表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
408/461

22.天界の馬

お読みいただきありがとうございます。

『いいえラミ様。お兄様が狼神様を止めて下さっている最大の理由は、アマーリエが私に付いてくれているからですよ。この件においては、アマーリエも私に味方してくれる数少ない例外ですから』


 フルードの優しい双眸が、フレイムとアマーリエを交互に見た。


『アマーリエ。狼神様を引き止めて下さっているあのお兄様は、もうあなたのことが第一なのです。私のこともとても大事にして下さいますが、本当にいざとなった時に最優先するのはアマーリエです。それは覚えておくと良いでしょう』


 そして、薄い唇から小さく吐息を漏らす。


『いずれにしても、現在もガルーンの子の状況が変わっていないのは分かりました。私自身、先祖の行いのせいで神罰という火の粉が降りかかり、辛酸を舐めた身。ラミ様に出会うという奇跡を引き当てていなければ、地獄の果てを超えた底まで叩き墜とされていたでしょう』


 だからこそ、類似の境遇にあるあの子には幸せになって欲しいのだと、絞り出すような声で言った。


『親や先祖が犯した罪のとばっちりが子孫に飛んで来るなど、とんだ迷惑です。あの子には何とか幸せになって欲しい。例えあのガルーンの実子であっても。と言っても、具体的に動けるわけでもなし、ただ願うことしかできないのですが』

「私も見守ることしかできなくて……。歯がゆいですね」


 それでも、理由をこじ付けて強引に助けようとまではせず、あくまで見守るだけ、というところがフルードの性情を表している。ガルーンの子の幸福を心から願いつつも、それが叶わないから叶わないで仕方がないと割り切っている。

 エイリーには天恩を下賜したにも関わらず、ガルーンの子のことは静観に徹しているのは、エイリーの時に比べて狼神たちの目がかなり厳しいかららしい。


『もし可能ならば、今後も時々で良いのであの子の様子を確認してくれますか。もちろん、するしないも、する頻度も範囲も、全てアマーリエの一存で自由に決めて下さい』

「ええ、もちろん確認を継続します。何か変われば連絡します」


 この問題への対応に、正解や不正解はない。強いて言えば、フルード、ガルーンの子、ランドルフや狼神を含む神々、全員の言動に一理がある。ただ、それぞれの立場や考え方が異なるだけで。


(難しいわね)


 胸中で唸っていると、『本当にありがとう』と礼を言ったフルードが、ふっと目の前から消え、狼神の横に移動した。ラミルファも共に転移する。


『お待たせしました、ハルア様』

『ようやく戻って来てくれたか。そろそろ呼ぼうと思っていた』


 唇を尖らせた狼神が酒を飲み干した。フレイムが微笑む。


『話はできたか?』

『はい、お兄様。ありがとうございました』


 フレイムから酒瓶を受け取ったフルードが、狼神のグラスに酌をする。


『どうぞ』

『うむ』


 途端にご機嫌になった灰銀の神が、酒を傾けた。彼は酒豪なのかもしれない。アマーリエがそう思った時、美種の歓声が響いた。


「わぁ、大きなお馬さんだ……!」


 小さな指が神苑の一点を指差している。アマーリエがそちらに目を向けると、草花を照らす明るい光があった。輝く鱗粉を散らす体毛をなびかせ、四つ足の獣が二体の精霊に(くつわ)を引かれて歩いている。その瞳孔は縦に裂け、尾は二本あり、たてがみは金色に煌めいていた。


『風神様の馬ね』


 桃神が微笑んで言った。こちらの視線に気付いた精霊たちが馬を止めた。近くには石柱が立っており、上部に長大な剣が飾られている。精霊の一体がアマーリエたちの元に近付いて来ると、叩頭して説明する。


『こちらは宴の余興で使った天馬でして、先ほど風神様がお乗りになられました。今から厩舎に戻すところでございます』

「お兄ちゃん、乗ってみたい……!」

「無理だよ、風神様のお馬なんだろう」


 美種が大樹を見上げて興奮気味に言い、やんわりと宥められている。高芽がフルードたちに説明する。


「美種は乗馬が得意なんです。主家で馬を使って買い物や雑用に行かされることもあったので」

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ