表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
412/456

26.不穏な予感

お読みいただきありがとうございます。

 フルードが愁眉を開いた。天界の構成や制度には詳しくないアマーリエだが、この反応を見るに救いのある内容のようだ。


《神を神罰牢に落としかけたことを鑑みれば、有り得ないほど軽い処分です。アマーリエたち聖威師による慶事を理由にしたことが効いたのでしょう。ありがとう》

《いいえ、フルード様が風神様を説得して下さったおかげです。三等? 三階級? 落ちてしまうようですけれど……》

《この馬も精霊たちも元々地位が高いので、三つ落ちた程度で劣悪な状況になることはありません。多少環境の質が下がるくらいです。繰り返しますが、これは破格な軽罰ですよ》

《そうなのですか。彼らの境遇が大きく悪化しないのなら良かったです》

(風神様の馬だから最高の待遇を受けていると思っていたけれど、精霊たちも上位精霊だったのね)


 こっそりと念話しながら胸を撫で下ろしていると、フレイムとラミルファが真の神格を抑え、見慣れた姿に戻った。同時に風神に対する態度を変え、恭しく礼をする。仮の姿である焔神と邪神の状態では、風神より格下であるからだ。


『二神とも楽にしてちょうだい。……それにしても、石柱の装飾剣が落ちたのね。剣を止めていた紐が緩んだか、切れたか――罰の一環として、そなたらが調査しなさい。謹慎はその後で良いわ』


 命じられたのは平伏していた精霊たちだ。


『経年劣化で切れたのであったとしても、石柱の清掃や管理を担当していた使役の怠慢は免れない。祝賀中に起こったことゆえ、厳罰は免除するとしても、処分なしというわけにはいかないわ』

『風神様の仰せのままに』

『直ちにお調べし、報告いたします』


 即答した二体の精霊に、ラミルファが言い放つ。


『この馬も連れて行け』


 神威を解かれた馬はすっかり大人しくなっていた。応の返事をした精霊たちが馬を起こすと、轡を取ってかき消える。転移で移動したのだろう。


(ごめんなさい、私たちを乗せてしまったばかりに……)


 えもいわれぬ罪悪感を抱きながら見送ったアマーリエに、風神が優雅な所作で歩み寄った。


『本当に大事はないのね。あの馬には私が日常的に乗っていたの。かるがゆえに我が御稜威が馴染み、馬自身の霊威と絡んで纏わり付いていた』


 それが馬の暴走に呼応して活性化してしまい、聖威の発動阻害を始め、フレイムを弾き、神苑に張られていた禍神の結界を相殺するという事態を引き起こしてしまった。美種を退避させた時は馬が暴れ出す直前だったため、まだ風神の力が活性化しておらず、聖威が使えたのだろうと言われた。


『焔神、狼神、骸邪神。改めてお詫びするわ。申し訳ないことをしました』

『風神様のお心遣いに感謝申し上げます』

『もったいなきお言葉にございます』


 風神直々の謝罪に、フレイムとラミルファは低頭して敬意を表した。一方の狼神は朗らかに笑う。


『ま、誰にも怪我なくて良かったではありませんか。アマーリエ、戻って小さな聖威師たちを安心させてやるが良いぞ』

「はい、狼神様」


 どうにか穏便に収まったことに安堵しつつ、アマーリエは胸の奥でわだかまる不安を消し切れずにいた。


(これは事故、よね? 剣が落ちて来たのは偶然で、風神様も仰っていたように紐が傷んでいたせい……)


 だが――事故現場のど真ん中に居合わせた自分の耳は、剣が落ちる寸前に、シュッという微かな音を拾った気がするのだ。まるで何かが紐を切り裂いたかのような、鋭い音を。


(……きっと、風の音を聞き間違えたのよ)


 精霊たちが石柱や剣、紐を調べれば、きっと仔細が分かるだろう。やはりただの偶然だったと。


 だが、何故だろうか。心の底からじわじわと滲み上がる嫌な感覚は、いつまでもアマーリエに纏わり付いていた。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ