18.三たびの脅威
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「大変な夜だったようですね」
「誰にも大事がなくて良かった」
食事を終え、雨空を見上げながら天堂に行くと、皇国の聖威師たちもちょうど到着したところだった。佳良と当真が声をかけて来る。
彼らに付いていた鷹神が時空神と視線を合わせ、フレイムとフロース、ラミルファとも頷き合い、ふっとかき消える。ここはフレイムたちに任せ、天界に還ったのだ。追って葬邪神を呼んでくれるだろう。
「それで、防御壁が発動しなかったのだって?」
鷹神と時空神を見送った当波が、さっそく本題に入った。部屋の中にある長卓と椅子にめいめい腰掛け、虎と氷塊の攻撃について話していく。途中でフレイムたちも補足を挟み、大体のあらましを伝え終わった。
「遊運命神様は一体どのようなお考えなのかしら」
「交信ができないのではこちらも手の打ちようがありません」
「向こうの意図が不明なままではね」
恵奈に続き、裕奈と当利も口を開く。裕奈は母を、当利は父を、そのまま小さくしたような容姿だが、じっくり見てみれば目元や口元はもう片方の親と似ている。
「聖威師は天の神に逆らえない。しかも、選ばれし神は私たちより神格が上だ。本気で来られたらどうにも――」
ライナスの言葉に乗って、パキンと音が鳴った。皆が口を閉ざし、音源を見る。
ステンドグラスのランプがひび割れていた。室内の空気が鋭利さを帯び、調度品がカタカタと不穏な音を立てる。
「来やがったか」
フレイムとフロース、ラミルファが一斉に神威を解放する。アマーリエたちが弾かれたように立ち上がると、ランプが砕け散り、窓の一部が粉々になる。甚大な神威が逆巻いた。瞬間、瞠目したのは泡の神だ。
『違う……氷で襲って来た神威じゃない』
『ああ、虎を象ってたのとも別の力だ』
フレイムも山吹色の目を眇めて唸る。
『神威の深さを感じる限り、僕たちと同格の神のようだが……この重厚な御稜威は荒れ神だ』
周囲を窺うラミルファが、手振りで聖威師たちに下がるよう促した。素直に従いながら、アマーリエたちは一箇所に集まる。自分たちが神威の重圧に制圧されていないのは、フレイムたちが自らの力を放って相殺しているからだ。
涼やかな美貌から色を失くしたフロースが首肯する。
『だけど、怒り狂っている気配が無い。理性と平静を保ったまま荒れている――これは生来の荒神の気だ。というか、力が二つ重なってないか。二柱いる……?』
天井から吊り下がる煌びやかなシャンデリアが明滅し、取り付けられていた金銀玉が水風船のように弾けた。無数に砕けた色とりどりの宝石が、室内の光に反射してキラキラと宙を踊る。色彩豊かな破片の乱舞を貫き、激烈な閃光が走り抜けた。
「きゃあ!」
「つっ……」
アマーリエは瞼を抑え、苦悶の叫び声を上げる。他の聖威師たちもだ。目を閉ざすのが間に合わず、凄まじい爆光に視界を灼かれてしまった。聖威で視力を回復しようとするが、神威の光によるダメージは容易には癒せない。
(駄目だわ、見えない……! 聖威で視るのに切り替えなくては)
視覚を目から聖威に切り替えると、二色の流星が、テーブルや椅子を思い切り良く粉砕しながら室内を翔けている光景が映った。光の色は蘇芳と群青。共に凄絶な威圧を噴き出している。
『やはり防御壁が働かないね。どういうことなのだろう』
『泡神様、ユフィーたちを頼む!』
『分かった』
フレイムが聖獣も含めた聖威師たちを囲う結界を張り、訝しむラミルファと共に臨戦態勢に入った。生まれながらの荒神の相手が務まるのは、同じ存在だけだ。フロースはアマーリエたちを守るように結界の前に立つ。
だが、三神が身構えたのを見た蘇芳と群青の光は、ふわりとその勢いを殺す。輝きが解け、二つの影が顕現した。
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