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21.弟も襲われた

お読みいただきありがとうございます。

『何があったんです?』

『共有領域にいたらヴェーゼに声をかけられて、色々と話しておったんだ。主にレシスの先祖と生き餌になった神官たちの件についてだな。話が一区切り付いたから、じゃあこれでと別れかけた時、いきなりドーム状の神威が落ちて来てヴェーゼをすっぽり包んだ』


 球の中には、魂を消耗させる力を帯びた霧が満ちていた。己の内部を衰弱させられたアリステルが崩れ落ちると同時、仰天した葬邪神が神威の覆いを破壊して救出したという。


『自分より高位の神の力だったから、この子は防御も抵抗もできなかったんだなぁ』


 アリステルが世界に合わせて抑えている真価を解放すれば別だが、正真正銘の危機に陥りでもしない限り、そんなことはしない。


『つっても、向こうも十二分に手加減してはいたみたいですね、葬邪神様がすぐに助けたとはいえ、一瞬は格上の神威の直撃を喰らったんでしょう。にも関わらず、この程度で済んでる』

『ああ。神威の力は相当に弱められていた。神が愛する同胞を本気で傷付けるようとすることはない。和神が荒神化して理性を飛ばした場合は別だが』


 なお、生来の荒神は情理を保った状態で顕現するので、理性を吹き飛ばすのは二重の荒神化をした時だ。


『わざわざ俺が一緒の時に仕掛けて来たところを見てもそうだ。万々が一やり過ぎてしまっても、俺が確実に助けてやると踏んであのタイミングにしたんだろう』


 アリステルを必要以上に痛め付けないよう、重ねて気を配っていたということだ。それが察せられるがゆえに、葬邪神は我が子を襲われても怒気を見せていない。神は同胞に対してとことんまで甘いということも要因だが。


『あっちとしてはかるーくチョンチョンと頰を小突いた程度のつもりなんだなぁ、きっと』

『その言い方……どの神の仕業か分かってるんですね?』

『ああ、俺はあの神威を知っておるからな。だが理由が不明だ。いつから起きていたのかもそうだが、何故ヴェーゼにちょっかいをかけたんだ。今、アイとセラが文句を言ってやる〜とプンプンしながらアイツの領域を訪ねておる』


 相手は慎重に手加減していることが分かっているため、鬼神と怨神も本気で怒っているわけではない。だが、何故このようなことをしたのかは確かめなくてはと、プンスカしながら先方の神域へ向かったそうだ。


 余談だが、アリステルの弟サーシャと、鬼神とアリステルの間に顕現した御子神たちは、より高位の神が動いているということで自領で待機となっているらしい。


 それはともかく、葬邪神の表現が引っかかり、アマーリエは内心で眉を顰めた。


(いつから起きていたのか? ……もしかして、襲撃した相手は眠り神だったということ?)

『で、どの神なんです?』

『うん、それはな……』


 フレイムの問いに葬邪神が答えかけた時。


『――狼神様』


 不意にラミルファが虚空を見て呟いた。フレイムと葬邪神が口を閉ざしてそちらを見る。アマーリエとアリステルもだ。


『どうしたのです? 珍しいですね。あなたが念話を飛ばして来るなど』


 小首を傾げて応じていた灰緑の双眸が、次の瞬間凍り付いた。


『――セインが襲われた……!? すぐに行きます、そちらの領域へ入れて下さい』


 唇から零れ落ちたように言葉を漏らすと同時、兄へ辞去の挨拶もせずその姿がかき消える。


『セインが!?』


 息を呑んだ山吹色の眼差しが驚愕と焦燥を帯びる。


『フルードもか。どうなっている』

『行って下さい、焔神様。アマーリエもだ。私は父上が付いて下さっている、少し休めば大丈夫だから』


 葬邪神が唸り、険しい面差しのアリステルが言葉を発した。


(確かに、アリステル様はもう安全よね)


 文字通り葬邪神に抱え込まれている彼に、これ以上手出しできる神などいないだろう。


『ではいったんお暇します、葬邪神様。アリステル、よく休むんだぜ。……今、狼神様に訪問の許可を取った。ユフィー、手を』

「ええ。大神様方、御前失礼いたします」

(一体どうなっているのよ!?)


 即座に手を取り合い、アマーリエはフレイムと共に慌ただしく一礼し、その場から転移した。

ありがとうございました。

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