20.奇襲の報せ
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「まあ、リーリア様。どうしたの?」
声に出して返答することで、念話があったことをフレイムとラミルファに明示する。二神はすぐに口を閉ざし、待機状態に入ってくれた。
《つい先程、アリステル様が襲撃されたそうですのよ。たった今、拝謁している神からお聞きしましたわ》
「しゅ、襲撃された? アリステル様が!?」
流れのまま声に出して反芻すると、ラミルファとフレイムの顔色が変わった。
『ヴェーゼがどうした、アマーリエ?』
「は、はい、ええと……」
豹変した邪神の声音と顔付きに押されながらも、脳裏に流れるリーリアの説明を復唱する。
「天界の共有領域で、神威による奇襲を受けたとのことです。アリステル様より格上の力でしたが、ちょうど葬邪神様が共にいたため、事なきを得たと。今は彼の神の領域に退避されているそうです」
『高位神のアリステルより格上? そんなの、選ばれし神か最高神しかいねえじゃねえか。つーかちょっと待て、神威の襲撃って……何で神が同胞を襲う?』
唖然と言うフレイムを他所に、瞠目して聞いていたラミルファが身を翻し、フッと姿を消す。アリステルの元に駆け付けたのだろう。
「私も行きたいわ」
報せをくれたリーリアは、現在進行形で他の神と謁見している。すぐには動けない。ランドルフたちも同様だろう。自由が効くのは、ザル仮病で寝込んでいることにしていた自分だけだ。危ないと止められるかもしれないことを承知で言うと、山吹色の目が僅かな逡巡を帯びた。だが、それも一瞬。すぐに力強い頷きが返る。
『分かった。葬邪神様の神域なら危険はないだろうしな。待ってな、行きたいって念話するから…………よし、来て良いってよ』
葬邪神と兄弟であり、ごく近しい仲のラミルファはフラリと来訪できるが、そこまで親しい間柄ではないフレイムは事前申請を行うのが筋だ。数拍の間宙を眺め、先方から訪いの承諾を得ると小さく首肯する。
『行こうユフィー。ただし、行き先が安全だとしても絶対に俺から離れるな。万一がないとも限らねえ』
「約束するわ。ありがとう、フレイム」
差し伸べられた手を取れば、感じるのはいつもと同じ温かさと鼓動。全身がスゥッと落ち着きを取り戻すのを感じながら、アマーリエは転移を発動させた。
◆◆◆
歪んだ視界が正常を取り戻した時、目の前には豪奢な長椅子があった。どこかで見たと感じ、すぐに思い出す。疫神の領域にあった物と同じだ。だが、今はそんなことを気にしている時ではない。
「アリステル様!」
最高の座り心地であろうフカフカの長椅子には葬邪神が座しており、その腕の中に瞼を閉じたアリステルが抱えられていた。優美な体は、葬邪神が纏っている神衣の外套ですっぽり覆われている。
『……焔神様、アマーリエ?』
こちらの呼びかけが聞こえたか、薄く目を開けば、深海の青がチラリと覗く。陽光煌めく海面のような透明さはないが、謎と神秘に彩られた秘境の彩だ。
「お怪我は? 襲撃されたとお聞きしました」
『大事はない。すまない、心配をかけて』
『まだ動かない方が良いよ』
小さく身動ぎするのを、長椅子の前にいたラミルファが制した。アリステルを一瞥したフレイムが眉を顰め、難しい顔で我が子を見下ろす葬邪神を見遣る。
『こりゃ精神をちょっとばかり削られてますね』
『ああ。少し休めばすぐに全快する程度だがなぁ。それか気合いを入れても回復できるが、まぁ無理をしない方が良いだろと言ってここに連れて来たんだ』
応じた葬邪神が苦い眼差しで嘆息する。その目に怒りはない。ただ困惑と疑問だけが滲んでいた。
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