引き篭もり魔女とポイントカード
店長さんが見せたカードはポイントカードと呼ばれる物らしい。ところでポイントってなんのポイントだろうかとぼくは首をかしげた。
とりあえず手に取ったポイントカードの表裏を念入りに調べた。しかしなんの変哲もないカードに見えたし、鉄と比べて妙に軽るい。
そう、ぼくの世界では見たことのない素材で出来てるな……。
「このカードはなんだ?」
「ええ質問やんな、このカードはポイントカードと言うて、買い物すると点数がカードに溜まって一定の点数が貯まればポイント使って、スキルレベルをあげたり、限定アイテムなどと交換が出来る」
「なんと!」
ポイントとは数字か……。
これは画期的なシステムだぞ。興奮したぼくは目を丸くした。
買い物するだけで点数が貯まってゲーム感覚で面白いし、そのポイントでスキルレベルをあげれるなんてやっぱり面白い。
「あらら、フクロウみたいな目して興味持ってくれたか」
「!!」
『ぼくはそんな目をしていたのか』いや、可愛いと呼ばれるのは悪くない。とはいえ今はどうでもいい。それより同意したぼくは首を縦に振った。
「それじゃあ、ポイントカードについて詳しゅう説明するなぁ、まずは支払ろうてくれた硬貨の種類よって付くポイントがちゃいます。例えば銅貨一枚につき2ポイント、銀貨一枚につき10ポイント、金貨一枚につき20ポイント付く」
なるほど払った硬貨の種類と枚数合わせたポイントが貯まる仕組みか。ぼくは今ある硬貨の数を指折り数えて計算した。
長い間外に出ず引き篭もっていたせいか、あまりに金がない……どうしよ。
ちょっと不安になり頭がくらくらする。
「魔物を倒して素材を集めて金に換えるのがよろしい」
「!!」
「あはは、また心読んでしもうてごめんなさいね。せやけどしゃあないのやに、そう言う能力持ちやでさて、一定のポイントが貯まるとスキルレベルをあげることが出来るの」
てっきり経験値を稼いでスキルレベルをあげるモノだと思っていたが、違うんだ。『そうか』やはりぼくのコンビニ召喚スキルは特別なんだ。
「あの〜お鼻を高うしるとこ済みません。とりあえず次のコンビニ召喚スキルレベル2に昇格するのに必要なポイント数を教える」
「……分かった」
「ええとやんな……1000ポイント交換でコンビニ召喚スキルレベルアップすることが出来る」
「つまり千ポイントでレベル2か……」
途方のない数字に思えたが、店長さんは笑いながら『楽しゅう買い物しながらですで、1000ポイントなんてすぐですすぐやに♬』と二回繰り返し笑いながら言った。
『……』この気楽さが逆に不安を誘うな。
「さて最高スキルレベルは12まであげれます。とは言え上に行くほど必要とするポイント数があがる。だからまずはスキルレベル2を目指しましょう。だからまずは1000ポイントをコツコツと貯めましょうね」
店長さんウインクしてお気楽なことを言ってくれる。買い物すればと言うが、仮に一枚10ポイントの銀貨を支払って100ポイント貯めようとしたら、1金貨20ポイントの商品を一度に5個買えばまぁ、そっちの方が早く貯まりそうだが、生憎僕は裕福ではないので、この調子で買い続けていたらいずれ資金が底についてしまう。
それだと嫌でも外に出て稼がないといけない事態になるな。
果たしてぼくにその勇気があるか……。
そもそもずっとこのダンジョンに引き篭もっていたから、外の世界がどうなっているのか分からないな。それに上手く他人と会話が出来るか心配だ。だから不安になって頭が真っ青になり、ちょっとフラついた。
「せやったんなら大丈夫ですよ、ほらっ私とこうして会話出来とるし、これから私と会話の練習したらいいええんや」
「おお、確かに……ならどうすれば良いか?」
「そうやんなぇ、とりあえず今晩の夕食でも買うたらどうやろか?」
「おおっ、丁度腹が減っていたところだ」
さて、ちょっと夕食には早いと思うけど、特にやることがないのでさっさと飯食って寝ようと思う。
とりあえずぼくは店長オススメの弁当コーナーに行った。
「お弁当とは持ち運びし易く、いつでもどこでも食べれる携帯食ですね。それと弁当はコンビニの主力商品の一つと言っても過言ではないでしょう」
冷蔵庫と呼ばれる食品を冷やして保管する装置の棚に、プラシスチックと呼ばれる容器に入れられた色取りどりな料理。一つ手に取ってみると汁っけのある料理が溢れない。どうやらビニールと呼ばれる透明なモノで封をしているおかげらしい。
これをダンジョン探索に持って行けば便利だな。
「コンビニ弁当はどれでも一つ銀貨5枚やに」
「ほうっなら二つ買ったら銀貨10枚か?」
「そうですね。あと金貨の場合1枚やによ」
高いのか安いのか弁当の価値が分からないが、分かり易い値段で良いと思う。早くポイント貯めたいし、積極的に金貨を優先的に使いたいな。
さて、選ぶか……。
まず目についたのは、白い粒の上に黒いシートのような物が貼られ、その上に二つの揚げ物が乗っかっている弁当だ。未知の料理だけど、旨そうだ。
「この弁当はなんだ?」
「あーはいはい。これは海苔弁言うて、日本代表過言ちゃうメジャーな弁当やんな」
「なるほど! では白い粒々と黒いシートと揚げ物はなんだ?」
「いっぺんに質問されると答え切れやんなぁ、まっ一つ一つ説明しましょ、まずは白い粒々はお米言うて日本人の主食やな」
なるほど日本人とやらの主食がこの白い粒々か、ぼくの世界で言うパンのような物だな。
「なるほど理解した。ではこの黒いペラペラはなんだ?」
「ええと、これは海苔と呼ばれる海藻を薄う敷いて、太陽光に当てて乾燥させたもんや。あと揚げ物は、白身魚を練って蒸したちくわ言う食べ物を、フライと呼ばれる揚げ物料理にした物です。あともう一つは白身魚のフライやに」
「なるほど怪しい物ではないのは分かった。ならばそれを一つと…………良しコレしよう」
ぼくは丸い透明容器に入って、ご飯の上にトロリとした卵が乗った弁当を選んだ。すると店長が手を合わせ『お目が高い』と誉めた。
「これは親子丼と言うて、白ご飯の上に鶏肉と玉ねぎと卵に火ぃ入れ乗せた料理やに」
「なんと!」
親と子を一緒に料理してしまう野蛮な料理にぼくは眼を丸くして驚いた。しかしこれも日本と言う国の数ある国民食の一つらしい。
コレ以外にも国民食があるなんてビックリだ。
それでぼくは海苔弁と親子丼を選んで、店長オススメの缶ビールとやらのお酒を選んだ。これはぼくの世界にあるエール酒と同じ物だな。
あとは店長オススメの食後の甘い物にプリンとやらをチョイスした。
それで缶ビールが銀貨5枚でプリンが銀貨3枚した。合計は、金貨1枚、銀貨8枚で支払う前にポイントカードやらを店長に差し出した。
すると店長さんが手に持った機械をカードに当てると『ピッ!』と音がしてすぐぼくにカードとを返してから一緒に白い縦長の紙を渡した。
「お買いあげおおきんなこれは買い物内容が記載されたレシート言うてな、今回の買い物で100ポイント貯まりました。詳しゅうはこのレシート見て確認してな」
「この紙がレシートと言うものか……なるほど、購入した商品の値段とポイント残高が分かる仕組みか、そうなるとあと900ポイントでぼくのコンビニスキルレベルをあげられる」
まだまだ程遠い数字で先が重いやられるな。とはいえ楽しみは待ってこそだ。頑張るぞ。
「ええ、そうです頑張っておくんない。あとお弁当温めるか?」
「なんと魔法でか?」
「いえちゃいます。電子レンジ言う機械で30秒ほど温める」
「あ……た、頼む……」
次から次へと知らない情報が入って頭がパンパンになる。それに店長さん方言のせいか分からないけど、たまにタメ口ぽく話すのでビビる。
だからちょっと脳みそを休ませても良いかもな。
「またいらしておくんなさい」
温まった弁当を受け取り立ち去ると店長さんが笑顔で手を振っていた。こんなフレンドリーな店長さんと接するのは初めてかも。
とにかく店長のおかげで少しはリハビリ出来たかもね。
ぼくは自動ドアとやらを抜けうしろを振り向くと、コンビニが忽然と姿を消していた。
なるほど外に出ると召喚されたコンビニが消える仕組みか……。
とりあえずせっかく温めた弁当が冷める前に、急いで家に戻った。