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58.ちびっ子も頑張る

お読みいただきありがとうございます。

(えっ――)


 紡がれた補足を聞き、青い目を見開いてこっそりとフレイムを見遣る。


(そ……そう、なの?)


 だが、声無き問いを抱いていることを知る由もない葬邪神が、肩を竦めて言った。


『ブレイ』

『何かしら、アレク?』


 ブレイズが反応する。アマーリエは慌てて思考を中断した。今は目の前のことに集中しなければならない。


『この精霊に褒賞を与えるのは止める。アマーリエの主張もあるしな。そういうことだから、神炎を無断使用された立場のお前が処罰してくれ』

(や、やったわ)


 その言葉を聞き、卒倒しそうなほど安堵する。前半の関門はクリアだ。


(後はアンディが恩赦に同意してくれれば……)


 大人しく心優しいあの子は、おそらく厳罰を望まない。自分と姉を虐めていた継母たちにすら、過酷な処分をしないよう慈悲をかけていた。


「心よりお礼申し上げます、葬邪神様」

『礼なんか要らんさ。ディスの言う通り、俺はお前の精神を守ると誓ったから、仕方がないんだなぁ。お前のストレスになるようなことをするのは避けるべきだ』


 穏やかに苦笑した葬邪神の視線の先では、いつの間にか幼児の姿に戻った疫神が、ご機嫌で鼻歌を歌っている。


『ブレイ、お前の義妹は中々勇敢だなぁ』

『当然よ。我ら火神一族の末義娘なのだから』


 ブレイズが誇らしげに答えた時。か細い声が上がった。


「そ、奏上申し上げます」


 空気の中に溶けて消えてしまいそうにか弱く頼りない――それでも確かにきちんと発された声。皆がハッと振り向く。後方で介抱されていたアンディが、上体を起こして平伏していた。今にも気絶しそうなほど強張った顔で全身を震わせながら、それでも神官としての礼を取っている。


「私アンディ・ソル・アーシエは、火事を起こした者に厳しい罰を望みません」


 たどたどしく紡がれる直訴は、儚くともれっきとした神への言上だ。


「神々の大いなるお心を持ちまして、どうかお慈悲をお願い申し上げます」

(アンディ、よく頑張ったわね)


 アマーリエは心の中で賞賛した。これで後半の関門も通過した。この状況から精神を持ち直し、居並ぶ高位神を相手に直訴した胆力は見事だが、それも当然である。ここでただぶっ倒れて終わるだけの器ならば、そもそも神に見初められるはずがない。怖がりで控えめなアンディは、しかし、神を魅了するだけの魂を持っている。この程度の重圧で潰れるはずがない。


『……新たな同胞よ、当事者であるあなたの意向を汲みましょう。よくぞ勇気を振り絞って発言しました』


 賛辞を宿した目で首肯したブレイズが、神衣の袖を一振りした。その容姿が真赤に変じる。真の神格を表出させたのだ。煉火神(れんかしん)の顕現に、広間の神々が平伏し、色持ちたちは一斉に頭を下げた。上座の奥で黙然と経過を見守っていた最高神五柱も同様だ。


《精霊ヨルンに配置換えを命じる。二階級降格の上、下級雑務を担当せよ。本来は神罰牢行きであるところ、恩赦を適用した特別措置である》


 瞳に揺らめいていた憤激は消えている。目の前の精霊を完全に見限ったのだ。興味を失った対象には、怒りや詰りすら抱かない。当のヨルンは、悪神の生き餌を免れた奇跡に泣き崩れていた。


《ありがとうな、ユフィー。お前が声を上げてくれたおかげでコイツは助かった》


 フレイムが念話を送って来た。常の力強さはない、静かな声音だ。


《いいえ、むしろ神々にご心配とお手数をおかけしてしまって……最後は葬邪神様が譲歩して下さっただけだし、全然上手くできなかったわ》

《そう思ってんの、多分お前だけだぜ。今回は俺じゃ動けなかった。コイツと繋がりがない大神官のお前だから声を上げられたんだ。本当にありがとうな》


 フレイムとて、結果論とはいえ愛し子であるアマーリエを危機に晒された立場だ。だが同時に、ヨルンのかつての同輩でもある。昔の身内を庇っている形になれば、現在の家族である神々は面白くないと感じ、逆にヨルンを追い詰めてしまうかもしれなかった。


《にしても、この程度で済んで奇跡だったぜ。最悪の場合、連帯責任で精霊全員が根絶やしにされていたかもしれん》

《ええ!?》

《高位神の火を勝手に持ち出して他の神の領域に放火し、そこにいた神をあわやの危機に晒した。そんなことをする存在など天に不要、って感じだ。前も言ったが、精霊がいなきゃいないで、神には問題も不都合もねえからな。滅亡していなくなろうが独立して天を去ろうが、何とも思わねえよ》


 では、まさか精霊絶滅の危機だったのか。そんな状況だとは知らなかった。


(ほ、本当に穏便に済んで良かったわ)


 別の精霊たちの手により連行されていくヨルンと、ひと段落ついたと判断して解散していく神々を眺めながら、アマーリエは密かに冷や汗を流した。

ありがとうございました。

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