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15.遺した物、受け取った者 前編

お読みいただきありがとうございます。

 コホンと咳払いしたフルードが、体勢を立て直して続ける。


『……とまあ、そんなスタートを切った大神官もここにいるので、あなたたちも気負う必要はありません』


 煌めく海面の双眸が美種に注がれた。幼子のクルクルとした漆黒の瞳が、吸い込まれるように先達を見つめる。


『小さな種も植えれば芽を出し、数年から十年も経てば木になります。焦らずともいずれ兄たちに追いつけますよ、美種。あなたの年齢は幾つですか?』

「な、7歳です……」

「美種は一番年下なのです。大樹とミンディが10歳、高牙が9歳で、アンディは8歳です。家名でお分かりだと思いますが、ミンディとアンディが姉弟、大樹と高芽と美種が兄妹です」


 神の眼は血縁関係も見通すので、姓がなくとも関係性は分かっていただろうが。年齢も見透かせるので、本当は聞く間でもなく分かっていたはずだ。会話を広げるためにあえて尋ねたのだろうと思いつつ、アマーリエは補足を入れる。


(仲良しの神様方が一緒に地上をご覧になって、この子たちを見初めたのよね)


 金剛神と水晶神は兄弟神、桜梅桃の女神たちも姉妹神だ。家族神なので、当然仲睦まじい。その辺りの事情は、事前にざっとフルードに話してある。


『年長でも10歳ですか。まだまだこれからの年ですね』


 感慨深げなフルードが、目の前の大皿から小さめのオードブルやデザートを取り分け、ミンディたちと大樹たちに差し出した。


『きちんと食べていますか? 今が成長真っ盛りの時期です、遠慮してはいけませんよ』

「あ、ありがとうございます……」

「いただきます……」


 反射的にといった様子で、ミンディと大樹が答えた。まさか天の神が手ずから給仕するとは思っていなかったのだろう、ちびっ子たちは呆然としている。


「フルード様、申し訳ありません。私が気を回すべきでしたのに」

『私の性分なので気にしないで下さい、アマーリエ。宴の会場でも遠目にこの子たちを見ていたのですが、緊張して何も喉を通っていないようでしたから』


 フルードが柔らかく笑うと、ミンディが背筋を伸ばして向き合った。一度唾を飲み込んでから口を開く。


「先代様……直答をお許しいただけますか?」

『どうぞ。この場では遠慮は不要です。幾らでも話して下さい』


 快諾をもらったミンディは大樹と視線を合わせ、小さく頷き合ってから頭を下げた。


「私とソル……アンディを助けていただいてありがとうございました」

「俺、いえ、僕たち兄妹はあなたのおかげで救われました」


 フルードはすぐには答えなかった。静謐な眼差しで二人を見ている。だが、纏う雰囲気はとても穏やかだ。アマーリエは控えめに口を挟む。


「事前に少しだけお話ししたかと思うのですが、この子たちはフルード様の遺産のおかげで光を掴みました」


 この場を借りてフルードと目通りの機会を設けたのは、これが理由だ。そこから先は、ミンディが自分の口で話し始めた。


「私とアンディの母は父の愛人でした。豪商だった父には正妻と嫡子の娘がいて、私たちは使用人扱いされていました。毎日悪口を言われて、叩かれたりご飯を抜かれることもありました。そんな時、病気で長くないことを悟った母が、フルード様の遺産で設立した福祉基金を申請してくれて、それが通ったんです」


 母親が愛人であり、夫と正式な婚姻関係を結んでいなかったことが幸いした。母子家庭に準ずると見なされ、助成基金の審査基準をクリアできたのだ。


「母は亡くなってしまいましたが、その直前に自分の口座に入って来た助成金をこっそり持たせてくれました。そのお金を使って、私と弟はあの家から逃げ出して帝都まで来ることができました。基金の運営元である帝都の公営団体に駆け込んで、保護対象として施設に入ることができたんです」

ありがとうございました。

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