58.複合型神器
お読みいただきありがとうございます。
話が戻った。フルードは一気に緊張した顔付きになったアマーリエに微笑みかける。
「私があなたを補佐します。神器を弱らせ、鎮静化するところまではやりますから。今回の神器は事故で暴走しただけに過ぎません。神ご自身や神の御意思を受けたものではないので、聖威師にも手向かいが可能です」
優しい口調で励ますように言うと、気絶しているシュードンを聖威の結界で囲った。アマーリエは慌てて声をかける。
「は、早く神器を鎮めるための神器を用意しなくては! 他の聖威師も何名か呼び戻した方が……」
返って来たのはあっさりした返事だった。
「私にはそういった補助神器は不要です。それから、あなたと話しながら他の聖威師に念話し、万一の時のフォローをお願いしておきました。おそらく必要ないですが、念には念を入れてです。それで十分です」
要するに、自分一人で事足りると言っているのだ。そしておそらく、聖威師たちはその言い分を認めた。だからこそ、この場には誰も来ていない。一人では難しいのであれば、それは無理だと言って他の誰かが駆け付けているはずだ。
『ですが、今から大神官が神器の対処で抜けられるなら、その間のラミルファ様のお相手は……?』
これはラミルファの前で言うのは憚られたので、念話する。ちらりと視線を向けると、当人は渋い顔をして、従神たちと何事か会話していた。漏れて来る声を聞くと、ミリエーナとダライ、ネイーシャの様子を視ながら、彼らについて話しているようだ。
なお、フレイムはいつの間にか場所を移し、ラモスとディモスと話していた。こちらはミハロが出てきたことがきっかけだったのか、アマーリエの属国での暮らしについて聞いているようだ。聖獣たちが懸命に、アマーリエがどれだけ家族に馬鹿にされ苦しめられていたか訴えている。
それぞれの様子を見ていると、フルードの答えが返って来た。
『抜けると言ってもほんの数瞬です。それくらいならば問題ないでしょう。万一何かあれば、他の聖威師が察して即座にカバーしてくれます。それも含めての念には念ですから』
「…………」
アマーリエは呆然とした。神の力を宿した神器を鎮めるのにたった数瞬で済むはずがない。どう返せばいいのか分からず立ち尽くしていると、フルードは今度は肉声で、おっとりと言う。
「こちらのことは気にせず、あなたは正常化に集中しなさい。大丈夫、焔神様がご加護とお導きを下さいます」
同時に神器の転送が完了する。出現したのは、巨大な数珠のような神器だった。一粒一粒が、人間の頭ほどの大きさがある。数珠玉が連なった輪の中に、大きな丸玉が二つ浮かんでいる。丸玉の一つは無地、もう一つは精緻な装飾が施されていた。
(な、何よあれ……あんな複雑な神器、見たことがないわ!)
同時に、神器に気付いたラミルファと従神たちも声を上げた。
『おや……ほぅ、複合型の神器か』
『かなり大きいですな。これほどの物が下賜されるのは珍しい』
『昔は相当に名のある家だったのかもしれません』
『いえいえ、こんな神器大したことはありませんとも。最下級の神器です』
『ふふふ、お前は偽言の神だから嘘ばかり言う』
主と従の神器が組み合わさり、一つの神器となったものを複合神器という。単一で使用する単独神器よりも効果、範囲、持続力などあらゆる面で遥かに強大だが、その分暴走した時の対応も比較にならないほど厄介だ。
しかもこの神器は、おそらく主神器も従神器も複数ある。丸玉が主神器。輪になっている数珠玉が従だ。突出して力が大きい代わりに、暴走時の反動が特に激しい部類である。
しかも、きちんと抑え込まれている状態ならばともかく、抑えもなく暴走しているとなれば――対神器用の神器を用いても危ないのではないだろうか。
ありがとうございました。