48.最凶の双子は一触即発
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『何だ、来たのかアレク』
よく似た美貌の双子が向かい合う。混じり合う二対の漆黒。数拍後、ふいと視線を逸らした葬邪神が場を一巡し、怪我を負った者には回復がかけられていることを確認した。そして、再度片割れに目を向ける。
『……何だじゃない! お前、俺だけ通さんように専用の結界を張っていただろう! おかげで来るのが遅れてしまった』
『堅物のお前が来たら遊べんのだから、締め出すしかあるまいよ』
『された方は堪ったもんじゃないぞ! ――とにかくだ。それは最高神方が聖威師に下賜した物。正当な所有者に返せ』
『ほら、すぐこれだ。本当にウザいなぁお前は』
引き締まった腕で首筋をかいた疫神が、口角を上げて葬邪神を斜に睨め付ける。
『雛たちは神であろう。神は天にいる。これもまた、最高神を始めとする神々が決めた原則であるはずだ。我は本来あるべき状態に戻そうとしているだけだが?』
『だから、聖威師の場合は別途で特例の規則が定められていて――』
『そんなもん知らんなぁ。規則を遵守するか否か、何をどこまで守るかに関しては、各神の一存だ』
『お前は守る気がないのか?』
『アレクが遊んでくれるなら考えんこともない。我は退屈なのだ』
葬邪神に妖艶な流し目を向け、疫神は左手の甲を上げてゆるゆると手招きした。
『たっぷり遊んで満足すれば、つまらん規則も守ってやろうという気になるかもしれん』
『相変わらず聞き分けの悪い奴だ』
長兄の双眸が細まった。その奥に閃く凶悪な光。
『前と同じと思うなよ、ディス。お前の覚醒時は全く力を出せなかった。無力な聖威師たちを守りながら戦わねばならんと思っていたからだ。だが、今は違う。お前は聖威師を害さんと分かったからな』
『その点は約束しよう。我は雛たちを含めた身内に、取り返しの付かぬ傷を負わせることはない』
『同胞の安全が保証されているなら、俺の枷になる物は無い。雛たちは前と同様、地上も守って欲しいと願うだろうが……今回は我慢してもらおう。後で幾らでも復元すれば良い話だからな。……ご所望通り、久々に遊んでやろうか?』
獲物を見付けた肉食獣のごとく見開かれた疫神の双眸が、キラリと光る。
『いつものらりくらりとしているお前だ、すっかり勘も腕も錆び付いているのではないか?』
『錆びも鈍りもせんわ! 神格を解放した神に修練は必要ないことは分かっているだろう! ……その身で試してみるか?』
最後は一段低くなった声音。二神の肢体から凶暴な御稜威が迸り、至近距離で当てられたラミルファがこれ見よがしに苦悶の表情を浮かべた。
『っ…………』
だが、葬邪神と疫神は互いだけを見据えたままだ。フレイムと戦神、闘神も美貌を歪め、フルードとアマーリエがヘナヘナと座り込んだ。……若干動きが大げさだった気がしないでもないが。
『鍛え直してやろう、堅物兄貴』
『貴様こそ躾け直してやる、愚弟』
葬邪神から立ち上る神威が荊と化して彼の周囲をうねり、軽く掲げた手に集って長剣と化した。同時に、疫神の纏う御稜威が雷撃に変じ、鋭利な槍となって顕現する。
互いの獲物を眼前に構えれば、剣の刃と槍の穂先が交差し、ぶつかり合う力が奔流となって逆巻いた。激甚なプラズマが虚空に爆ぜる。
『痛い、痛いっ!』
神威の激突の波動を浴びた末の邪神が、今度は聞こえよがしに悲鳴を上げる。
「きゃ〜ラミルファ様、大丈夫ですか!? 何だかとってもお辛そうだわー!」
アマーリエは口元を両手で覆って眉を八の字にしながら、そこはかとなく棒読み感溢れる声で叫んだ。ラミルファは寸の間だけ、奥歯に物が挟まったような顔になったが、半瞬で元に戻す。
そんな周囲の様子には目もくれず、頑なに相手にのみ注意を向ける葬邪神と疫神が僅かに身を屈め、跳躍の姿勢を取った。双子神が激突する――寸前。
『止めよ』
厳かな制止と共に、両者の上方で涅の光が弾けた。
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