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23.押し寄せる神々

お読みいただきありがとうございます。

『止まって、止まりなさいあなたたち!』

『シューナー、お前が出てったことが最後の一押しにぃっ!』


 神々の後ろで揉まれているブレイズと葬邪神が叫んでいるが、雪崩のような轟音と喧騒にかき消されてしまう。

 甚大な神威の怒涛が、澎湃(ほうはい)として天堂に襲来した。烈風渦巻く修羅場の中、叫喚と怒号が錯綜する。


『ヴェーゼッ!』


 先陣を切って爆走して来たのは、妙齢の女神だ。背筋が凍るほど美しい顔立ち、くるぶしまで届くほど長い黒髪。鋭利に尖った耳と爪に、縦に裂けた瞳は鈍い灰色。左右の側頭部からはねじ曲がった角が生えている。


「鬼神様」


 アリステルが昏い碧眼を見開いた。


「鬼神様……アリステル様の主神ですか?」

「ああ。鬼神アイレーン様。我が主神にして伴侶、そして選ばれし神であり生来の荒神でもある」


 神は性別を超えた存在だが、人に似せた姿を取っている時は一応雌雄(しゆう)の別は付く外見にしている。生まれながらの荒神の中で、女神の姿をしているのは彼女だけ。その意味では紅一点と言えなくもないのだという。


『ヴェーゼ、私のヴェーゼ』


 漆黒の長髪の中に映える白い繊手を閃かせる鬼神。同格同程度の神の力を食らい、フレイムが創生した結界が相殺されて消える。


『あー! 何するんですか鬼神様!』


 中空で目を剥いたフレイムが、遠隔で防御を張り直そうとする。だが、その間隙を縫うように襲来する戦神への対応に意識を割かざるを得ない。

 結界を破った鬼神がアリステルの両手を取った。


『ここにいては危ないわ。いくら選ばれし神の愛し子とはいえ、神威で押し潰されてしまうわよ』


 そこで、蒼白な顔をした青年神が鬼神を押しのけ、アリステルの肩を掴んだ。


『無事か、我が宝玉!』

「は、はい、怨神様」

『私のことはセラルドの名で……いや、愛称でセラと呼んでおくれと言っているのに』

「いえ、今は大神官の務め中なので……」

『ちょっと怨神様、何をするのよ』


 鬼神が押し返し、怨神と小競り合いを始めた。当のアリステルは引き気味で後ずさっている。


『せ、聖威師様!』


 裂け目から出たものの、こちらに近付けず心配気な視線を向けているのは、先日昇天したマーカスだ。光となって消える直前に見た、若い姿をしている。

 だが、彼が授かった神格は高くはない。はっきり言えば低い方だ。色持ちの神や、無色の中でも高位の神々の力が満ちるこの場に乱入することは難しい。低位の神たちは隅の方に固まって騒ぎを窺っている。


 それでも何とか聖威師たちを庇おうとしてくれているのか、マーカスは足を踏み出そうとする。だが、フルードが首を横に振って制止した。


「先生、危険です。来てはいけません!」


 聖威師たちの周囲を主神が囲み、押し寄せる神々から守る。神威と神威が衝突し、随所で破裂音や小規模な爆発が起こった。


『やれやれ、私は神々の騒動にはあまり首を突っ込まんのだが……』


 渋い顔をした狼神が、愛し子の近くに待機している。フルードが主神の毛に触れながら、縋るような目で見上げた。無意識なのか癖になっているのか、こんな時までモフっている。


「狼神様、私たちに自衛の許可をいただけませんでしょうか」

『うむ、仕方あるまい。聖威師たちに身を守るための言動を許す』


 狼神の嘆息と同時に、ブレイズと葬邪神が視線を交わす。


『今のところは、世界に合わせて抑えている力を緩めるところまでは行っておらんか。さらにヒートアップする前に何とかせんと。ブレイ、お前の火球を一発上でぶっ放したら、皆驚いて静まるかもしれんぞ』

『私と同格の選ばれし神には、効果が少ないかもしれないわ。アレクの鞭で場を一打ちした方が良いかも……』


 頭を悩ませる二神の後ろでは、幼児の姿をした疫神がこの状況を指差し、腹を抱えている。乱痴気騒ぎのど真ん中を、タガの外れた絶笑が駆け抜けた。


『あっはっはっはっは、皆、大騒ぎ!』


 上方でやり合っている四柱の荒神をチラと見遣ってから一つ頷き、パチパチ手を叩く。


『ふぅん、なるほど――ドタドタ、バタバタ、楽しそう! 我、一緒に騒ぐ! 皆と遊ぶ!』

『駄目よ、ディス!』

『やめんか、お前まで突っ込んだら収拾が付かん!』


 青ざめたブレイズと額に青筋を浮かせた葬邪神が、混乱のるつぼに飛び込もうとする疫神の衣や首根っこを掴み、二柱がかりで引き戻す。


 主神たちの間をすり抜けた一柱がアマーリエの左袖を引いた。


『おいで、我らの同胞』

ありがとうございました。

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