75.高次会議、開幕
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『では、聖威師の滞留継続について表決を行うわ』
色とりどりの神威が満ち溢れる中、風神が宣言した。今回の高次会議では権利を放棄すると事前に公言済みなので、直々に進行役を買って出たらしい。
『継続に賛成の者は挙手を』
一斉に手が挙がる。フレイムとラミルファを筆頭に、見知った神もまだ関わりが薄い神もいる。はーいはいと元気よく手を振っているのは戦神だ。横から闘神に小突かれている。
(こんなにたくさん……ありがとうございます)
同じく腕を持ち上げながら、アマーリエは胸中で礼を言った。先立って行われた予備会議でも数が拮抗していたが、最終決定となる今日は明らかに多い。どう見積もっても過半数を超えている。
側にいるリーリアと目が合うと、彼女は美しい緑色の瞳を煌めかせていた。やりましたわね、という快哉が聴こえて来るようだ。小さく頷いて他の聖威師たちを見回すと、ランドルフたちはどこか茫洋とした顔で会場を眺めていた。
《アマーリエちゃん良かったね!》
《皇后さ……日香様!》
《そうそう、日香って呼んで〜。もう昇天したから皇后やめたんだしね。アマーリエちゃんにだけ個別念話してるの》
念話を送って来たのは紅日皇后――いや、紅日神日香だ。
《今、超天から視てるよ。これは継続で決まりだね》
《ええ。ありがたいことです。継続でも廃止でも結果は同じでしたけれど。追加の要望が通りましたので、どちらの派閥が制したとしても、あと500年で聖威師の滞留は終わることになりますから》
フレイムとラミルファ、そして狼神が取りまとめて提出した尊重派と帰還派の要望書は、高次会議の冒頭で審議され、どちらも採用決定となった。それから本題の表決に移ったのだ。だが、日香は否を返した。
《ううん、同じじゃないよ。継続が勝ったら堂々と滞留できるけど、帰還派が勝ってたらお情けで猶予期間をいただいてる立場になるから、肩身の狭さが全然違うもん》
《実際、猶予期間を下さいという理屈で期間派に訴えたのですけれど》
アマーリエが苦笑いすると、日香はあっはっはーと明るい声を返した。
《あ、そっかそうだったよねー。でも、相手の方からお慈悲で猶予をもらうのと、こっちから言い出した提案を相手が呑むのじゃ後の方が良いよ。主導権はこっちが握ってるんだしね。そうそう、あの演説は良かったよ〜アマーリエちゃん》
《演説というほどのものでは……》
謙遜しつつ、アマーリエは帰還賛成派の神々と話した時のことを思い起こした。
(あの時は心臓がバクバクだったわよ。口から胃が丸ごと飛び出るかと思ったもの)
一度話をし、彼らを安心させて欲しい。そう言われたアマーリエは、他の聖威師と打ち合わせを行った。色持ちを含む神々に直訴するとなれば、聖威師の中でも役職者が行くべきだ。だが、該当者は6名いる。全員が口々に喋っても収拾が付かないため、誰かが代表で話し、他の皆は後方に並んで支えようということになった。
アマーリエ、リーリア、ランドルフ、ルルアージュ、当利、祐奈。各自に長所や適性がある。ただ今回に関しては、神側の中心となっているフレイムがアマーリエの主神であることから、アマーリエが代表で話をすることになった。
(実際に行ってみたら帰還派だけでなく賛成派までおいでだったのよ。有色無色を問わずほとんど全ての神々がそろっていたから、驚きで完全昇天するかと思ったわ)
話を聞き付けたらしい至高神たちも、超天から見守ってくれていた。『頑張ってアマーリエちゃん!』と個別念話で激励してくれた日香に、『緊張で胃ごと吐きそうです』と弱音を漏らしたところ、『心配しないで、胃くらい私が拾いに行ってあげる!』という訳の分からないフォローが来た。骨は拾ってやるぜ、みたいなノリで来られても困る。
(けれど、あの場で神々にきちんと気持ちを伝えることができたから、この高次会議がスムーズにいったわ)
胸中で独白し、アマーリエの意識は束の間、あの時の場に飛んだ。
ありがとうございました。




