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55.味方がいてくれるから

お読みいただきありがとうございます。

 波打つ声が、絶望の宣告を告げる。

 神と神以外の存在が愛し子の誓約を結ぶ場合、神が己の神格や名を名乗るか否かは任意だ。神と神の契りであれば互いに神性を提示するが、神ではない格下の存在相手にそれをするかどうかは、個々の神の一存に委ねられている。

 なお、契りを結んだ後に司るものを変更した場合でも、誓約はそのまま新しい神格に引き継がれる。


(フレイム、このままでは……!)


 アマーリエが夫に視線を移すと、山吹色の双眸が苦渋を孕んでいた。フルードが案じるように兄を見やり、自身の胸をそっと抑えている。高位神の中で何らかの感情を滲ませている数少ない神々の一部が彼らだ。


(やっぱり辛いのね)


 どれほど愚かな真似をしでかしたとて、同じ釜で食事をしたことがある者だ。その時の思い出が消えるわけではない。悪神の生き餌になるのを目の当たりにして気分が良いはずはない。しかし、フレイムの立場で庇うことは難しいだろう。


(許してあげて下さいと頼むのは違うわよね。それを言えるのは私ではなく、アンディか水晶神様だもの)


 今回の件、アマーリエも危機一髪にはなったが、フレイムに頼み込んで自分から火中に突撃をかました結果なので、ある意味では自業自得だ。純粋な被害者はアンディである。つまり、寛恕を請えるのはアンディか、彼の主神である水晶神のみ。

 勝手に突っ込んで勝手に窮地に陥ったアマーリエが、これまた勝手に生き餌の免除を望むのは違う。


 こっそり隣を窺い見ると、水晶神は冷ややかな目でヨルンを見ていた。当然だが、温情を願い出る気配など感じられない。


(そもそも、仮に水晶神様が取りなして下さったとしても、これは処分ではなく褒美という扱いなのだから、許すものではないのだし――いえ、ちょっと待って。それを逆手に取れない? 大神官時代のフルード様だったら、こんな時どうなさるかしら。神官府の長としてのフルード様だったら……)


 葬邪神の腕が上がる。布から滑り出た腕は枯れ木のように細く、青黒い肌には無数の黒い斑点が浮き上がっていた。


 眉を下げたフルードが、ラミルファとアリステルを順に見た。二神がチラとフルードを一瞥し、視線を虚空へ向ける。三神で念話を始めたのだ。アリステルが渋面を作って嘆息し、双眸を和らげたラミルファが仕方ないなぁと唇を動かす。そして二柱で葬邪神の方を向き、口を開きかけ――


「お待ち下さい葬邪神様!」


 だが、それに気付かないアマーリエが声を上げる方が早かった。ラミルファとアリステルが動きを止め、フルードが瞬きする。


「憚りながら申し上げます。葬邪神様の御心は感慨の至りにして尊きものなれど、矮小なこの身ではそのお慈悲を受け容れかねます」


 心臓がバクバクと脈打っている。握り込んだ掌に生温い汗が滲んだ。自分は今、神が愛し子を得る行為を妨害しようとしている。全ての神に認められた権利に立ち入ろうとしている。一歩、いや半歩間違えばどうなることか。ヨルンを助けるどころか、フレイムの力になるどころか、反対にこの上ない迷惑をかけてしまうかもしれない。


《ユフィー》


 フレイムが声を飛ばして来るが、ラミルファとフルードが遮った。


《おやおやアマーリエ、何だか面白いことを始めたな。――良いだろう、やってごらん。それでピンチになったら、指差して大笑いしながら助けてあげよう。……言っただろう、この僕が君を守ってあげると。あの言葉に有効期限は無いよ》

《ええ、やってみなさいアマーリエ。仮に上手くいかずとも、私がフォローします。ローナや佳良様たち先達の方々も助けてくれるでしょう》


 自分たちが付いているから大丈夫だ、と言ってくれる言葉に励まされ、行動を誤ったかと尻込みしかけていた気持ちが落ち着いた。

ありがとうございました。

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