表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
450/460

64.悪神兄たちの娯遊 後編

お読みいただきありがとうございます。

 5年前、滞留書を更新するためのペンに騙し討ちで神威を補充させた時。禍神はわざわざ『ディスは帰還賛成派だから油断した』と発言し、これ見よがしに騙された〜と白々しい泣き真似なんぞをしていた。そして、うっそりと笑みを浮かべて言ったのだ。『もはや尊重派そのものだ』と。


 あの時、禍神は本当に気付いておらず騙されたのか。半信半疑であり、確かめるためならば騙されても良いと思って来たのか。

 それとも――ほぼ確信しており、本音を偽る息子たちに慈悲を与えるために騙されてくれたのか。……あるいは、ただ息子たちの芝居を面白がり、一緒に踊っていただけなのか。

 真相は禍神のみが知る。親神の深慮は、息子たちでも読み切れない。


『父神だけではないぞ。荒神たちも察しておるように感じる』


 さらりと述べた疫神の脳裏に、かつてフレイム、ラミルファ、戦神、闘神が漏らしていた言葉がよぎる。



 ――ふ〜ん、そうですか。強硬派なんですか、へぇ〜

 ……どういうつもりですか、疫神様。どうして――


 ――おやめ下さい兄上! 何故あなたが……お返し下さい!

 ――そんなはずない……あなたが……返して、下さい……!


 ――あのぅ、ディス様。ちょっと気になってるんですけど


 ――あなた様はもしや――



『生来の荒神はとかく勘が鋭い。アイにセラ、ハルアもだ。朧げにでも、我が本当は尊重派だと嗅ぎ取っておるやもしれん。……だが、事実がどうだとしても、最終的な票数に影響はない。我とお前が交代したというだけだからな』


 その場で槍を回して遊びながら、疫神は現実的な意見を述べた。


『はは、まあそうだなぁ』


 暴れ神が動かないと悟り、葬邪神は未練なく挑発を止めた。剣を降ろし、ダラリと下げるようにして下段に構える。

 膠着した神威が絶対的な無を生み出し、武器を携えた二神が再び交錯しようとした時。


《兄上方》


 末弟から念話が届いた。双子神が同時に動きを止める。


《どうしたラミ?》


 葬邪神に対する尊大な態度から一転し、優しい口調で問いかけるのは疫神だ。


《兄上方とお話ししたいのです。皆で一緒にお茶を飲みませんか?》


 なお、この三兄弟は生粋の悪神なので、三柱だけで飲食をする場合は悪神仕様の料理や茶菓になる。アマーリエが見れば一生のトラウマになるような代物だ。


『ディス、どうする……』

《分かった、行こう》


 葬邪神の問いかけが終わる前に、疫神が即答した。滅多に遊びに付き合ってくれない片割れが、珍しく乗ってくれた――その貴重な時間を、躊躇なく打ち捨てる。


《じゃあ俺もお邪魔しようかな〜》


 暴神の態度に一瞬驚きを見せた葬邪神だが、すぐに気を取り直して返事を送る。待っています、と嬉しそうな声が響き、念話が切れた。


『アレクと茶など飲みたくないが、あの子が三神でと望むなら仕方ない』


 疫神が結界内でせめぎ合っていた自身の力を全て消す。一気に拮抗状態が崩れ、葬邪神の御稜威が場に溢れる寸前、それも幻のように消失した。


『おっと危ない……お前、本当にラミに甘いな』

『当然だ。小さくか弱いあの子は、我が守ってやらねば』

『お前は幾度もそう言うが、ラミは俺たちと対等な生来の荒神だ。かつてフルードが危機に陥った際、激昂して枷を外しかけたあの子を直に見て、俺はそれを確信した。その時寝ていたお前には分からんだろうがな。――良いか、ラミはお前が思っているよりずっと強い。見誤るなよ』


 さっさと踵を返した疫神に、葬邪神が静かに語りかける。当時を回想している双眸には、紛れもなく畏怖の気配が滲んでいた。末弟を自身に匹敵する存在だと認めている。


『我が思っているより遥かに強い、か。そうであろうな』


 歩き出そうとしていた足を止め、呟くように言った疫神は、つと首を巡らせて片割れを省みた。


『だが逆に、我だけが知っているラミもいる。おそらくお前は見たことがない姿だ。……あの子はお前が思っているよりずっと弱い。お前こそ見誤るでない』


 何かを思い出すように細められた瞳に宿るのは、究極の慈愛。末弟を庇護すべき儚い存在として認識している。


『それより、そろそろ神々をまとめねば。分かっているだろう、雛たちが一時昇天している現在が好機だ。それも考慮し、最高神と我らは雛たちを帰天させることにしたのだからな』

『もちろんだとも。今がちょうど頃合いだ。ブレイとも打ち合わせて動く』

『ならば良い。では、我はラミの所へ行く』

『あ、待てディス。俺も行くぞ〜』


 確認したいことが済むなりスタスタ出て行く片割れを、葬邪神も追いかけた。

 神域に展開されていた結界が失せる。完全に制御されていた二つの荒ぶる神威は、残り香の欠片すらも漂わせることなく消え去っていた。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ