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42.暴れ神は退屈している

お読みいただきありがとうございます。

 無造作に槍の下へと潜り込ませた湾刀が、ひょいと跳ね上げられた。いっとう高い音を響かせ、穂先が上方へ逸らされる。疫神はそのまま槍の柄を伝わせながらサーベルの刀身を滑らせ、一直線に闘神の喉元を目がけて突き入れた。


『っ』


 闘神が後方へ跳躍して避けるが、さらに足を踏み込ませると、戦神の剣を受けながら肢体を半回転させ、サーベルを円状に薙いだ。剣身(けんしん)越しに斬撃を食らった戦神が弾き飛ばされ、闘神を巻き込んで横ざまに壁へと叩き付けられた。

 折り重なるように倒れた二神の元に、疫神がゆったりと歩み寄る。あっさり投げ捨てられたサーベルが床に転がった。


『もう飽いた。我はつまらん。レイ、リオ、アイ、セラ、焔神様……皆、選ばれし神であり生来の荒神であるに、穏やかすぎるのだ。荒神なれど、性格が致命的に戦闘に向いておらん。お前たちに比べればまだマシなのもいるが、我の基準ではそれでも話にならん』


 そろいもそろって面白くないのぅ、と唇を尖らせる疫神。その漆黒の双眸に、不意に悔恨が宿る。


『ラミに至っては問題外だ。……あの子には本当に可哀想なことをしてしまった。あの子のことを知っておれば、覚醒時に荒神を基準にした振る舞いなどせなんだものを』


 独りごちるように漏らす姿を、彼の背後にいるアマーリエは呆然と見つめていた。圧倒的な気迫と御稜威に当てられ、とうに腰が抜けてしまっている。だが、恐怖は抱かない。魂を震わせるのは、ただただ純粋な感嘆と畏怖、そして崇敬の念だった。


(疫神様……すごいわ)


 戦闘を司る神々を一身に相手取り、余裕綽々の体で遊ぶ暴れ神は、あまりにも美しかった。聖威師の目では追いきれない部分も多々あったものの、ところどころ垣間見えた動きと所作はまさしく完全と洗練の極致。雄大な自然の絶景を見た時よりも遥かに大きな感動と躍動感が心を揺さぶる。


『遊びは終わりだ。お前たちはもっと相手の話を聞かねばならん』


 ここにフレイムがいれば、アンタがそれを言う資格はないでしょ、と全力でツッコんでいただろうが、あいにく彼は不在だ。


『そら、回復してやろう』


 疫神が長身を屈め、戦神と闘神に手をかざした。暗緑色の輝きがふわりと二神を包む。悪神が纏う鈍黒ではない。高位神としての疫神の色だ。


『回復くらい自分でできますよ』

『お気遣い痛み入ります』


 むくれたように言う戦神と、淡々と謝辞を述べる闘神が身を起こした。転がっていたサーベルと剣、槍が煙と化して消える。


『あーあ、やっぱりディス様はお強いなあ。俺たち二柱ごときじゃてんで相手にならない』

『当然だろう、暴れ神様だぞ。神威の苛烈さと気性の荒さが違いすぎる。アレク様とハルア様以外の荒神が総出で打ちかかろうとも、鼻歌を歌って余所見しながら全員を瞬殺できるだろう。あの()()()()ですら、ディス様の前では手も足も出ないではないか』


 床に胡座をかいた戦神が天を仰ぎ、立膝を付いた闘神も頷く。共に戦意が綺麗さっぱり喪失していた。その体は未だ暗緑の神威に包み込まれている。


(フレディ? ……ってどなた?)


 内心で首を捻るアマーリエだが、言葉を挟める雰囲気ではないので黙っていた。もしや、先ほど疫神が言っていた『まだマシなの』が、そのフレディとやらなのだろうか。その間にも、神々の会話は続く。


『あのー、こんなに念入りに癒して下さらなくても大丈夫ですよ』

『そう言うな。我の神威を何発か入れた。我からすれば攻撃した内にも入らんが、お前たちにとってはそうではないだろう。少なくない損傷となっているはずだ』


 神に痛覚はなく、基本的にはダメージを負うこともない。仮に負ったとしても、瞬時に完治する。だが、同格以上の神の神威で傷付けられた場合に関しては、痛みを感じたり治りが遅くなることもあるのだ。


『あれで攻撃したおつもりですらないとは。あなたの神威の強烈さと凄絶さは、やはり一線を画しておられる』

『我からすれば、お前たちの気が慎ましすぎるのだ。天界の神で我の相手ができるのは、アレクとハルアくらいか。だが、アレクは真面目すぎてウザいし、ハルアは滅多に遊んでくれん上に怒ると怖い』


 ああつまらん、と繰り返した疫神が、つとアマーリエを見て苦笑した。


『繰り返すが、お前たちはもっと雛たちの話を聞くべきだ。一方的な思い込みは良くない。実を言えば、我もそれで大失敗してしまった。お前たちには、この我を反面教師にさせてやろう。有り難く思え』


 そして、再び戦闘神に視線を移す。その瞳に宿る慈愛と包容の光は、葬邪神のそれと酷似していた。葬邪神と同時に顕現した双子であり、実質的に長子に等しいと称される疫神もまた、神々の兄なのだ。


『雛たちの声をよく聞くのだ。神ならば分かるであろう、その口から発せられる言葉が真実か否か。――我らが同胞アマーリエに問う。お前は天へ還りたいのか?』

ありがとうございました。

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