引き篭もり魔女の孤独な晩酌
家に戻ったぼくは早速買ってきた海苔弁と親子丼と缶ビールをテーブルに並べた。
まずは缶ビールを開けた。
「今日も一日お疲れさん〜では乾杯。グビッグビグビッグビップッハ〜うんまいっ!」
キンキンに冷えて苦味とコクのある爽やかな喉ごしの生ビールとやらは、酒場で飲むぬるいエール酒とはまるで違うクセのない飲み心地だ。
思わず一気に半分飲んだ。しかし手に持った缶とやらが軽くなった。試しに振ってみると残りのビールはあとわずかか。
「うむ……あと少しで無くなってしまうか」
これからは二本買っておくべきだな。
それより次にぼくは親子丼の蓋を開けた。すると熱い湯気が立ち、食欲をそそる卵と香ばしい香りがした。
『しかしなんだろうこの香ばしい香りは?』ぼくの世界の調味料の一種で、魚を発酵させた調味料とちょっと似ているな。とはいえこっちは魚臭くないから全くの別物だ。
とりあえず一口食おう。
ぼくはタダでもらったスプーンを透明袋から出した。持つとやけに軽い。この透明袋の素材もそうだが、店長いわくプラスチックと言う化石燃料から作られた素材で出来ているらしい。
折角説明されてもぼくにはサッパリだ。
そもそも原料の化石燃料からしてなんなのか説明して欲しかったな。まぁ、覚えていたらまた今度聞くとしよう。
とりあえず冷めないうちに親子丼をスプーンで掬って口に入れた。
「はむっ…………むっ!」
眠いぼくの半目が見開いた。
これは旨い。柔らかいお米とやらにトロリとしたアンに包まれた鶏肉と卵と、これはネギタマだな。僕の世界でも同じみの野菜だ。それらの具が温かく旨味のあるアンに包まれ旨い。
「旨いっ旨い旨いっ旨いっもぐもぐ……グビッ」
親子丼を掬うスプーンを持つ右手が止まらない。そして味わいつつビールを飲む。
「ぷっは…………旨いっ!」
あっと言う間に親子丼完食した。次に海苔弁を開けた。これまた香ばしい匂いがする。一体なんのソースの匂いなんだろう?
あ、ソースと言えば中にビニール製の小瓶にソースらしき黒い液体が入ってる。ぼくが手に取ると、赤い小さな蓋を回して開けた。こんな3センチ足らずの小瓶に蓋があるとは驚きだ。
店長が言っていた日本と言う異世界はぼくの世界より、遥かに文明が進んでいるな。
さて食うか。
スプーンで海苔とご飯を掬って一口。
「む……これも旨い」
塩味が聞いている磯っぽい味だ。開けた時に香った香ばしい匂いの元はここだな。海苔にしっかり味がついてるから、備えつけの調味料は掛ける必要ないな。
ならどこに掛ければ良いのだ?
すると気づいた。フライと呼ばれる食べ物に掛ければ良いのか……。
とりあえず掛けてスプーンで白身魚のフライを救おうとするが、持ちあげようとするとポロリしてどうにも上手く口に運べない。
すると思い出した。店長にスプーンの他に割り箸と言う道具渡されたんだ。
ぼくはビニール袋から割り箸を取り出した。無料なのにビニール袋に包まれた二本のくっ付いた木材。それを真ん中から『パキッ』と割った。
あとは店長に教えられた通りに右手で握って白身魚のフライを掴んでみた。
店長が見本で見せてくれた箸の持ち方とは遠く及ばないけどまぁ、フライを掴めただけでも上出来だな。
「パクッ……もぐもぐムシャムシャ……旨いっ!」
魚と聞いて生臭かと警戒したが、そんなことはない。臭みもなく衣がサックリ白身魚はシットリ柔らかタンパクな味が旨い。これはパクパクいける。
と、フライが口に含んでるうちにご飯をかっ込み混ぜ合わせる。
これも旨い。続いてちくわの天ぷらを箸で掴み一口齧った。すると油の旨味と香ばしい磯の味わいが口に広がった。
この香ばしさは、店長が言っていた青海苔と言う海藻で出来た調味料からしているな。
海苔弁も完食した僕は最後にプリンとやら食後のオヤツを手に取った。
「冷たい……」
熱々とは真逆でひんやりする。どうやら冷やして食べるお菓子らしい。見た感じぼくの世界にあるプディングと言う砂糖が入った卵を蒸したお菓子に似ているな。ただ違うのは冷えてるか否かで、あとはプリンは上にカラメルとか言う砂糖を焦がしたソースが乗っている。
味は苦味がいいアクセントになっていて甘いプリン本体と合わせて食べると丁度いい。
「ご馳走様でした……」
あっという間に完食したぼくは食材に感謝して手を合わせた。