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23.天馬の暴走

お読みいただきありがとうございます。

 内気で大人しい7歳の子どもが、実は馬乗りが得意。意外な特技である。最初は大樹と一緒に乗せてもらっていたが、コツを掴むと驚く速さで上達したという。


「バランス感覚が良いのだと思います。神官府にいる馬型の霊獣もすぐに乗りこなしたんですよ」


 アマーリエが捕捉すると、フルードが感心した声を漏らした。


『それはすごいですね。私は9歳の時、空を高速で飛ぶ狼神様の背に乗って恐怖で気絶しかけていましたよ』

『そうだったなぁ』


 思い出すように目を細めたフレイムが、笑いを噛み殺すような顔をした。


『風神様より、乗りたい者がいれば自由に使わせて良いと仰せつかっております。この馬は性格も大人しく従順ですし、僭越ながら乗られてみてはいかがでしょうか』


 精霊が提案する。美種が目を輝かせ、もう一度大樹に視線を送った。大樹が問いかけるようにアマーリエを見る。一瞬だけ思案し、アマーリエは首を縦に振った。


「風神様がお許し下さっているなら良いでしょう。私と一緒に乗ってみましょうか」

「はい!」


 身を縮めていた今までから一転、美種が飛び跳ねるようにして椅子から降りると、目を輝かせて馬に駆け寄る。


『ユフィー、大丈夫か。天馬は初めてだろ』

「神官府で何度か馬型の霊獣に乗ったことがあるから、その要領でいけると思うわ」

(基本的な操縦方法は変わらないわよね)


 轡を持ったまま待機していたもう一体の精霊が、恭しく礼をして美種を迎えた。アマーリエも合流し、まずは少女の体を抱き上げて馬上に乗せる。大人しくしている天馬は、一言も喋らない。言葉を使わない種類のようだ。なお、ラモスとディモスは言葉を解して話せるタイプの霊獣である。


「少し高いけれど、大丈夫?」

「大丈夫です」


 元気に応える美種の後ろにヒラリと飛び乗ると、精霊から手綱を受け取った。フレイムたちは、テーブルからニコニコとこちらを見ている。片手で手綱を持ったまま手を振り、美種に視線を下ろした。


「少し歩いてみましょうか」

『柱の周りを回られてはいかがですか?』

「ええ、そうするわ」


 側に付いている精霊の言葉を採用し、巨大な石柱の周囲を歩く形で馬を進めた。美種が嬉しそうに笑い、身を乗り出して周囲を見回している。


「あまり体を傾けては危ないわよ」


 喜んでくれたようで何よりだと思いながら笑いかけた時。


 シュッと風が走ったような気がした。キシ、と何かが擦れる音と軋む音が同時に響く。それもすぐ近く――正確には頭上から。


(え?)


 見上げた視界に広がったのは、ツルリとした石の柱と、紐で柱に結わえられた装飾の剣。

 ――抜き身で飾られたその獲物が、大きく傾いでいた。咄嗟に手綱を引いた直後、白銀の刃が一直線に落下し、馬の胴を掠めながら脚の横に突き刺さった。

 目を剥いた馬が甲高くいななき、前脚を大きく上げて仰け反った。


「きゃっ!?」


 美種が悲鳴を上げ、横に滑り落ちる形で馬上から放り出される。抱き留めようと腕を伸ばしたアマーリエだが、すんでのところで手を止めた。


(このまま降ろした方が良いわ)


 刹那の直感に従い、美種を聖威で包んで飛ばし、退避させる。次の瞬間、ガクンと体が前に倒れ、吹き付ける風に髪が煽られた。視界の端に、血相を変えたフレイムたちが一斉に立ち上がった様子が映る。驚きでパニックを起こした馬が走り出したのだと察した瞬間、景色が流体のように溶けて左右に流れていった。

ありがとうございました。

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