49.見つけた
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「早くー! 大神官早ぁぁぁく! 俺を逃して下さいよっ!!」
この事態を引き起こした原因が、凄まじい力で組み付いてみっともなく喚いている。
「いい加減にしなさい――」
叱りつけようとしたフルードは、その寸前で目に入った光景に言葉を止めた。
負傷した霊獣と、寄り添うもう一匹の霊獣。泣き出しそうな顔で佇むアマーリエ。そして、アマーリエの横で苦悩の表情を受かべている――先ほどまでは確かに浮かべていた、赤毛の神使。
だが今、神使は笑っていた。山吹色の目を見開き、嬉しそうな顔で口角を上げていたのだ。その口元が動く。
み つ け た
「…………」
あの神使の正体を、フルードは知っている。正確に言えば、彼自身について、それはもうよく知っている。
本当は、彼とは初対面ではないから。
同時に、桃色の小鳥の姿が脳裏をよぎる。先ほどまでこの場の様子を見ていたが、神官たちの退避の際に吹き飛ばされ、その後はヨタヨタとよろめきながら空の上に飛び去って行った。あの小鳥はまだ戻っていない。
フルードは優しげな目を細めた。
聖威師の直感が告げる。
事態はまだ動く、と。
◆◆◆
『早くお逃げ下さい、ご主人様』
ディモスが促し、ラモスがアマーリエの袖をくわえる。
「待て、お前ら。なあアマーリエ……」
フレイムははやる気持ちを抑え、俯くアマーリエに話しかけようとした。だが、その声に重なる形で、不敵な嘲笑を刷いたラミルファが口を開く。
『そこの無礼な神官。お前は二度に渡り、僕を筆頭とする悪神を虚仮にしてくれたな』
言葉を遮られたフレイムが舌打ちしながら視線を向けると、シュードンが竦み上がっている。それでも、燃え盛る黒炎と這い回る蛆虫は、未だ彼に到達してはいない。シュードンがしがみついているフルードを巻き込まないために、抑えているからだ。威圧を緩めたラミルファが言った。
『フルード、その無礼者から離れろ。お前の体術ならば容易だろう』
遥か天界から、狼神が静かにこちらを注視している気配を感じる。フルードを見守っているのだろう。
「俺は絶対離れないからな! そうすりゃ狼神が俺もまとめて守ってくれるだろ!? 大神官、とっとと狼神を呼んで邪神を追い払って下さいよ! それとも狼神は肝心な時に愛し子を助けに来ない腰抜けですか!?」
ピク、とフルードの小指が揺れる。
「……言葉を慎め、神官シュードン・パース・グランズ」
明らかに変わった語調。
ラミルファが初めて足を一歩引き、従神たちが顔色を変えてざっと後ろに退がる。さりげなく見守っていたフレイムも神妙な顔になった。
「俺は、俺は悪くない! 全部アマーリエが悪いんだあぁぁ!」
しかし、シュードンはそれらの反応に気付かない。フルードを押し倒さんばかりの勢いで、ガッチリとへばりついて叫んでいる。それぞれの思惑が交差する場は、ただ混沌としていた。
『今ならまだ逃げられます。お早く!』
あちらがゴタゴタしているうちにと、ディモスが再度呼びかけた。
「……よ」
アマーリエが唇から僅かな音を漏らした。
『主?』
『何と仰いました?』
ラモスとディモス、そしてフレイムも全員が聞き取れなかった、小さな声。
「アマーリエ、どうした――」
「嫌よっ!!」
アマーリエが振り絞るように絶叫した。周囲に反響するほどの声量に、一瞬場が静まり返る。霊獣たちとフレイムは呆気に取られて固まり、シュードンが、フルードが、ラミルファが、従神たちが、全員揃ってこちらを見た。
「私の家族を失くすなんて絶対に嫌! お断りだわ! 助ける、絶対に助けてみせる!」
『しかし、ご主人様――』
気を取り直したディモスが再び口を開くのに構わず、アマーリエは神官衣の裾を払った。フレイムの前で両膝を付いて祈るように手を組み、深く頭を下げる。これは神に対する請願の作法だ。
「紅蓮の大神よ、大いなる慈悲と御心の下、我が声を聞き届けよ。神官アマーリエ・ユフィー・サードの名において、焔神フレイムを勧請いたします」
ありがとうございました。