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43.その魂胆は

お読みいただきありがとうございます。

『…………っ』


 影――マイカが唇を噛んで俯く。部屋の入口付近に固まっていた従神たちと精霊たちが剣呑な表情を浮かべており、ヨルンが呆然と呟く。


『な、何してるんだよマイカ……今の、委任状を入れた箱だろう。何でお前が持ってるんだ?』


 フルードが小首を傾げてフレイムを見上げた。


『お兄様、いかがいたしましょうか?』

『……放してやってくれ。この状況じゃ、脱走も反撃も自害も何もできん』


 高位神に囲まれた現状を示して言った兄の言葉に、先代の大神官は麗しく微笑む。


『分かりました』


 マイカを捕らえ続けていた紅碧の神威が溶け消える。フレイムがそっと腕を解いてアマーリエを解放した。


『ちょっとだけここにいてくれ。セイン、すまんがユフィーを頼めるか』

『はい、お兄様』

「待ってフレイム、私も……」


 手を伸ばしかけたアマーリエを、マイカをじっと見ていたフルードが優しく押し留めた。


『いけませんアマーリエ。……あの精霊に最後の慈悲を与えてやりたいならば、あなたが出てはいけません。比翼(ひよく)連理(れんり)の姿を見せ付けることになります』

「はい? 比翼……?」


 仲睦まじい夫婦を表す皇国のことわざを出され、キョトンと転瞬するアマーリエ。その間に、フレイムはかつての同胞の前に立った。いつもは日だまりのごとく煌めいている山吹色の瞳に、今は温度が通っていない。


『フ、フレイム様、違うのです。その……委任状の箱はデスクの下に落ちていました。それを拾って戻そうとしたところを見られて、誤解を』

『無駄だ。俺たちがお前の動きの一部始終を全部見てた。この目でな』


 横にズレてフレイムの場所を開けたラミルファが忍び笑いを漏らす。


『あんなやり取りを聞かされたんだ。箱がなくなって返礼品が渡せなければ、兄上がブチ切れて天界中が大騒ぎになるかもしれないと、大慌てで戻しに来たのだろう』

『わ、私は……』


 喉に何かが詰まったように続きを話せないマイカに、凪いだ声が落とされる。


『――どうしてこんな真似をした』

『…………』


 血の気が失せた顔で涙ぐむ少女姿の精霊に、見ていられなくなったアマーリエは声を上げた。


「フレイム、そんなに怖い声を出さないであげて。すごく怯えているわ。これでは何も話せないわよ」

『!』


 だが、それを聞いたマイカは、何故か悔しげに奥歯を噛み締め、悲憤の形相に変貌した。


『……私を憐れんで下さるわけですか? 燁神様は慈悲深いこと。それとも勝利宣言のおつもりで?』

「……え?」


 意味が分からなかった。傍にいるフルードが、何故か額を抑えている。


『言葉を慎め』


 フレイムが口を開く前に、傍観を決め込んでいたラミルファが言い放った。業物のごとき鋭さを秘めた、熾烈な眼光。


『たかが精霊ごときが、選ばれし神の愛し子たる高位神を侮辱するか。自分から厳罰に向かって真っしぐらとは、もしかして君はマゾなのか?』

『…………こんな、はずじゃ……すぐに戻すつもりだったのに!』


 血が出そうなほど強く拳を握り締め、マイカが声を絞り出す。多くの者が集まっていながらどこか寒々しい空間に響く、咎者の泣哭(きゅうこく)


『話せ、お前の魂胆を』


 疫神が端的に告げる。神威を込めた声で命じられれば、嘘を吐くこともごまかすことも許されない。強制的に真実を喋らされる。


『い、委任状の箱がなくなれば、フレイムとこの女は必死でこの部屋や領域内を探し回ります。私もきっと手伝いを命じられるでしょう。そこで私が箱を見付けた風を装って差し出せば、フレイムはものすごく感謝してくれるはずです。きっと私に目をかけて、側に召し上げてもらえる。そう思ったのです』


 滂沱の涙と共に打ち出された虚構の未来に、アマーリエは言葉を失った。


(そ、側に召し上げてって、まさか、マイカはフレイムのことを……)


 否応無く目論見と本音を吐き出させられたことで、マイカが心中ではフレイムを呼び捨てにし、アマーリエをこの女呼ばわりしている事実まで白日の下に晒されてしまった。

 フレイム付きの従神たちと精霊たちが険しい眼差しを向け、臨時の精霊たちはただ唖然と立ち尽くしている。ヨルンがパクパクと口を開閉していた。

ありがとうございました。

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