6.歓迎の宴
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「まぁ、すごいわ!」
聖威師たちを歓迎する大饗は、天界の神々の共有領域を惜しみなく使って開かれた。歓待を受ける側であるアマーリエたちは、まず最高神に拝謁し祝杯を傾けた。後は各自任意で見て回って良いとのお達しだったため、アマーリエはフレイムにくっ付いて広大な会場をウロウロしている。
「ねえフレイム。あの天花、すごく綺麗よ。花びらの色がくるくる変わるのね」
広大な共有領域は隅々まで美麗な装飾が施され、所狭しと美酒佳肴が並べられ、あちこちで様々な催しが行われている。神々がひしめき合う場で迷子にならないよう、ドレスアップしたアマーリエはしっかりフレイムの腕に自身の腕を絡めていた。
『天彩花な。あれで染めた布は、何色にも色が変わるんだぜ。硝子とかの着色に使えば、目まぐるしく変色するアクセサリーができる』
「素敵ね。……あら、あの鉢植えの木は? 宝石の実が成っているのかしら。とっても綺麗だわ。特にほら、あの青白い実。小ぶりだけれど、一番キラキラ輝いているわ」
『へえ、義妹ちゃんはお目が高いね』
(きゃっ!?)
フレイムとは逆の方から飛んで来た返しに、心臓がひっくり返る。いつの間にか、気弱そうな糸目の青年が側に佇んでいた。
『これは義兄上』
「お義兄様、ご機嫌麗しく」
意外そうに瞬きしたフレイムを横目に、アマーリエは急いで礼をした。
『義兄上はご欠席かと思ってましたよ。天珠の世話がどうとかで』
『そのつもりだったけど、一時昇天の挨拶で義妹ちゃんたちを見たら、もう少しお喋りしたくなったんだ。それに、少しくらい顔を出さないとブレイズにお尻を叩かれるし、引き籠り仲間だった泡神様もちゃんと参加しているしね』
大饗の出席は任意で、入退出も自由だという。ルファリオンが細く閉じた目を向けた先では、リーリアを伴ったフロースが笑顔で宴を楽しんでいる。
『変わったね、あの子』
優しさを帯びた口調で紡がれた言葉に、フレイムも同意した。
『ですね。愛し子を得る前のアイツなら、絶対参加なんかしてませんよ』
『そうだね、良いことだ』
柔らかな笑みで頷き、ルファリオンはアマーリエに向き直った。
『それで、義妹ちゃん。あの鉢は、この宴のために俺が手配したんだ。あれは俺が育てた天珠だよ』
「宝石ではなくて天珠だったのですか。お義兄様が手塩にかけられた逸品だから、あれほど立派なのですね」
心からの賛辞を述べるアマーリエ。お世辞ではない。神相手におべっかを使っても、見透かされるのだから意味がない。ルファリオンが薄く目を開き、ここぞとばかりに饒舌になった。
『そう言ってくれて嬉しいよ。天珠は大きければ良いという物ではなくて、形状や色ツヤ、重さなんかでも価値が変わるんだ。育てる期間もまちまちで、一年足らずで収穫できる場合もあれば数万年以上を経ることもあって、今ひとつの実しか採れなかくても少し栽培方法を工夫したら見事な物が――』
『ルファ、話し始めたらキリがないでしょう。続きは私が聞くから』
やって来たブレイズが、勢い込んで喋りまくる夫の袖を引いた。
『ごめんなさいねアマーリエ、ルファは天珠のことになると止まらないのよ。気にしなくて良いから、もっと会場を見て来てちょうだい。フレイム、案内してあげて』
『分かりました、姉上』
これ幸いと首肯したフレイムが、アマーリエの手を引いてそそくさと場所を移動する。一礼したアマーリエは素直に付いて行き、宴の喧騒から少し離れた物陰で立ち止まる。振り向くと、ルファリオンは妻相手に意気揚々と続きを話しているようだった。
『ふぅ、姉上のおかげで助かったぜ。義兄上は天珠の話題になるといつまででも話してるんだ』
「本当に好きなものの話題は尽きないものね。私もフレイムのことならずっと話せるわよ」
何気なく言った言葉に、山吹色の目がキランと光った。
『おっ、嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。俺だってお前の話ならいくらでも……』
(あっ、しまった。スイッチを入れてしまったわ)
ルファリオンの次はフレイムかと肩を竦めた時。
『きゃあ!』
何かがぶつかる音と小さな悲鳴が響いた。水音と破砕音も。
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