け加えたのにビックリだ。まぁぼくにお似合いな乗り物なのは確かだ。
「と、とりあえずどう使うのだ?」
「ああ、これを思いっきり投げておくんない」
「なにっ!」
投げるなんてなんて雑な……とはいぼくは店長さんを信じてヤドカリハウスをぶん投げた。
すると店長さんが『あらら〜そんなに遠くに投げんでも……』と呆れて言った。
それはそうと地面に落ちたヤドカリハウスが一瞬で一軒家サイズになった。
しかも中から巨大なヤドカリが出て来たんでビックリだ。
「て、店長っこ、これは一体……」
「だからコレはヤドカリハウス言うてな、貝殻の中は快適な居住空間になっといて、移動しながら引き篭もれるって言うわけや試しに入ってみぃ」
「おっ、おおう……」
巨大ヤドカリに近づくのは怖いが、慣れてしまえばこっちのもの。店長さんが入り口のドアを開けてくれたので、そーっと入った。
するとな内部はとんでもなく広い部屋が広がっていた。部屋の空間はダンジョン並みの広さだ。しかも寒くないし、むしろ暖かく快適だ。
「なっ言うたやろ? しかも東京ドーム並みに広い空間や」
「東京ドーム?」
時々店長は理解不能な例え話しするけど、ぼくには知らないワードでサッパリだ。
とはいえ店長の言う通りこの部屋は、外から見るよりとんでもなく広いぞ。
「これなら素材を保管するにもええしな、しかも生物は何故か腐らない。便利やろ?」
「なるほど確かに倉庫代わりにもなるな」
しかしいくら腐らないとは言っても、魔物のパーツを部屋に保管するのは抵抗があるな。
しかし、魔物のパーツは大切な資金源になるだろう。クエストをこなして金を稼ぐのと同じ位重要になるな。
そうなると山を降りてから王都に行ってギルド登録をしないとな。
「それは賢明な考えやな」
「おっと!」
また店長にぼくの心を読まれた。これはおかしなこと下手に考えられないな。
「あはは、スケベ心はあえて読まんで安心してええに」
「……ぼ、ぼくの心はまだ純粋な子供だから、エッチなことなんて……」
「ええでええで、それはともかくこれから街に行くんやろ?」
「ああ、そうだ」
「ならまずはギルド登録を済ましてからかろうクエストこなしてんか、しばらくした国王直々に冒険者にお呼び掛かるやろ。招集目的は来るべく魔王討伐に備えた勇者選別……そしたら一攫千金のチャンスやでと言いたいところやがまだ君は弱いで、今は注目されるのは避けた方がええ、注目浴びるのは十分力をつけてから、だから今回はワザと無能な振りしたらええ」
店長の的確なアドバイスはまるで、これから起こる未来を見えてるようだ。
しかしせっかく王様に呼ばれて馬鹿にされに行くのは中々辛いぞ。しかしぼくが無能な魔法使いとして世間に知れ渡ったら、魔王から目を反らせるのも事実……。
辛い選択だが、店長のアドバイス通りに動いた方が良さそうだ。
とにかく今はお金を稼いでらコンビニで買い物してポイント貯めてスキルレベルあげる。
店長の言う力をつけてからと言うのはそう言うことだな。
買ってポイント貯めて食っての繰り返し。こんな楽しく強くなれるなら、続けられるな。
「ピピスちゃん決意が決まったみたいやんなぁ、それじゃあ私はそろそろ帰るで頑張ってな」
店長はぼくにそう励まし手を振ってコンビニ店内に入ると、店舗ごと消えた。
また会えるとはいえちょっと寂しいな。しかし初めて名前で呼ばれて嬉しいな。