33.もう会話が通じない
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『神官は集団ですから。性格、能力、価値基準、全てが異なる大勢の人間が集う場所では、破天荒な思想を持つ者も一定数出てしまうものです。例えどれだけ教育を徹底しようとも。ルリエラとシュレッドもそうでした』
フルードが諦観を帯びた眼差しで首を縦に振った。彼もまた、現役の頃はそのことで大いに悩まされていた。フレイムも弟に賛同する。
『だろうな。神官たちは人間だ。主任も副主任も、教育係も。人間がやれる行為には限界がある。大勢いる神官全員を申し分なく育て上げるのは至難の業だろうぜ。それにこのバカ神官共は、ミンディや大樹たちのいじめに加担してたんだろ。元から腹の中に黒いモンを持ってたんだろうぜ』
「そうね。今まではさすがに、上辺と心の表層くらいは取り繕っていたはずだけれど、花神様に見初められたと信じたことで、一気に驕りと本性が噴出してしまったのだと思うわ」
アマーリエは疲れ切った声で追随した。何だか無性に甘い物が恋しい。フレイム謹製の、生クリームをたっぷり乗せたホットチョコレートが飲みたいと思った。
「フルード様……もう、エアニーヌたちに本当のことを暴露してしまうのはどうでしょうか。あなたたちを見初めたのは悪神だと。彼らがそれを信じるか否かは、また別ですけれど」
『急いてはいけません、アマーリエ。仮定の話、真実を聞いた彼らがパニックになり暴走でも起こせば、さらに厄介なことになります』
このような愚行を放置していることから考えても、イデナウアーが止めてくれるとは考えにくい。さらに、アマーリエたちはまだ、エアニーヌと慧音に対面することすらできていない。
『話すのは、彼らが万一をしでかしそうになった時、迅速かつ確実に止められる状況を作ってからの方が良いと思います』
「……そうですね、仰せの通りです。すみません、焦ってしまいました」
(エアニーヌたちは多分、イデナウアー様の神域にいるわ。ランドルフ君とルルアージュちゃんの提案通り、まずはそこに行って彼らに近付かなくては)
アマーリエがそう結論付けていると、エアニーヌと慧音はついに神との会話すら放棄してこちらに話しかけて来た。桜神とのやり取りがまだ途中であるにも関わらず、だ。
《大神官たちを完全昇天させてあげるために、先ほど花神様の神器を使ったのに、抵抗されて上手くいきませんでした。僕たちの意図が良くお分かりでないようなので、こうして直談判してあげることにしたんです》
(分かるわけないでしょうそんな意図! というか何なの、完全昇天させるって、つまり本気で殺すつもりだったということ!?)
信じられない暴挙に絶句するアマーリエだが、神官たちは全く悪びれた気配を見せない。
《神器を使って現職の方々の気配を探り、最初にキャッチできたアマーリエ様を昇天させようとしたのですが。歯向かわれてしまいました》
エアニーヌが溜め息混じりに言う。困ったものだと言いたげな語調に、困惑しているのはこちらだと怒鳴り付けたくなるのをグッと堪える。
《仕方がないので他の方を先にしようと再度探したら、上手い具合に全員一かたまりになっていたのでそこを狙いました。なのにまた反撃されて失敗したので、ああこの人たちは言葉で話さなければ伝わらないんだなと思い、こうして念話をしたのです》
《当たり前だわそんなもん! つか、何でユフィーたちを完全昇天させたいんだよ、何が目的だ》
フレイムが額を抑えながら言った。高位神直々の全力ツッコミだが、それでも神官2名はまるでめげない。あっけらかんとのたまった。
《何でって、そんなの決まってるじゃないですか。――目障りなんですよ、今の大神官たちは》
《慧音、目障りはさすがに言い過ぎよ。せめて邪魔くらいにしないと》
エアニーヌが言うが、どちらでも五十歩百歩である。
《神官エアニーヌ、神官慧音。私たちが邪魔とはどういう意味?》
祐奈が聞く。怒りは感じられない、ただ純粋に問いかけているだけの声。彼女にとって、この神官たちなど詰りを抱くにも値しない存在なのだろう。神や天への無礼行為に対しては憤激したとしても。
《だってあなたたちは、アイツらの味方じゃないですか》
《アイツらとは大樹たちのことかしら》
即応した祐奈と同じ予測を、アマーリエたちも瞬時に弾きだしていた。エアニーヌと慧音が自分たちに敵意を向ける理由として、真っ先に思い付くのがそれだからだ。
《そうですよ。ご自分でもお分かりなんですね。聖威師でありながら何であんな卑しい奴らの肩を持つのか、僕には理解できません》
(神の領域内を覗き見て聖威師に特攻かけるあなたたちの方が理解に苦しむのだけれど)
内心で反論するアマーリエだが、それを言い出すと話が逸れていく気がしたので、胸中に押し留める。
《現職の皆さんがいなくなれば、また前のように妹と弟を虐めることができるわ》
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