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25.運命神VS運命神

お読みいただきありがとうございます。

『ほぅ、中々やるな』


 不敵な笑みを浮かべた遊運命神が、御稜威の出力を強めた。神紋が眩く発光し、盤上がヴヴンと鳴動する。光の駒が盤外の端に追いやられていき、アマーリエたちの体が再び朧になり始めた。嵐神が眉を顰めて呻く。


『っ……これ以上こちらの出力を上げたら、神威同士のぶつかり合いで聖威師を潰してしまう』

『やはりあの盤自体を壊さなくては駄目だよ!』


 上空で黒剣を操っているラミルファが言う。彼が対峙する闘神は、成人の青年姿で獲物は方天戟。武器のリーチも上背も勝っている相手だが、末の邪神は対等に渡り合っている。体も獲物も神威で自由自在に変化、補整できる神同士の勝負において、体格やリーチの差は意味がない。優劣や勝敗の決め手となるのはあくまで神格だ。


「お願いします、お力を貸して下さい! あなたの巨体で狼神ダッシュして盤面に体当たりしたら破壊できるでしょう!?」


 体が透けかかっているフルードが、決死の形相で主神に頼み込んでいる。


(ろ、狼神ダッシュ……)


 ネーミングセンスにズッコケそうになるアマーリエ。だが、全員必死なので誰もツッコまない。


『運命神様とて盤に結界を張っているだろうし、例え壊したとしてもすぐ復元されてしまうだろう。それにだ、私は元々強硬派なのだよ、セイン。お前を力でねじ伏せることはしたくないゆえ、大人しくしておるがな。心情的には運命神様に同意している』


 狼神が静かに返した時。魅惑の旋律が場を圧倒した。


『へえ、運命神に同意か。ならハルアは聖威師たちの味方ってことだね。運命の神である俺がそうなんだから』


 掴み所のない美声と共に、二種類の紫が螺旋を描いて虚空を彩り、ひょろりとした影が舞い降りる。金と茶の中間の髪に、日向ぼっこをしている猫のように細まった糸目。細身の腕に抱えているのは巨大な竪琴(ハープ)


『ルファ!』


 ケラケラ笑いながらジタバタする疫神を必死で抑えていたブレイズが顔を上げた。葬邪神もだ。


『どうしてあなたがここに? 天珠の収穫が近いから領域に引き籠っていたはず……』

『ルファ、お前はどの派にも属さない中立じゃなかったのか』

『そうだけど、アマーリエ(義妹ちゃん)フルード(義弟君)のためにちょっと頑張ることにしたよ』


 細めていた目をうっすら開き、運命を司る最古の神が笑う。濃紫と薄紫、神威と同じ二色のオッドアイがチラリと覗いた。なお、時空神も強大な神威を覆い隠すために目を閉じているが、ルファリオンの場合は単に面倒くさくて開けていないだけだ。


『我は運命を奏で操る者、運命神ルファリオン。聖威師たちを天に還させはしない』


 えもいわれぬ天の調べが満ち満ち、今にも外へと落とされようとしていた光の駒が盤上の中心へ戻っていく。透明になっていたアマーリエたちの体が色を取り戻す。遊運命神が目を眇めた。


『お前まで邪魔をするでない、ルファ。――我は運命で遊び戯れる者、運命神シュナイツァー。雛たちは天へと還す』


 同じものを司る神の判断が真っ二つに割れた。運命を掌中に収める神が、己の御稜威を込めて放つ言の葉は、確定した定めとして現実になる。高らかに歌う奇跡の天譜と、駒が駆け巡る神秘の盤がせめぎ合う。同格の神威が一歩も引かずにぶつかり合った。


 二つの御稜威が共鳴しながらしのぎを削り、二神の気が粒子となってキラキラと瞬きながら宙を舞う。その様は、天の川が地上に落ちて来たかのごとき美麗さだった。神々が動きを止め、思わず魅入られてしまうほどに。おぉ〜、と無邪気な歓声を上げ、パチパチと小さな手を叩いているのは疫神だ。


『ルファとシュナの力が競り合ってる』

『運命神同士の共演……いや、競演が見られるとはな』


 呟いた戦神と闘神も見惚れたように呟き、気を鎮めて身を引いた。手が空いたフレイムとラミルファが、自身の最愛の元に飛んでいく。


『ユフィー!』

『セイン』


 二神が合流した時だった。時空神が念話を放つ。


《このまま聞きなさい。雛たちや主神たちにだけ届く念話をしている。雛たちよ、ここから逃げた方が良い。今なら神々の気が逸れているから、気取られずに転移させてやれる。天堂から出なさい》


 当真の主神である孔雀神と、恵奈の主神である雪神が同意する。


《そうじゃのう、ここは危険じゃ。この部屋から離れよ。わらわの神威でそなたらの気配を消してやろう。こっそりと出るのじゃ》

《焔神様と骸邪神様は、この子たちに付き添ってちょうだい。お二方が一番気が回るもの》


 フレイムが頷き、ラミルファが親指を立てて応じる。フロースが念話に加わった。


《焔神様、邪神様、頼んだよ》

《ですが、全員での脱出は無理です。聖威師が皆がいなくなれば、強硬派は血眼になって追いかけて来てしまいます。誰かは話をする役として残留しなくてはなりません》

《私たちが残り、神々を説得します。ですが上手く行くか分かりません。この場は私たちに任せ、現役の役職者は避難しなさい》


 佳良とオーネリアが言う。目を剥いたアマーリエは首を横に振った。


《そんな、私たちだけ逃げるなんてできません。一緒に……》

《良いから。例え遊運命神様を抑えられたとしても、強硬派が再び手荒な手段に出れば、私たちは本当に全滅してしまう。お前たちだけでも離れるんだ》

ありがとうございました。

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