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34.平和な時間は儚く終わる

お読みいただきありがとうございます。

 へぇ、と、今度はアマーリエが目をパチパチさせた。


「その話は聞かなかったわ」

『ちなみに、人間の世界じゃヘアアイテムを贈ることは相手に気があるみたいなアピールになるらしいが、天ではそういう風習はねえから。誤解しないでくれよ』

「ええ、分かっているわよ。ラミルファ様も以前バレッタを下さったし、昨年の誕生日にはお義兄様から天珠をあしらった髪飾りをいただいたもの」


 アマーリエはケロリと笑った。天界におけるヘアアクセサリーは、本当にただのプレゼントという位置付けなのだろう。


「今フレイムが言ったのは、皇国の方の習いね。(かんざし)(くし)を贈ることで、相手と添い遂げたいという気持ちを示すことがあるの。と言っても、そんな意図は無く普通の贈り物として渡す方が多いけれどね」


 軽く説明した後で、マイカとの話の続きを思い出し、ポンと手を打つ。


「あ、そうだわ。マイカには、フレイムが手作りのお菓子を作ってくれたことも教えてもらったわよ。焼き菓子を作ってもらったって」

『あー、シンプルな丸いクッキーな。あん時は、先にマイカも含めた女の精霊たちが、俺込みの男の精霊たちに差し入れを持って来たんだよ。んで、俺たちは相談してお返しの品を用意して、女の精霊全員に配ったわけだ。俺はクッキー、他の奴はドリンク、また別の奴はフルーツとか、互いに被らないようにしてな』

「まあ、そうだったの。ではフレイムが作ったのは差し入れのお返しだったのね」

『ああ。髪留めにしろクッキーにしろ、他の奴らもいる場で一斉に渡したから、マイカ以外にもその時のことを覚えてる精霊はいるはずだぜ。ヨルンとメルビンもいたしな』


 マイカ、ヨルン、メルビンは、フレイムと同じ仕事をしていた時期があるのだ。説明を聞きながら、デザートのパフェに手を伸ばしたアマーリエは、ねだるような上目遣いで夫を見た。


「もっと知りたいわ。精霊時代のフレイムのこと。マイカはお喋りしすぎだとヨルンに注意されて、しょんぼりしてしまっていたけれど、私は色々聞けて楽しかったもの」

(今朝は話を聞くのに夢中で言わなかったけれど、私だってフレイムからたくさん髪飾りをもらっているのよ。お菓子だって何度も作ってもらったもの)


 今度マイカにその話をすれば、共通の話題で楽しめるかもしれない。密かに期待を膨らませるアマーリエの胸の内など知らず、フレイムが苦笑する。


『他の奴を通さなくたって、俺が直接話してやるよ。それか、おれの従神か下働きに聞いてみれば良い』

(あ、そうか。フレイムの従神たちは元精霊仲間を引き抜いたんだものね)


 それは名案だと思いながら、フレイムに向かって微笑む。


「そうするわね。ただ、先に神苑に行ってみたいわ。結晶花が咲いているのでしょう?」

『天珠とかもあるぜ。お前にやった髪飾りは、俺のトコで採れた天珠の中でも最上品を使ってるんだ。義兄上の天珠とは比べものにならねえけど』

「私にとっては一番の極上品だわ。それに、お義兄様と比べるのは駄目よ。天珠に全霊を注がれて来た御方なのだから。……待ってて、食べ終わったら準備して来るわ」


 後はフルーツだけだ。永遠に食べていられると思うほどの食事を名残惜しく終え、身支度を整えに部屋へ戻る。フレイムの部屋でもあれど、当然更衣中は入って来ない。当たり前の気遣いのように思うが、神の感性では変わり種らしい。


(フロース様は着替え中も入浴中も気にせず入って来るらしいから、リーリア様が頭を悩ませていたわね)


 人間の感覚ではフロースが無神経だと感じるが、生粋の神は男女の性や着衣しているか否かは気にしないのだという。神は性別を超越した存在であり、姿も自由自在に変えられ、衣を纏っていても透視で全部視える。ゆえに、裸体を見られることが恥ずかしいという概念自体がないそうだ。


(フレイムは精霊だったから、生え抜きの神よりはまだ人間の感性に近いのよね。私としては助かるわ)


 そんなことを考えながら赤い天珠の髪飾りを付け、精緻な模様が織り込まれたショールを羽織り、さて行こうと思ったところで動きを止める。


「――あら?」


 部屋のテーブルに置いてあった大きな箱の蓋が、少しだが開いている。


(これは、ランドルフ君と当利君の委任状を入れてある箱……)

「変ね、きちんと閉めたはずなのに」


 首を傾げながら何気なく蓋を開け、ギョッとして中を瞠視(どうし)する。


「……えっ……!?」


 心臓がドクンと跳ね、全身からみるみる内に血の気が引いていく。


 箱の中身はなくなり、ガランとした内部だけが寂しく広がっていた。

ありがとうございました。

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