44.誤解は解けたが問題は続く
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戦神が勢い良くガバリと、闘神がゆったりと重々しく、それぞれ頭を下げる。
『雛、すまん! いやもう、本当にすまなすぎて身の置き所がないくらいだ』
『我らの思い違いにより、非常に申し訳ないことをしてしまった。深く詫びる』
「ご、ご理解いただけたならば良いのです。私たちを助けようという善意でなさったということは、強く感じておりました」
アマーリエも急いで礼を返した。彼らに悪気はなかったとはいえ、こちらの立場からすれば怒っても良いのかもしれない。だが、この二神は天の神であり、アマーリエより神格が上だ。しかも、大元の元凶たるルリエラとシュレッドは神官である。人間の霊威師の不手際に関しては主任神官の管轄とはいえ、神官府の頂点に立つ身である以上、神官側にも非があるのに相手だけを責めることはできない。
「こちらも、次期大神官かつ次代の神官府長として、心より謝罪申し上げます。一部の神官の行いが発端となり、このような事態に発展してしまいました」
主任の印章と国王の御璽を勝手に用い、神を都合よく使おうなど言語道断だ。
中央本府の主任神官と世界王は、神々の中でも特殊な位置付けにあり、彼らの奏上はよほどの内容でなければすぐに承認される。神官ならば周知の事実だ。ルリエラとシュレッドも知っていたはず。知った上で印を利用した。明らかに意図的な犯行だ。
「戦神様ならびに闘神様、そして遊運命神様にも申し訳が立ちません」
『人間の神官がやったことだ。雛たちの責に帰すことじゃないさ。……とはいえ、こういうことが起こったんだ。今後は主任や国王が直接奏上した物でない限り、内容を検める必要があるかもな』
『そうなると、天の規則を変えることになるのではないか。神と繋がる霊威師の筆頭である主任。天威師と同じ血統であり、地上の君主たる世界王。両者に対してはそれなりの扱いをする、という方針自体を見直すことになるだろう』
(それでは人間側に不利になってしまうかもしれないわ)
誰が奏上したものであれ、きちんと精査するようになる。この面だけ見れば、良い方に進んでいる。しかし悪い側面から見れば、神々の人間に対する心証が悪化したということでもあった。
主任と国王の印が押された奏上をすぐに受け付けるというのは、言い換えれば彼らや人間への信頼の裏返しだ。両者ならば信用して良いだろう、配下の人間たちもきちんと下調べや事前審査をしているだろうと、信じているから受け入れる。人間嫌いの神も、この点に関しては人を認めており、疑義を差し挟むことは無かった。
だがそれを止め、逐一内容を確認するように変えるということは、お前たちはもう信じられぬとそっぽを向かれたも同然だ。
(まずいわ。ただでさえ人間を良く思っていない神々も多いというのに)
『今回に関しては天側にも落ち度があったであろう。大精霊だ。マーカスが事前に注意を促していたにも関わらず、神官どもにみすみす出し抜かれた。主任と大精霊。これらの手抜かりであるぞ』
疫神が、五色に輝くペンを右手でクルクルと回しながら言った。
『後はシュナがどう出るかだ。今は、雛たちに申し訳ないことをした、謝らねばということに意識の大半を割いている。だが、落ち着けば神官どもへの怒りが湧くはずだ。神罰牢に堕とすと言い出すやもしれんなぁ』
その可能性は高いと言えた。何しろ、自身を不快にさせたレシスの先祖に対し、微塵の容赦も慈悲もない神罰を刻み込んだ神だ。
『魔神様が神命を出し、実行犯たる神官どもを処すよう申し付けてはいたが、それでは収まらんであろうなぁ。主任と大精霊も火の粉は避けられまい』
(そういえば、紺月帝様も国王にご注意なさるおつもりのようだったわ。主任と国王と大精霊がそろって責を問われるなんて前代未聞ではないかしら――って……)
独白の途中で疫神が持つ物に気付き、アマーリエはギョッと目を剥いた。
「疫神様!? そ、それは何ですか!? 御手にお持ちの……」
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