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34.過ぎた盲信は狂気へ変わる

お読みいただきありがとうございます。

『その時の話をするルリエラは饒舌で、相当主任神官に熱を上げているのだと分かりました。それだけならばまだ良いのですが、酒の席で酔いが回った際、彼女はこう呟いたのです』



 ――聖威師様さえ昇天なされてしまえば、主任様が真に神官府のトップにお立ちになられるのに。聖威師様さえおいでにならなければ……



『その時の彼女の目はどこか虚ろでした。酒が入ったせいだと思ったのですが、それだけでは説明ができない狂気のようなものを感じました』


 普段は内に隠している欲望と切望が、酒の勢いでチラリと露出してしまったかのように。


『次はシュレッドです。彼の場合、純粋に天威師と聖威師を崇めすぎるあまり、貴き存在は本来の居場所たる天へ還るべしという思想を持っていたようです。それが垣間見えたのは、同じ酒の席での出来事でした。彼も酩酊しており、色々と口を滑らせたのです』



 ――あの貴き方々は、本当は天へ行きたいと思っておられるに違いありません。しかし、慈悲深く崇高な使命感で留まっておられるのです。私はそう思っております。ええ。きっとそうです。そうに違いない



 呂律の回らない口調でそう繰り返していたそうだ。


 ルリエラとシュレッドが飲みすぎて正体をなくしかかっていると気付いたマーカスは、これはいかんと二人を涼しい別室に移動させた。

 霊威を使って酔いを覚まさせようと試みるも、へべれけになった二人は自身の霊威で防いでしまうため、上手くいかなかった。仕方なく地道に介抱していたところ、(くだん)の言葉を聞いてしまったのだという。


『滅多なことを言ってはならないと、私は二人を注意しましたが、聞いていない様子でした。その後、別の神使内定者と店員が様子を見に来たので、一度部屋を出て立ち話をしました。相当酔いが回っているようなので、二人の家族に連絡してくれるよう伝えてから戻ると、ルリエラとシュレッドが意気投合していました』


 聖威師様は天にお還りになるのが最良なのだと、二人で盛り上がっていたという。それをどうにか落ち着かせ、外では決して今の話をしないようにと言い聞かせた上で、迎えに来たそれぞれの家族に引き渡した。


『その後、ルリエラとシュレッドがよく一緒にいる光景を見かけるようになりました。二人で何かを熱心に話しているのです。胸騒ぎがしたので、帝国の主任と大精霊に一連の出来事を伝え、留意をお願いしました』


 とはいえ、主任も大精霊も多忙な身だ。取り急ぎルリエラとシュレッドの内面を視たところ、天へ叛逆する意思があるわけではなかったため、緊急ではないとして折を見て話をすることになった。


『遊運命神様のお話をお聞きし、真っ先にあの二人のことが浮かびました。まさかと思いお尋ねしたのですが、やはり……』

『ルリエラとシュレッドとかいう神官たちが、主任と国王を(そそのか)して押印させたのか? それとも神官たちの独断か?』


 聞いたのは葬邪神だ。言うまでもなく、主任神官の印章も国王の御璽も、強力な結界の中で管理されている。


『推測ですが、独断であると思われます。主任と国王がそろって(たぶら)かされるとは考えにくいですので』


 主任も国王も不完全な人間だ。上手くやれば騙すことも可能かもしれない。だが、二人のどちらもが言いくるめられる可能性は低い。


『それに、彼らは神々の怒りのことも知っております。聖威師を昇天させることは人間にとって自爆行為だと分かっているのに、承認するはずがありません』


 主任神官と帝国王は、人間が神々を怒らせ、今もなお神罰牢行きの危機にある現状を知っている。原則、人間には伝えられない情報だが、例外として中央本府の主任と副主任、帝国と皇国の国王及び王族は知らされているのだ。その点でも、彼らは人間の中で特異な位置付けにある。

ありがとうございました。

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