28.先代ならどうしていたか
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「大変失礼いたしました……」
再び客用のソファに丸まったアマーリエは、ドヨ〜ンという効果音が聞こえてきそうな勢いで頭を抱えていた。
(ふ、不覚だわ。最後の最後でっ! エアニーヌたちを取り逃がして――か、神をマット代わりに……! しかも誘惑に負けて、こっそりモフモフしてしまったわ)
後半以降は確実にフルードのせいである。なお、モフり度は最上級だった。
『良い良い。少しばかり驚いたが、愛し子と可愛い同胞を乗せるのは楽しいものだ』
だが、幸いというべきか、当の狼神は全く気にしていない様子で上機嫌に尻尾を振っている。フルードも主神が怒らないと分かっていての行動だったのだろう。
『フレイム、セインを鍛えた筆頭は君だろう。全く、一体どういう指導をしたんだ』
『違う、俺じゃない! 俺は主神を脚立代わりにするやり方なんて教えてねえ!』
『だがメインの指導神は君じゃないか』
『濡れ衣だ! 誰かいるんだよ、ハチャメチャなやり方を吹き込んだ神が!』
至って真面目そうに言いつつも、笑いを堪え切れず口の端がピクピクしているラミルファと、両手を振って必死に否定するフレイム。なお同時刻、超天では黇と紅の神威を持つ二柱の元天威師がそろって寒気を感じ、誰かが自分たちの噂をしているに違いないと囁いていた。
一方の狼神は、ぎゃあぎゃあとじゃれ合う若神たちをツルンと流し、澄まし顔を浮かべている。
『少しばかりうつらうつらしたらスカッと目が覚めましたぞ。目も耳もスッキリ元通り。焔神様と骸邪神様にはご心配をおかけして申し訳ありませんでした。……ところで、この場の模様替えの良い案は浮かんだか、アマーリエ?』
「はい、何通りかは。後日、間取り……と言いますか、見取り図の案をお持ちいたします」
即答するアマーリエ。サード家でこき使われていた時、邸の内装や配置の考案も何度かさせられたことがあったため、数パターンほどはスルリと思い付いた。
『それは楽しみだ。また今度見せておくれ。ほれ、もっとお茶をお飲み』
満足げに頷く最古の神の傍らで、フルードはじっと中空に視線を向けている。ランドルフとルルアージュに念話し、起こったことを報告してくれているのだ。いや、子どもたちにだけではない。当利と祐奈、リーリア、それにアシュトンやオーネリア、アリステルを始めとする先達神たちにも一括で伝えると言っていた。
神々のまとめ役であるブレイズと葬邪神には、フレイムとラミルファが伝達してくれている。二神が弟特権を駆使して上手く取りなしてくれたことと、狼神自身が目を瞑ってくれたこともあり、今回に限り公の咎にはしないということで落ち着いた。なお、アマーリエは模様替えを頼まれた立場であることから、狼神の相手に集中しており、念話網には加わっていない。
(フルード様、大丈夫かしら。当波様が激怒しそうだと仰っていたから心配だわ。けれど、伝えないわけにもいかないし)
人間の情が薄い当波は、神官に対して辛辣だ。それでも、聖威師のために動いてくれている先達神なのだから、礼儀としても、適切に連携を取るためにも、報連相はきちんとしておくべきだ。
茶菓の美味しさについて狼神と和やかに話しながら、さりげなく視線を先代大神官に移す。秀麗な眉宇を下げて困ったような顔をしていたフルードは、ちょいど良い具合に念話が終わったようだ。焦点を合わせ、淡く微笑む。
『当波様だけでなくほぼ全員が怒りを表明しています。ローナとアリステル、オーネリア様、佳良様、聖威師も全員。地上番をしている新米の子どもたちを除き、ですが』
「そうですよね……」
『ちなみに私も不快です。我が主神の神域を荒らされたわけですから』
「ご参考までに、フルード様が今この時も大神官であられたとしたら、エアニーヌと慧音にどのような処分を下しておられましたか?」
表向きは柔和な面差しを崩さない彼も、内心ではおかんむりであるようだ。恐る恐る聞くと、美貌の先達は細指を顎に当て、数瞬ほど沈思黙考した。
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