16.作戦がザルすぎる
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『ラミ様、葬邪神様、疫神様、大変です! アマーリエが高熱を出して血を吐いて卒倒しました!』
『神官エアニーヌと神官慧音の件で心労が溜まっていたようです。看護は焔神様がしておられるので父上方はお越しになられなくとも大丈夫です。ですがこのままでは、アマーリエの精神がボロボロになってしまいます』
『どうかイデナウアー様から仔細を聞き出して下さい、ラミ様。先方の目的が分からなければアマーリエたちも動きようがありません』
いかにも悲愴な声と顔付きを作ってやんやと言い立てる先代兄弟は、肉声と同じ台詞を念話でラミルファ、葬邪神、疫神に送っている。
「……うーん、けほっけほっ。はっ、また喉元まで血がっ……!」
ベッドに横たわったアマーリエは、額に乗せた氷嚢がチャプンと音を立てるのを聞きながら、虚ろな目で呟いた。
『大丈夫かーユフィー。し、しっかりしろー』
棒読み感溢れる口調で手を握っているのはフレイム。ベッド脇に固まる聖威師たちの顔は一様に強張っているが、これは噴き出しそうなのを必死で堪えているからだ。
『アマーリエ、しっかり。うん、まだ熱が高い』
意外に演技が上手いのはフロースだ。アマーリエの体温を計るように頰に手を当てる。
『これ以上心に負担をかけたら駄目だよ。ストレスになるものは極力取り除かないと。あっ、そういえば私の妹になる話、考えてくれたか?』
『どさくさに紛れて何言ってんだよ泡神様!』
フレイムがフロースの手をペチンとはたく。その様子を見ながら、アマーリエは内心でツッコんだ。
(いえ、絶対バレるでしょう。仮病だって即バレするわよこんなザル演技。倒れたなんて言ったらこっちの様子を視られるかもしれないから、具合が悪い風を装っているけれど……何でフレイムの神威か自分の聖威で治さないのか聞かれるわよ)
大神官時代のフルードとアリステルならば、まず提案しなかった雑すぎる作戦。『神は同胞のことになれば思考がガバガバになるからこれでイケる』と自信満々だったが、天界で平和ボケしたのだろうか。
そんなことを現実逃避気味に考えていると、しばし視線を虚空にさ迷わせていた先代たちがそろって頷いた。
『それは大変だと仰せでした。すぐに調べて下さるそうです』
『先祖に聞いてみようと快諾していただけた』
(ええ、コロッと騙されたの!? そんなはずないわよね!?)
大変なのはあなた方の思考回路じゃないですか、とは言えない。悪神三兄弟はバカ三兄弟になり下がってしまったのだろうか。
『良かったですね、これで祖先の目的が分かるかもしれません』
「あ、はい……そうですね」
にっこり微笑むフルードに、一気にドッと疲れたアマーリエは頰を引き攣らせてどうにか笑い返した。
◆◆◆
『やぁ、アマーリエ。具合はどうだい』
雑な仮病作戦から少し後。新鮮な果物がぎっしり詰まったバスケットを下げ、フレイムの領域にやって来たのは末の邪神だ。小さなナイフを持ち、アマーリエが寝ているベッドの枕元で、器用にリンゴを剥いては様々な形に削っている。瞬く間に完成する動植物や城などを手に乗せ、ほら、と見せてくれる。食べるのが惜しくなってしまうような出来だ。
『フレイムにあーんしてもらったらどうだ。か弱い君はしっかり休まないと駄目だよ。発熱したり吐血したり気絶したり忙しいようだからね、ふふふ』
含み笑いを漏らす灰緑の双眸からは、揶揄いも憂慮も読み取れない。アレを演技だと見抜いた上でウケたから乗ってくれたのか、本当に頭がゆるゆるになって騙されているのか、どちらなのだろうか。だが、いずれであっても、イデナウアーから情報を引き出してくれたことは確かだ。
なお、ランドルフやリーリアたちは神々への挨拶を再開し、フルードも情報収集に繰り出した。アリステルは葬邪神から話を聞くと言って出て行った。そのため、ここにいるのはアマーリエとフレイム、ラミルファだけである。
「は、はい……それで、何か分かりましたか?」
『ああ、おおよそは。今から話すのと同じ内容を、他の聖威師や主神、関係神にも転送しておくよ。他の聖威師たちは挨拶巡り中で、ゆっくり念話している時間はないだろうからね』
ありがとうございました。




