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51.悪神兄弟は心の内を読ませない

お読みいただきありがとうございます。

『しかし、ディスがここまで聖威師に肩入れするとは意外だ。私も油断してしまった。なにせ、お前は昇天賛成派であるゆえ。なぁ?』


 今度は念話ではなく肉声を用い、禍神が次男に話しかけた。疫神は強硬派なので、まさかこのような形で一杯食わせるつもりとは思わなかったらしい。


『初対面時に聖威師たちの性格の認識を誤り、傷付けそうになった負い目もあるのだろう。だが、それにしても――もはや尊重派そのものだ』


 くっくっと含み笑いを漏らす禍神。戦神と闘神が遠慮がちに声を上げる。


『あのぅ、ディス様。ちょっと気になってるんですけど』

『あなた様はもしや――』


 だが、その声を最後まで聞くことなく、疫神はアマーリエを見た。そして、ふと不思議な暖かさを宿す眼差しになって言う。


『雛は屈託無い笑顔を浮かべている姿が一番素敵です。……そう、一番最初に見せてくれたものと同じ、本物の笑みを』

『うん? よく分からぬが、よほどアマーリエが気に入りなのだな』


 小首を傾げる禍神に、疫神は謎めいた微笑を纏って答えない。葬邪神が言葉を挟んだ。


『父上、そろそろお還りになられませんと。私もお供いたします。シュナも強硬派も、もう聖威師たちを襲うことはないでしょうから』

『ああ、そうだな。アレクとディスの特別降臨は終わりだ。ラミはまだ地上にいるのか? 一緒に還らぬか?』


 誘いを受けた末の邪神もまた、どこか透明な笑みを纏った。何かを察しているかのような、掴み所のない顔。


『今はまだ。ですが、もう間もなく還ることになるでしょう』

『そうか。ではその時を楽しみにしている』

(葬邪神様と疫神様はお還りになられてしまうのね)


 クラーラとロールとして、少しの間だが側にいてくれた。最初はどうなることかと思ったが、というかもう来ないでくれと願ったものだが……こうしていざ別れの時を迎えると、胸に空洞ができたような心地を覚える。


(葬邪神様は私の守護神だから、また来て下さるかしら?)


 だが、レシスの神罰が暴走でもしなければ、そんな機会も来ないかもしれない。そこまで考え、ハッとする。慌てて念話した先はフルードだ。


《フルード様、急に申し訳ありません。ふと思い付いたもので……あの、遊運命神様にレシスに与えた神罰を消していただくよう頼んでみませんか。そうすれば神官エイールとエイリーさんの今後も安泰になります》


 フルードにとってはかなり唐突な念話だろうが、さすがというべきか、すぐに落ち着いた返答が来た。


《そのつもりです。今日はバタバタしていたので切り出す余裕がありませんでしたが、近い内に交信あるいは勧請を行い、神罰の取り消しを請願しようと思っています》

《応じて下されば根本から解決しますね》


 大神官兄弟とアマーリエの内にある神罰は消してくれるのではないだろうか。だが、同胞に含まれないエイールとエイリーが捨て置かれないかという懸念はある。


(どうにか全員の神罰を消して下さいますように)


 胸中で祈っていると、戦神と闘神が禍神たちに続いた。


『よっし、じゃあ俺たちも還るかー。あ、天堂に寄って他の雛たちにも謝っていこう』

『そうだな。雛たちよ、本当に迷惑をかけたな』


 名残惜しげな視線を向ける戦闘神たちに倣い、葬邪神も眦を下げた。


『天堂にいる聖威師と神々には、念話で全ての話を通してある。この後で合流すれば良い』

「ありがとうございます。……行ってしまわれるのですね」

『お前たちが昇天すればまた会えるさ。いや、それまでにも用事ができれば(まみ)えることもあるだろう。何かあればいつでも連絡を寄越してくれ。すっ飛んで行くぞ』

『我も我も! 困る、悩む、辛い、苦しい、少しでもあったら、すぐ報せる』


 いつの間にか幼児の姿に戻った疫神が、禍神の肩にぴょんと乗っかりながら小さな手をブンブン振った。


『雛たち、助け求める。我、飛んで行く。原因全部ぶっ壊す。何なら世界ごと消し飛ばす。それで良し、綺麗に解決』


 怖すぎて迂闊に助けを求められない。思わず額を抑えるアマーリエだった。


『刹那の邂逅であったが、同じ場にいられることができて嬉しかった。天よりそなたらを見守っておるぞ』


 温かな声で告げ、禍神の姿が光に包まれる。葬邪神と疫神も同じく。戦神と闘神は天堂に行くのだろう、一足先に消えた。

 フレイムとラミルファが軽く頭を下げる。キラキラと輝く光の粒子を浴びながら、アマーリエはフルードと共に膝を付き、神々を見送った。


(天堂に戻ったら、皆にお礼を言わなくては。遊運命神様はまだ残っていらっしゃるかしら。神罰取り消しの件も頼んでしまえれば良いのだけれど)


 そんなことを思いながら、ひとまず騒動がひと段落した安堵の方が大きく、ふぅと肩の力を抜いたのだった。

ありがとうございました。

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