表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/454

37.神の正体

お読みいただきありがとうございます。

 アマーリエはギクリと身を硬くし、無意識のうちにフレイムの手を握っていた。


「……この色は……!」


 力強く手を握り返してくれるフレイムの呟きを聞き流していると、少年神と、付き従う神々が降り立った。


「ルファ様!」


 ミリエーナが目を輝かせて駆け寄った。


「どうしたんですか? 今日は後祭ですよ。天の神は参加しないはずなのに」

『僕のレフィーにどうしても会いたくて、我慢できずに来てしまったのだよ』

「きゃあ、嬉しい!」


 微笑む少年神と、はしゃぐミリエーナ。感涙にむせぶダライとネイーシャ。何故か固い顔をしている聖威師たち。(かしこま)る神官と王族、官僚たち。そして、恐慌状態に陥りそうな自身を必死に抑えるアマーリエ。


 皆が三者三様の反応を見せる中、大声を上げたのはフレイムだった。


「あああぁぁやっぱりか! そんな姿で何やってんだお前ええぇ!!」


 同時に、その姿がアマーリエ以外にも視認できるようになった。一瞬の沈黙の後、神官たちが目を剥いて飛び上がる。


「な、何だお前は!?」

「誰なの!?」


 アマーリエは血の気が引く思いでフレイムを見上げた。


(ちょっと……フレイムったら何をしているのよ)

「静かに」


 一声で皆を鎮めたフルードが、フレイムを見た。

 碧と山吹。二色の双眸が絡み合う。


「…………」

「…………」


 一瞬で二人の間に何らかの意思疎通があったように見え、アマーリエは首を傾げた。

 少しの間を置き、フルードがふと微笑み、フレイムに向かって頭を下げた。


()()()()()。恐れながら――あなた様から天の気を感じます。いずれかの神が遣わした神使にございますか」

()()()()()()()()()。まぁそんなところだ」

「左様でございますか。……火炎霊具の一件で、アマーリエには天に属する存在が付いているだろうとは思っておりました」


 中盤以降は独り言のように呟いたフルードの言葉に、アマーリエは内心で肩をすぼめる。


(やっぱり……。聖威師たちには気付かれていると思っていたわ)


 火炎霊具が爆発した際、炎は明らかに不自然に――操作された動きでアマーリエだけを綺麗に避けた。暴走している二等の霊具を外から遠隔で操ることは、高位の霊威師でも難しい。神格を持つ存在か、神使であれば可能だろうが。


「アマーリエの気はとても美しい。こたびの神使選定のために降臨したいずれかの使役が、彼女に接近あるいは接触し、神使候補として目をかけているのではないかと推測していましたが、まさか……」


 終盤はトーンを落とし、独り言のように呟くフルード。だが、フレイムがそれを遮った。


「今は俺のことよりこっちだ。……おいお前、ここで何してんだよ。何だその姿は」


 台詞の中盤以降でジロリと睨まれた少年神が、クスリと笑う。フレイムがアマーリエと手を繋いているのを見たミリエーナが、気に食わないと言った顔をした。


「アンタこそいきなり何なのよ。ルファ様に対して無礼よ。どこの神の使いか知らないけど、ルファ様は高位神よ。運命の神なのよ」


 それを肯定するように、少年神の後ろに控えていた壮年の神が前に出て頷いた。


『その通り。このお方は運命の神ルファリオン様である』


 神官たちが息を呑み、ざわめく。ミリエーナは鼻高々で胸を張った。


「それは……」


 何かを言いかけようとしたフルードだが、『聖威師たちは少し黙って見ていなさい』という少年神の一声で、他の聖威師と共に動きを止める。

 そして、フレイムは動じない。じっとりとした目で壮年の神を睨み、アマーリエの方を向いた。


「おい、お前が間違ってるとか無能とか言ったのは、もしかしなくてもこのオッサン神なんじゃねえか」

(お、オッサン神……)


 内心で引きながらも、アマーリエは小さく頷いた。


「ええ、こちらの神様に言われたけれど……」

「あーあーあー、やっぱりな。なるほどなぁ。愛称がルファ。アマーリエの気が醜悪で間違いだらけ。妹の方が優れている。そういうことかよ」

「……そういうことって、どういうこと?」


 心からの疑問をぶつけた時、ハッと気が付いた。


「いえ、それよりいいの? 天の神々に会って――接触してしまっているけれど」

「心配すんな。神の方から勝手にやって来て会っちまった場合は、セーフ扱いなんだ。こっちから会いに行くとか、主祭の日みたいに勧請されて来ることが分かっていながらその場に行って会うのは駄目だけどな」


 今の場合はセーフなのだと告げたフレイムは、ニコニコと微笑む少年神に向かって皮肉げに笑う。


「よぉ、久しぶりだな。()()()()()。この前喧嘩して以来だったか」

『そうだな。こうして対面するのは数十年ぶりかな。でも、僕が一方的に君を見かけたことはあるよ。ほんの少し前だ。君が地上に降りて行くのを見かけた時、僕が目を付けていた()()を取られると思って、思わず狙い撃ちしてしまった。すまなかった』


 フレイムがカッと目を見開いた。


「――ってお前かよ俺を狙撃しやがったのは! マジでふざけんなよ!?」

『僕の生き餌がいる邸の方角に向かって降りて行くから、つい不安になってしまったのだよ』

「そんなもんただの偶然だよ! てかこんな自己中で身勝手な女なんか興味ねえよ、頼まれたって選ばねえわ!」


「「ちょ、ちょっと待って!」」


 奇しくも、アマーリエとミリエーナの声がピッタリと重なった。今まで一度もなかった姉妹らしい現象に驚きつつ、アマーリエはフレイムを見上げる。


「ねえ、説明してフ……」


 フレイム、と呼びそうになり、慌てて言葉を飲み込む。彼は今、己の素性を伏せて地上に来ている。迂闊(うかつ)に名を呼ばない方がいい。フレイムが焔神の御名だと知っている神官もいるかもしれないのだ。


「……説明して、一体どういうことなの?」


 ミリエーナも少年神に向かって聞いていた。


「ねえルファ様、この人は何を言ってるの? えっと……何だったかしら……ラミルファ? 違うわよね、あなたはルファリオン様でしょう?」

(ラミルファ……私も聞いたことがないわ)


 アマーリエはこっそりと斎場に視線を走らせた。多くの者が困惑顔で疑問符を飛ばしていたが、何名かの高位神官は妙に強張った面持ちで逃げ腰になっている。もしやラミルファという御名を持つ神を知っているのだろうか。

 答えたのは壮年の神だった。


『うむ。我が主は間違いなく運命神ルファリオン様であらせられる』


 それにホッとした表情を見せたミリエーナに、フレイムが告げた。


「おい、バカ妹」

「は……誰がバカですって!?」

「ああすまん、いつもの呼び方で言っちまった」

「いつもの呼び方!?」

「細かいことは気にすんな。で、だ。そのオッサンじゃなく、ルファ本人に答えてもらってみろよ。あなたは運命神ルファリオン様ですかって、ルファ自身に聞くんだ」

「え……」


 ミリエーナが瞬きし、アマーリエは思わず割り込んだ。


「あの従神が偽りを言っているということ? 昨日はご自身の神性に誓って、主神は運命の神ルファリオン様だと断言なさったのよ。神は偽りを述べることもあるけれど、自らの神性に誓ったことに関しては正しい内容を仰るはずよね」

「ああ、普通の神ならな」

「普通……?」


 少年神と壮年の神が笑っている。周囲の従神たちもだ。


 楽しそうに、(たの)しそうに、ニヤニヤと嘲笑(わら)って――(わら)っている。


 それは、どこか不気味な光景だった。

 反射的に足を引いたアマーリエに、山吹色の双眸が向けられる。


「このオッサン神はな、アマーリエ。嘘の神なんだよ」

「「うそ?」」


 再び、アマーリエとミリエーナの声が二重奏を奏でた。首肯したフレイムが続ける。


「そうだ。だからこのオッサンに関しては、自身の神性に誓った時も偽りを言う。嘘こそがこいつの神性なんだからな。――嘘を司る偽言(ぎげん)の神にして悪神(あくじん)の一柱。誤ったことしか言わない神。それがこいつの正体だ」

「偽言……悪神!?」


 アマーリエは声を上ずらせた。


 邪神や鬼神、妖神などを総称し、悪神という。悪しきものを司り、不幸と災厄をもたらす凶神である。その性格と気質は、非常に冷酷残忍かつ残虐非道。

 れっきとした神の一種であり、天に住む高貴にして超越的な存在であるが、その性質から神官の中では畏怖の対象となっていた。話題に取り上げられることが少ない分、一般的な神に比べると個々の御名も知られていない。


 そして、悪神にとっての神使や聖威師は、彼らの永久玩具として久遠に嬲られ続ける生き餌に等しい。

 通常の神が相手であれば、神使に選ばれることは比類なき誉れであり、愛し子として見初められることは至上の幸福である。

 しかし、悪神相手となれば事情がまるで違ってくる。悪神の神使や愛し子になるくらいならば、最下層の地獄に永久投獄となった方が遥かにマシであるほどの凄惨な扱いを受けるのだ。


 アマーリエは生唾を飲み込んだ。この場でフレイムが嘘を言う理由はない。本当だとするならば、悪神が我が主と仰ぐあの少年神は――。


「じゃあ……じゃあ、あのルファという神は?」

()()()()()()()。悪神の長、禍神(かしん)末御子(すえみこ)だ」

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ