引き篭もり魔女と明るい店長さん
「コンビニ召喚スキル発動っ!」
広い空間内でまたコンビニ召喚した。なにもない空間から四角い建物が忽然と現れた。
もう入り方は分かっていた。入り口の前で片足を踏むと、透明なドアが左右にスライドして開いた。
そこでぼくは誰も見ていないのに、ドヤ顔で入店した。
さて今回はなにを買おうか……。
「おいでまし〜〜♬」
「なにっ!?」
前回は無人だったのに女性店員がいて、ぼくに挨拶して来た。コミ症なぼくは当然緊張して固まった。とはいえ無視するわけにもいかず彼女と目を合わせた。
なんか見たことのない白と赤生地の服を着てエプロン掛けている。あと黒髪で前髪を横に真っ直ぐ切り揃え、もみあげがツンと曲がっている特徴的なロングヘア。しかも色白の美人で、チンチクリンなぼくは彼女と比べたら雲泥の差だ。
しかしどこの国の人なんだろうか……服装の雰囲気からして、東の和京の人なのかな。
「良う来られたねお客様っ」
「え、お、え……あうっ……」
急に店員さんに挨拶されぼくは返事を返せなかった。何故なら他人と会話するのは百年振りだ。だからどもってしまった。
「あらら……引き篭もり魔女さんは他人とのコミニケーションが苦手なご様子やんな」
「 !!! 」
店員さんに痛いところを突かれたぼくは目を丸くした。『と言うか何故知っている?』まぁぼくの態度を見れば分かるか……。
綺麗な店員さんは、ぼくを軽蔑な目で見ると思ったら急に手を握って目を潤ませた。
なにがなんだか分からない。
「分かるっ! かく言う妾……いや私もっ、かつて洞窟の中で引き篭もってたで」
「定員さんも……」
凄い美人さんなのに元引き篭もりと聞いて親近感が湧いた。ところで彼女は何者だろうか?
しばし沈黙したあと店員さんが察したのかお辞儀してから笑った。
「妾はいや……あ、あー……始めまして私はこのコンビニライジング店店長の……あま、あまあま……あっ! え〜と……ミカミと申します」
彼女は店員かと思ってたら、店長さんだった。これからは名前でなく『店長さん』と呼ぼう。なにせぼくはすぐに他人の名前忘れてしまうからだ。
しかしなんで店長さんと自己紹介し合うんだろ……まぁこれから毎日通うから別にいいけど。
ああそうだ、ぼくは彼女に名乗るのを忘れてた。
「ぼくの名は、ピピス・プシーだ」
「ああ百年間ダンジョンで引き篭もっとる魔女のピピスちゃんね。良く存じあげてます」
「え…………どこかぼくと会った?」
ぼくは目をパチクリさせた。『初対面なのに何故ぼくのこと知っいるのか』と聞いたら、店長さんの目が点になって固まった。
やっぱり怪しい。
「あっ! いや〜風の噂で……」
「…………」
店長さんは苦笑いを浮かべた。
しかし百年もダンジョンで閉じこもっていたのに、どうやったら僕の風の噂を聞いたのだ……。
『まぁいい』それより買い物だ。ぼくは小走りで卵サンドが置いていた棚に直行した。
棚にたどり着くと二段目の棚に並んだ卵サンドを見つけた。しかも具が違うのがチラホラとあったんで、これは興奮してきた。
すると店長さんがグレーのカゴを持って手招きしている。
「お客さま〜当店のカゴをお使いください」
そんな多く買い物するつもりがないけど、断り切れずカゴを受け取った。しかしカゴは思ったより軽いし、見たことない素材で出来てるな。
さて買い物ったって眠いし大量に買うつもりはない。まぁ夜食分と朝食べる分を買っていくか。
「お探しやろか?」
「 !! 」
商品を物色しに店内を歩き回っていると店長さんがついて来て、笑顔で聞いてきた。
絶賛コミ障のぼくは目を丸くした。
「いややんお客さん。フクロウみたいに目丸うして……」
陽気な店長さんは目を細め笑うと手を僕に向けて手を振った。『別にいいけど』井戸端会議中のおばちゃんみたいだな。
それはそうと、驚いた時のぼくの目はフクロウソックリになるのか……まぁ可愛いならいいな。
さて選ぼう。
「お客さまっ朝食べるんやったら、パンがオススメですよ。さっコチラへ」
店長さんになにやら左奥の棚に案内された。ぼくは黙ってついて行くとそこの棚は、両面知らないパンだらけのパラダイスだった。
『う〜ん』これは胸のドキドキが止まらない。
「お客さま。店内がお暑いようで、大丈夫やろか?」
「あ、あ…………いや、……大丈夫だ」
ぼくは手を横に振ると、ポケットから出したハンカチで額の汗を拭いた。
しかしこれだけパンが豊富だとどれを選べばいいか迷うな。しかも見たことない種類ばかりだ。
とりあえず棚グルリと回って吟味した。で、適当にパンを5個カゴに入れた。しかしどのパンも透明な袋に入れてあって清潔感があるな。
で、種類に関しては分からない。だから会計の時に店員さんに聞いてみよう。
「では夜食にピッタリなコーナーにご案内いたします」
「おお…………」
絶妙なタイミングで店長さんがカウンターに向け歩き出す。
ぼくはついて行くとカウンター横に設置してある透明なカバーが付けられた容器に気づいた。
その容器には見たことのない揚げ物がズラリと並べてあった。
「こ、こ、これは…………!」
ぼくはマジマジと中を覗いてから唾を飲み込むと、顔をあげて店長さんに聞いた。
すると店長さんが嬉しそうに身を屈め棚を指差した。
「ここは熱々のお惣菜コーナーです。夜食にはピッタリやに」
「なにっ!」
どれも片手で食べれるサイズで確かに夜食に合いそうだ。しかしここも見たことのない揚げ物ばかりでどれを選べばいいか……。
「せやったら、アメリカンドックと揚げチキンと春巻きが〜夜食にオススメやに」
「本当か!」
興奮したぼくは杖を強く握り絞めた。
で、結局夜食にはアメリカンドックと揚げチキンと春巻きを一つずつ。適当に選んだパンは店長さんの説明によると、カレーパン、マヨコーンパン、シーチキンパン、アンパン、イチゴジャムパンと呼び名らしい。しかしまっ、パンにも色々な名前が付けられていて魔女のぼくもビックリだ。
さてぼくがカゴをカウンターに乗せると店長さんが笑顔で、人差し指を横に振った。
まだオススメがあるのか……。
「はいそうです」
「!?」
『また店長さんに心を読まれた!』ビックリしたぼくは思わずのけ反った。
「あ〜済みません。私には人の心が読める「さとり』と言う能力があるんやの」
「……………」
そんなスキルは聞いたことがない。これから店長さんの前で変なこと考えられないな。
『う〜ん』常に賢者モードか……。
「そうやんなぁ」
「!!」
「あっ! 気にしやんでお客さん。それより飲み物選んで見ては?」
「分かった」
急に心拍数があがったが、気を取り直して右奥にある棚に向かった。
壁一面に設置された棚は、壁にめり込んでいる形で出っ張りがなくスッキリしていた。
そして、ガラス製の扉の奥には、見たことのない飲み物がズラリと並べられていた。
その中でぼくは鉄で出来た円筒形の飲み物を手に取った。持って見ると意外と鉄が柔らかく、ちょっと力を入れただけで凹む。正直こんな薄い鉄製品は見たことない。ただ中身はしっかり入っているので重さがある。
表面には黄色い果物の絵が印刷されていたので、これは甘い飲み物に違いない。
「お客さまっ失礼ですが年齢は二十歳以上やろか?」
『ハタチ?』歳のことか、何故今年齢確認する?
「あ、実はコレはお酒でして私がおる世界では、お酒はハタチからと言われとる」
「そうか、お酒がハタチからとはずいぶん厳しいルールだ。し、しかしぼ、ぼくは百歳を超える魔女だから酒飲んでも問題ない!」
「あらっ、コレは失礼。まだ子供か思たわ。では遠慮のうお酒を選んでおくんない」
疑いが晴れた僕はさっき見つけた黄色い果物が絵柄の酒をカゴに入れた。
それを見ていた店長さんがなにか言いたげだ。
「どうした?」
「えっとこのお酒は缶チューハイと呼ばれ、缶のイラストの黄色い果物はレモンと言って凄く酸味がある果実。このレモンの搾り汁が炭酸水と合わさってスッキリした味わいを楽しめる」
「スッキリ? アルコールは入っているのだな?」
「もちろんでございます」
「……今回はコレにする」
「お買いあげおおきんな。ではコチラへ」
店長さんに案内されたぼくはカウンターにカゴを置いた。すると店長さんがカウンターの中に入って商品の説明を始めた。
「アメリカドックと揚げチキンと春巻きの値段はそれぞれ銀貨1枚になります。それとレモン缶チューハイも銀貨3枚になり、合計代金は、銀貨6枚となります」
「おお、それだけでいいのか」
ぼくは巾着を取り出すと中に入っている銀貨を取り出した。で、その間に店長さんがなにやらカードを取り出した。
それはトランプサイズの用途不明なカードで、遊ぶには1枚じゃ足りな過ぎる。
そんな謎のカードを指で摘んだ店長さんがニッコリ笑うとぼくに手渡しできた。
「お客さまっ買い物の際は、ポイントカードを作った方がお得やに」
「ポ、ポ、ポイントカードだと!」
『ポイントカードとはなんだ?』聞き慣れない言葉にぼくは目を丸くした。