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55.最優先する者は

お読みいただきありがとうございます。

 今度こそ、アマーリエとリーリアは絶句した。寵を授かってから、当たり前のように側に寄り添ってくれていた主神。彼らがいなくなってしまう。


「そんな、フレイムッ……」


 行かないで、という声が喉から飛び出しかかったが、寸前で飲み込んだ。聖威師は地上に、主神は天に在る。それが本来の状態なのだ。他の聖威師たちも主神とは天地に分かれて暮らしている。フレイムとフロースは、あくまで愛し子を得た祝いとして、特例で期間限定の降臨を認められていたに過ぎない。


「…………そうなの。分かったわ」


 それだけを絞り出したアマーリエを気遣わしげに見たフルードだが、これ以上話している時間はない。佳良たちは既に神官府内に散って対応に当たってくれている。


「ランド……フェル。アリア。来たる次代の牽引をお願いします。あなたたちなら大丈夫。私とローナの子なのですから」


 そう言って子どもたちの頭を撫でたフルードは、最後にアシュトンとアリステルを見て頷いた。そして三神に低頭し、外套を翻して部屋を出る。決して振り返らずに。


「私たちは先に行く。気配を辿れるようにしておくから、アマーリエとリーリアは、主神様にご挨拶をしてから合流しなさい」


 アシュトンが言い、やはり神々に辞去を述べると、ランドルフとルルアージュを伴って退室した。アリステルもそれに続く。

 それを見送り、ラミルファがふわりと浮き上がった。抑えていた神威を解き放つ。


『地上での生活は悪くはなかったよ。高貴なこの僕にはみすぼらしい物ばかりだったが、たまには清貧(せいひん)とやらを体験するのも一興だった』


 相変わらず憎たらしい口調で(うそぶ)き、ふと眦を下げる。幾度か見た、とても優しい表情だ。


『それから――君たちと過ごした時間はそれなりに楽しかった。……また会おう』


 虚空に浮いた姿がかき消える。拍子抜けするほどあっさりとした帰還だった。神に対する礼をして見送ったアマーリエとリーリアは、静かになった部屋の中で、己の主神と向き合った。その瞬間、アマーリエの意識は最愛の神のことで占められる。


「フレイム、寂しくなったら交信しても良い? 時々は勧請もしたいわ」

「当たり前だろ。寂しくなくても毎日して良いんだぜ。俺の方も声を下ろすし、単発短時間ならまた降臨できるんだしな。ラモスとディモスにもよろしく言っといてくれ。ちゃんと挨拶できなくてすまん、また声を下ろすからってな」


 引き締まった腕がアマーリエを抱きしめる。この神が暗闇の中にいた自分を照らし、希望の篝火の下へ連れ出してくれた。幾多の夜を共にした熱は、彼が遠い天へ還った後でもアマーリエの魂を温め続けるだろう。


「分かったわ。ねえ、離れていても、喚んだら来てくれるのよね?」

「前も言ったろ。お前の声の下になら、何次元隔てた場所でも飛んで行く」

「約束よ」

「ああ、必ず守る。俺の最優先はお前だ。母神でも姉神でもセインでもなく、お前なんだよユフィー」


 フレイムが顔を近付けた。何をしようとしているのか悟ったアマーリエは、目を閉じる。同室にいるフロースとリーリアのことは頭から消えていたが、それは向こうも同じだろう。互いの主神と愛し子しか視界に入っていない。


 頰に手が添えられ、優しく上向かされる。そっと重なり合う唇と唇。外から差し込む陽光が、木々に残る雨粒を反射して煌めいている。


「ん……」

(フレイム……愛しているわ)


 互いの舌が絡まり合う濃厚なキスは、甘さの中に微かなほろ苦さを残して自分たちを結び付けた。

ありがとうございました。

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