10.火神一族は集合中
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「お義母様、お義姉様、お義兄様方」
火神とその近くに集っていたブレイズたちに、楚々とした所作で歩み寄ると、全員が相好を崩して迎えてくれた。真っ赤な髪をなびかせた火神が、直々にアマーリエの元に足を運んでくれる。
『楽しんでいるか、我が義娘』
「はい、神々の園をこの目で拝見し、心躍らせております」
内心で汗をダラダラ垂らしながら、にっこりと微笑んだアマーリエは、手に抱えていた品を差し出した。転移でフレイムの領域に駆け戻り、必死で荷物から引っ張り出して来た物だ。
「実はお渡ししたい物がありまして。こちらは献上品の一部でございます。後日お渡しする予定でしたが、金の装飾を多用したこの宴に合うと思い直し、憚りながら今持って来てしまいました」
『まあ、何かしら?』
『結構大きいな。それに柔らかい』
さっそく手を伸ばしたのはブレイズだ。フレイムのもう一柱の兄である燃神バーンが、布で包まれた品を手にして首を捻っている。ダークレッドの髪にブラッドオレンジの目を持つ灼神も、何だろうという顔で受け取った。火神に捧げ渡しながら、アマーリエは答えた。
「火神様及び御子様方おそろいの上衣でございます」
(衣を献上品にしていた私、よくやったわ!)
ジャストタイミングなチョイスに、アマーリエは過去の自分に親指を立てた。各最高神及び御子神には、そろいの宝飾品を献上品として持って来ているが、火神一族はちょうど衣だったのだ。
『おお、これは良いな』
『本当。炎の刺繍が生きているようだわ。あら、細かな装飾はそれぞれ違うのね』
『それぞれの性格とかに合わせてデザインを変えたみたいですよ』
サラッと言ったフレイムが、火神の手から衣を取って丁重に着せ掛けた。次いで、自分の分もさっと羽織る。それを見たブレイズとバーン、そしてイグニスも、受け取った衣に袖を通した。
『どうかしら?』
『似合ってますよ!』
義妹からの贈り物が嬉しいのか、ブレイズが子どものようにクルンと一回転し、バーンがにこにこ手を叩いている。この二名は、火神一族らしく豪胆で大らかな性格をしている。
『皆様はやっぱり赤がぴったりですね!』
アマーリエも無邪気な顔で拍手する。目を細めてそれを見ているイグニスに、フレイムが何でもない顔で話しかけた。
『あーそうだ、イグニス兄上』
赤みを帯びたオレンジの瞳を向ける兄に、ヒソヒソ声で囁く。
『ここに来る途中で、兄上の神衣を持った精霊と会いましたよ』
『ああ、中々来ないからどうしたのかとは思っていたのだ。例の、母上からいただいた物を持って来るよう指示していた』
『それなんですけど。ちょうどユフィーの方も衣を渡す気満々になっちまったんで……。本当にすみません、衣はもうあるからって言って、精霊は俺の方で帰しました。母上のあの神衣を見たら、ユフィーが気後れすると思ったんです』
『ああ、母上の衣は見事の一言だからな。それはタイミングが悪かったようだ』
何しろ愛する我が子へ与えた物だ。丹精込めて紡ぎ上げられた神威の緻密さと見事さは、神々の目から見ても溜め息しか出ない。
なお、それにすら匹敵する涅の上衣を、部屋着のカーディガンのごとき気安さで纏っていたのがフルードだ。地上では自覚がなかったようだが、天に還って神に戻り、神威がきちんと読めるようになると、自分がどれだけ凄い物を日常着にしていたのかに気付き、本気で腰を抜かしていた。
『勝手なことをして申し訳ありません。この場はユフィーに譲ってやって、母上からの神衣は次の機会にでもゆっくり見せてあげてくれませんか』
両手を合わせて頼むと、兄神は納得したように頷いた。ヒラリと袖を翻して言う。
『分かった、そうしよう。この衣も悪くない……いや、中々良いではないか。皆でそろいというのも気に入った』
母神たちを眺めてご機嫌でのたまう姿に、『ありがとーございます』といつもの調子で礼をしたフレイムは、アマーリエにしか見えない角度でガッツポーズをした。
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