30.四大高位神の顕現
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ルファリオンが一際強く竪琴を爪弾いた。
『運命よ、我に従え』
竪琴が濃淡二色の紫を絡め合わせながら変形し、弓型に転じた。矢の形に具象化させた神威をつがえ、行く末を指し示すがごとく構えると、大気を無数の流星が駆け抜けた。滅多に見せることのない、ルファリオンの攻撃体勢だ。
運命の一部である縁を司るフルードも、このやり方を教えてもらっている。そのため、自身の聖威で弓を創り出し、縁の紐を繋げた矢を放って縁結びを行うことがある。
『天珠にしか興味の無かったお前がそこまでするとは』
遊運命神が、薄いクマができている双眸を軽く見開いた。
『義妹ちゃんと義弟君のためだよ』
ルファリオンにとって、フレイムの妻であるアマーリエと弟のフルードは、自分の義弟妹でもあるのだ。
『ならば仕方なしか。我が麾下に集え、運命』
遊運命神の号令と共に、神盤から筒状の神威が噴き出し、大砲の形を取った。四角い盤面はそのまま砲台と化す。未来に照準を合わせるように砲身の先端が斜め上を向き 、夥しい光弾が虚空に舞い踊る。
両者が一歩も譲らぬまま、流星と光弾の群れが激突しようとした時。割れた空間から四色の神威が溢れた。赤、青、黄、緑。
『父上』
『母上様!』
フロースと嵐神が顔を明るくした。運命の御稜威が輝く様を陶然と見ていた神々が目を瞠り、次々に膝を付く。二柱の運命神も神威を収め、礼を取った。葬邪神とブレイズが胸に手を当て、優雅に叩頭した。
『これは四大高位神様』
『ようこそお越し下さいました』
青い髪と瞳を持つ水神が朗らかに笑い、緑の髪目の風神が場を見回した。
『皆、立ちなさい。何だか大騒ぎになっているみたいだね』
『騒がしい気配がしたから来てみたのよ』
神々が身を起こす中、赤い姿の火神が小首を傾げ、黄色の容姿をした地神も瞬きする。
『これは一体何事か』
『ルファとシュナは何故一触即発になっておるのだ?』
答えたのは運命神たちではなく、一柱の神だった。
『四大高位神様に申し上げます。今日こそは聖威師たちを天に……ん?』
その声が途中で尻すぼみになり、止まる。気付いたのだ。アマーリエたちがいなくなっていることに。
『……数が少なくなっていないか?』
『若い子たちがいないわよ』
『どこに行った?』
にわかに場が色めき立つ。数多の神威が昂ぶり、滅茶苦茶になった天堂を蹂躙せんと蠢いた。何割かは今にも天堂を飛び出しそうだ。
『四大高位神様、お下がりを』
葬邪神が素早く、至尊たる四神の前に出る。同時に当波が動いた。天堂を出て行こうとする神々に取り縋るようにして、決死の形相で訴える。
「お待ち下さい。私が、私が還りますから! あの子たちはまだ池上にいさせてやって下さい! 本人たちが誠心誠意そう望んでいるのです」
「私も還ります。もう十分すぎるほど人として生きさせていただきました。ですが若い子たちはお許しを。どうか当人たちの意思を無下にしないでやって下さい!」
佳良も悲痛な声で援護射撃をした。遊運命神が眠たげだった目を丸くし、形良い唇をポカンと開く。オーネリアとライナスが滔々と言葉を紡いだ。
「元が人間である聖威師は、地上の世界こそが生まれ故郷。どうしても守りたいのです」
「自らが生まれ落ち、育った唯一無二の世界への情は容易には消せぬものです」
天に還れば、終わりなき時を異郷たる神々の世界で在ることになる。同胞の愛情に包まれ、永遠の星霜を在れば、天界にもすぐに慣れるだろう。だが、それでも、聖威師たちの生まれ育った場所は地上なのだ。
「何卒お願い申し上げます」
強硬派の神々にしがみ付き、懸命に哀訴する先達の聖威師たち。神々がたじろいだように勢いを緩め、どうすると言いたげに顔を見合わせた。
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